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48.土精《1》

 南原さんが子爵位を受け取り、宰相になった。これでジパング王国の貴族は三人に増えた。もし凛津が男爵になることを受け入れてくれたら、貴族が四人に増えるのになぁ。


「じゃあ俺は凛津を呼んできますね」


「何でだ?」


「凛津? 誰です?」


 俺が凛津を呼んでくることに先輩は疑問を抱き、南原さんはそもそも凛津が誰か知らなかった。


 あー、そういえば南原さんは凛津のこととかまったく話していなかったな。


 面倒だったので、先輩に話した内容から重要な部分だけ掻い摘まんで南原さんに説明をした。


 クソガキを牢屋にぶち込んだエピソードは省いたよ。あいつらの話を聞いてムカつくことはあれど、楽しくなったりはしないし。


「私が部屋で本を読んでいる間にそんなことがあったんですね」


「ええ。先輩も凛津とはまだ会っていないので、二人がそろっている今のうちに凛津を紹介しておこうと思いまして」


「なるほど、だから俊也が呼びに行こうとしたのか」


「はい、そういうことです。というわけで、凛津を呼びに行ってきますね」


 俺は居間から廊下に出て、凛津に割り当てた部屋に向かって歩いた。


 他のクソガキどもには城下にある家を貸し出したが、凛津は特別枠でマヨヒガの屋敷の部屋に住まわせることにした。


 凛津が男爵になることを断ったとしても、また別のプロセスで外務大臣を任せたいと思っている。それほど異能が便利だからこその、特別枠だ。


「凛津、いるか?」


 凛津に割り当てた部屋の前で立ち止まり、襖越しに凛津へ呼びかける。


「入っていいよ」


「そうか? わかった」


 うなずいてから襖をスライドさせてから部屋に入る。凛津は部屋の中央に敷いてある布団の上で横になっていた。


「もう寝るのか?」


「いや、長旅で疲れていたから休憩してたんだよ」


 そう言いながら起き上がった凛津は、(だる)そうにため息を吐いた。


 聞けば、凛津達は山の中にある全寮制高校の生徒だったらしい。だがモンスターが周囲を跋扈していて、逃げ出すことが出来ずに引きこもっていた。


 しかし教師達が命懸けでモンスターを食い止めて生徒を逃がし、引率するために生徒とともに逃げ出した一人の教師を中心とするグループで安全な場所を目指していたようだ。


 そして山の中の学校から逃げ出し、今日この日にジパング王国の王都に辿り着くまでにおよそ三年ほどの時間を要した。


 その三年間ずっと定住することなく進み続けて楽園を探していたと言うんだから驚きだ。


 やっと安息の地を見つけ、凛津は三年ぶりに安心して休むことが出来たのだ。そんな彼女なので、気怠げなのは当然のことである。


「実は凛津に会わせたい人がいてな」


「誰?」


「二人の貴族だ。それぞれの役職は法務大臣と宰相になる」


「そう言えばジパング王国の貴族って何人いるんだ?」


「ジパング王国はまだ建国したばかりだからな。貴族はまだ三人しかいない。その三人の内の一人の貴族が、さっき凛津も会ったミラージュだ」


「ああ、あの人か。あの公爵さんは何の役職を任されてるんだ?」


「ミラージュには爵位だけ与えていて、役職は与えていないぞ」


 ミラージュ以外の蜃の分身は熱心に働いてくれるんだが……。ミラージュに役職を与えようとすると、あいつは逃げるんだよなぁ。


 理由を聞いてみたら、ミラージュ以外の分身が働いているんだから分身の一人くらい働かなくたっていいじゃんってことらしい。


 まあミラージュに役職を与えても真面目に働かなそうなので、あいつには役職を与えてないんだよ。


「法務大臣と宰相は、さっき会ったミラージュさんより地位が上なのか?」


「大臣という役職を与えられているから、地位はミラージュより高いとも言えるが……爵位はどちらもミラージュより下だ。法務大臣を任せているのが侯爵で、宰相を任せているのが子爵になる」


