4.鎧の性能
「よっしゃああぁぁぁっ!」
俺はリビングアーマーのカードを掲げて叫んだ。これで俺は攻撃だけでなく、防御も出来るようになるのだ。
嬉しすぎてつい叫んじゃう時ってあるだろ?
え? ないの? マジで?
まあそれはいいとして、まずはリビングアーマーのステータスを確認してみよう。
種族:リビングアーマー
ランク:D
攻撃力:70
防御力:720
【スキル】
●装備者強化・体術:この防具の装備者の身体能力を底上げし、達人のような体術を繰り出せるようにする。また、戦闘の際には装備者の動きを補助する。
●鎧化:一時的に鎧と化して自発的に動けなくなる代わりに、防御力を1.5倍にする。
さすが無機物系の鎧モンスターだ。防御力が720ってかなり高い。それに『鎧化』を発動したら防御力が1.5倍の1080になるな。
それにインテリジェンス・ソードと似たようなスキルがある。装備可能なモンスターは全て『装備者強化』系のスキルを持っているんだろうか。
ちなみにスキル『鎧化』の読み方は『鎧化』だよ。読み方を間違えるとドラクエになるから、そこんとこ注意しろ。
まずは針で指に傷を付けて血をカードに一滴だけ垂らしてから、召喚するように念じる。すると目の前が眩しく光り、それが収まると西洋鎧が立っていた。
「ふむ……右手を上げてみて」
指示を出すと、リビングアーマーは大人しく右手を上げる。
次に、俺はじっとしているように命じてから、リビングアーマーの中を覗き込む。鎧の中は、当然ながらがらんどうだった。
「じゃあ装備するけど良いか?」
装備しても良いか聞いてみると、リビングアーマーはうなずいてから宙に浮き、空中でバラバラになって俺の体に吸い寄せられるように向かってくる。
驚いて動けない間に、兜は頭に、肩当ては肩に、首鎧は首に、胸当ては胸へとくっついて勝手に装備されていく。
最後に手甲が手にはまり、装備が完了した。
「なるほど、リビングアーマーはこうやって自動的に装備されるのか。楽だしカッコイイな」
手を握ったり開いたり、飛び跳ねたりしてリビングアーマーの具合を確かめてみる。
どうやらこの状態でも比較的スムーズに動けるようだ。
このまま戦闘をしてみて、違和感がないかも確かめた方が良いだろう。
腐肉喰いを召喚して、モンスターのいる場所へ案内をさせる。戦闘に巻き込まれたら危ないので、腐肉喰いをカードに送還してから、戦闘を開始した。
相手はDランクモンスターのハイ・オーク。
まずはインテリジェンス・ソードで攻撃せず、リビングアーマーのスキルである『装備者強化・体術』の効果を確かめる。
拳を構えて、一気にハイ・オークの腹にパンチを叩き込む。それから流れるような動作で回し蹴りを頭にくらわせ、ハイ・オークを地面に倒した。
……すげぇ。格闘なんてやったことないのに出来たよ。それに、明らかに俺の体のスペックでは出来ない動きで回し蹴りをしていた。
これが、『装備者強化・体術』の説明欄に書いてあった装備者の動きの補助か。補助されただけであんな回し蹴りも出来るようになるとは……。
あとは『鎧化』の確認だ。
「リビングアーマー。『鎧化』ってスキルを発動してくれ」
そうすると、リビングアーマーが発光した。これが『鎧化』を発動した際のエフェクトなのだろうか。
まあいい。戦闘で確かめてみれば良いからな。ちょうどハイ・オークも立ち上がったことだし。
俺は走り出し、ハイ・オークに飛び蹴りをかます。それから追撃しようとするが、今度は思ったように動かない。
どうも『鎧化』を発動すると、リビングアーマーは普通の鎧のように動くことが出来なくなり、動作のアシストがなくなる。その代わりに、防御力が上昇するらしい。
だから野生のリビングアーマーどもは、いくら防御力が上昇するとしても、この『鎧化』スキルを使わないのだろう。
このスキルを発動するとリビングアーマーは単体で動けなくなって、装備者がいないと役立たずになるからな。
「リビングアーマー、『鎧化』のスキルを解除して俺の動きを補助してくれ」
そう言った途端、リビングアーマーは俺の動きをアシストしてハイ・オークを無傷で仕留めた。
「お、カードがドロップしたな」
ハイ・オークを倒すと、魔石ではなくカードがドロップした。俺はそれを拾うと、驚いて目を見開いた。
何とそのカードは、両面とも真っさらで何も書かれていないのだ。このカードは何なのだろうか。
試しにモンスターカードと同じように血を垂らしてみると、カードの表面が変化した。
名称:人間の血液
品質:F
解説:ツカハラ・シュンヤの血液。鉄分が不足していて、『疲労』の状態異常になっている。
「え?」
何か俺が『疲労』の状態異常になっているんだが。最近疲れやすくて歳かな、と思っていたら鉄分不足だったのかよ。
まあモンスターのせいで食料が貴重品になっているからな。食事も偏っちゃうんだよ。仕方ない。
…………って待て! 何だこれ!? どうなってるんだ!?