 爵位が高いからと言って大臣になれるわけではないからな。


「ミラージュさんより爵位は低いけど、侯爵と子爵ってどっちもオレの爵位より上なんだけど……」


「お、何だ? オレの爵位なんて言うってことは、男爵になることを受け入れるのか?」


「ち、違う! まだ受け入れたわけじゃないからな!」


 ちょっと慌てたように凛津は否定した。


 …………ふぅむ、慌てた凛津も可愛いな。ツンデレみたいだ。ちょっと興奮してきた。




◇ ◆ ◇




「キュウッ!」


 可愛らしい鳴き声。だが、そんな鳴き声を発した存在は決して可愛らしくはない。


 いや、少し語弊があるな。可愛らしい鳴き声を発した生物の見た目は非常に可愛らしい。しかし、存在そのものはまったく可愛らしいない。


 というのも、鳴き声の主がモンスターだからだ。といってもFランクなので、覚醒者からしたら雑魚中の雑魚なのだが。


 そのモンスターの名は腐肉喰い。小さなネズミの姿をしていて、最弱モンスターであるスライムに次ぐ雑魚である。


 けれども非覚醒者の一般人は腐肉喰いに手も足も出ないので、存在そのものは可愛らしいというより物騒だ。


 なお、ネズミの見た目は可愛らしくないという異論は認めん。


 ネズミーランドにいる鼻が詰まったような声のマウスは皆大好きなくせに、本物のネズミを嫌いな人が多いというのはおかしくないかな? かな?


 ……そんなことはさておき。今何をしているかっていうと、腐肉喰いの『気配察知』と『空間把握』のスキルで()()()()()()()()を探している。


 その探しているモンスターはノームと言って、大地を司る大精霊だ。


 俺は凛津を先輩と南原さんのいる居間に連れて行ったあとで、ノームを探すために外に出た。そうして今に至る。


 女の人は女の人としか話せない話題があると思うので、先輩と南原さんの凛津との顔合わせには参加しなかったのだ。


「どうやら腐肉喰いはノームを見つけたみたいだな」


 クロウの背中に乗りながら、俺はそう呟いた。


 なぜヒッポグリフではなく八咫烏に跨がっているかというと、ノームが強いからである。


 ノームと戦闘になったら確実にヒッポグリフは死ぬからな。だから乗り心地が悪いのを我慢しつつ、クロウに乗っているのだ。


「そのようだのぅ」


「なら腐肉喰いをカードに送還しないとな」


 ヒッポグリフと同様に、腐肉喰いもノームとの戦闘に巻き込まれたら死ぬだろう。なのでノームのいる場所に向かう前に腐肉喰いをカードに送還しなくてはならない。


 俺は自分が着る服の胸ポケットから顔を出す腐肉喰いの頭を撫でてから、カードに送還した。


「よし。じゃあ腐肉喰いが指し示していた方角に向かって進んでくれ」


「相わかった」


 方向転換をしたクロウは、スピードを上げながらぐんぐんと進んでいった。


 俺はその間にリビングアーマーとフラガラッハを召喚して、装備する。


「頼んだぞ、フラガラッハ」


「はい、頼まれました!」


 フラガラッハがやる気のみなぎった返事をしてくる。張り切りすぎやろ。


 そうしてしばらく飛んでいるとクロウが空中で停止し、ホバリングを始めた。


「真下にノームがおるぞ」


「どれどれ」


 真下を覗き込んでみると、こちらを見上げながら警戒している一つの人影が見える。あの人影がノームかな。


「ノームは我と同じくCランク上位相当のモンスターだ。心せよ」


 そう、ノームはCランク上位に位置するモンスターだ。ノームはイザナミほど強いわけではないが、『太陽の化身』スキルによって強化された状態のクロウとほぼ同等と言っていいほどの強さを有する。


 それ故に、ノーム一体を倒すのに数時間も掛かる場合もある。『劣雷槍』の『擬神罰』を発動すれば瞬殺だが、『擬神罰』の発動にはCランクモンスターの魔石を五十個も要するのでコスパが悪いのだ。


「さて、じゃあやるぞ」


 俺はクロウの背から飛び降り、グリモワールによって生み出した炎を剣身に纏うフラガラッハを落下中に構えた。


「『覚醒』を発動させろ、フラガラッハ!」


「はいっ!」


 俺の指示で『覚醒』のネームドスキルを発動し、フラガラッハはCランクの付喪神にランクアップする。


「くたばれーーー!」


 と叫び、俺は落下しながらノーム目掛けてフラガラッハを振り下ろした。



 昨日に引き続きポイントの伸びがいつもより早いなと思っていたら、本作がランキングに載っていたようです。


 ランキングに載っただけでPVがこんなに増えるとは思わなかったので、昨日と同様に驚いています。


 本作を読んでくれている全ての方に、この場を借りてお礼申し上げます!


 貴重な時間を使って本作を読んでくださり、ありがとうございます!


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