モンスターを召喚するのと同様に、血液を取り出すように念じてみると、そのカードからポタリと血が垂れた。
カードを見てみると、先ほどのようにまた両面が真っ白の状態に戻っている。
ポケットに手を突っ込んで何かないか探ると、モンスターの魔石があったので、真っ白のカードに押し付けてさっきみたいになるように念じる。
先ほどと同じように魔石はカードに飲み込まれ、カードの表面がまたも変化する。
名称:リビングアーマーの魔石
品質:D
解説:Dランクモンスターであるリビングアーマーの魔石。魔石は現在通貨の代用品として使われていて、この魔石は日本円でおよそ一万円ほどの価値がある。
すごい。実際に、Dランクモンスターの魔石で大体一万円分くらいの食料が買えるのだ。カードに書かれている解説は、かなり正確だということがわかる。
このカードは収納カードと名付けるか。収納カードもモンスターカードと同じで、俺が倒した場合しかドロップしないものなんだろう。
あとはこのカード一枚につき、どれくらいの量を収納出来るのか調べる必要がある。早速家に帰ってから調べてみよう。
◇ ◆ ◇
あれから帰宅し、いろいろなものを収納カードに収納して、このカードにどれくらい収納出来るのかを調べてみた。
その結果、以下のことがわかった。
・収納カードには一枚につき、一つのものしか収納出来ない。
・収納出来るのは一つだが、大きさは関係ない。
・また、小物などを詰め込んだ袋も収納可能。
まとめると、家くらい大きなものでも一つだけなら収納が出来るし、いっぱいものがあったとしても一つの袋に纏めてしまえば収納可能だ。
超便利だ。何だこのカードは。質量保存の法則を真っ向から無視してやがる。物理さんに喧嘩売ってるよ。
まあ、モンスターみたいなファンタジー世界の住人が現れた時点で物理さんは涙目だろう。
というか、物理学者はこの現象をどうやって説明するのだろうか。魔法を使える覚醒者なんて存在は、どうやっても物理法則に則って説明出来るはずもないのだが。
おっと、話が脱線したな。収納カードの説明に戻ろう。
収納カードは明らかに物理さんに喧嘩腰だが、生き物やモンスターなどはさすがに収納出来なかった。それが出来たら、俺の能力のチートっぷりに頭抱えるレベルだよ。
もし出来たなら、強いモンスターに遭遇しても収納カードに自分を収納することで戦闘を回避出来るしな。
ただこのカードがあれば、家を留守にしている間に貴重品を盗まれる心配はないな。なんせ、貴重品を簡単に持ち運べるわけだし。
というか、家ごと収納出来るんじゃないか? ちょっと試してみるか。
「───出来ちゃったよ」
俺は家の庭に立っているが敷地内に家はなく、空き地のような感じになってしまっている。
名称:二階建ての一軒家
品質:D
解説:二階建ての一軒家で、外見は和モダンとなっている。かなりの大きさではあるが、モンスターが跋扈する世界になって空き家が多数あるため、価値は低くなっている。
なん……だと……。我が家の品質がリビングアーマーの魔石と同等だと!? あんなに苦労してローンを返済したのに!!
あ、やばい……。ショックで涙が溢れてきたよ。
今日はベッドで泣き腫らして枕を濡らそう。そうしよう。
俺は家を元の位置に戻してから、家の中に入った。
中を見回すが、家具の位置などに変わりはない。おそらく、袋と同じだ。家具などのものは家の中にあるため、家具を含めて『一つ』だと認識されたのだろう。
これで館山から離れて日本を旅するにしても、愛しのマイホームごと持って行ける。嬉しい限りだ。
……だからと言って、我が家の価値がリビングアーマーの魔石と同じだということは断固として認めんが。