47.宰相
クソガキどもの大逆罪で処刑するために、マヨヒガの前まで両腕を失った味方を引きずりながらやって参りましたっ!
当然、味方以外のクソガキどもも教師を含めて全員連れてきている。
マヨヒガはヴェルサイユ宮殿に隣接させ、その二つを渡り廊下で繋げた。繋げた方法は簡単で、マヨヒガの『屋敷改変』のスキルを使って屋敷の形を変えたのだ。
屋敷を改変したのはヴェルサイユ宮殿と渡り廊下で繋げた部分だけで、純日本式の外観・内観にはまったく手を加えていない。
そのため洋風であるヴェルサイユ宮殿と和風であるマヨヒガの屋敷が隣り合っているという、違和感しかない王城が完成することになった。これぞまさしく和洋折衷。
しかも本丸や天守としての役割があるはずのヴェルサイユ宮殿より、後付けで隣接されたマヨヒガの屋敷の方が侵入が困難というおかしなことが起こっている。
このことから、政はヴェルサイユ宮殿ではなくマヨヒガの屋敷でやった方がいいんじゃないかと先輩やミラージュ達と話し合っている最中だ。
たた王都は蜃の体内にあるので、王都内にいる者の動向を蜃は逐一把握出来る。そのため、ヴェルサイユ宮殿に侵入した奴がいたとしてもすぐにわかるのだ。
だからぶっちゃけ、どこで政をしても安全だよねっていう意見でまとまりつつある。それにまだ他国と接触したことがないから密偵は放たれていないし。
「マスター、考え事ですか?」
「ああ、ちょっと考え事をしてた。───じゃあ塀の中に一人ずつ入っていってくれ」
後半はクソガキどもに向けて言った。
俺が促したことでクソガキどもが一人ずつマヨヒガの敷地内へと入っていく。味方は両腕を失ったことでバランスが取れずに一人では歩けないので、俺がマヨヒガの敷地内へ放り込んでやった。感謝しろ。
念のために凛津にもマヨヒガの塀の中に入ってもらったが、『意思ある屋敷』のスキルが発動しなかったので彼女は害意を持っていないということだろう。
俺は安心したよ。もし凛津が俺達に対して害意を持っていたら、処刑しなくてはならなかったからな。凛津を殺すなんて、オレっ娘属性である俺には心苦しいからな。
待て待て、お前は前に清楚な女の子が好みだとか言っていただろう、だって? 馬鹿野郎! 俺の守備範囲はめっちゃ広いんだよ!
清楚だったり、ロリっ娘、ボクっ娘、オレっ娘、ケモ耳を始めとする人外娘なんかも大好物だ。さすがに動物とかが二足歩行で歩いているような感じの人外娘は無理だけどね。
ちなみに、サキュバスとかも大歓迎である。クロウに聞いたところサキュバスはCランクらしいので、もしサキュバスを見掛けたらカードをゲットしたいね。
まあこれらは俺の異性の好みというわけではない。おじいちゃんが孫を可愛がるような、人が猫や犬を可愛がるようなものと同じものだ。これはエロスやフィリアではなく、アガペーなのだ。
対して俺の異性の好みは、ボーイッシュな女の子になる。なので、先輩は俺の好みにドストライクってことだ。
大学で先輩と知り合ってすぐに一目惚れしちゃったからなぁ。先輩を初めて見た時、電気が俺の体を走ったかのような衝撃を受けた。
体中を電気が駆け巡ったが、それが一目惚れによるものだと自覚するのに時間が掛かった。そのせいで告白のタイミングを逸してしまったんだよ。
その後も告白出来ずに大学を卒業したが、社会人になっても先輩と連絡を取り合う関係を維持出来たのは奇跡ではないかと思っている。
俺は見た目だけで先輩に惚れたわけじゃないぞ。あの優しい性格も俺は好きだからな。……怒ると怖いけどね。
話を戻して、今ちょうど最後のクソガキが門をくぐり抜けてマヨヒガの敷地内に入った。
百人ほどいるクソガキどもの内、マヨヒガの『意思ある屋敷』のスキルに反応があったのは五人。つまり、この五人が俺達に対して害意を持っていることになる。
その五人の中には、俺に取り引きを持ちかけてきたクソガキや味方などもいる。
「この五人はどうするっす? マスターが直接殺すんすか?」
「いや、殺すのはミラージュ達に任せる」
「了解っす。ちゃんと殺しておきますっすねぇ」
ミラージュ達、というのは蜃の分身達のことを指している。今現在のジパング王国の国民は全員が蜃の分身なので、蜃こそがジパング王国の陰の支配者と言っても過言ではない。
王城で働いている使用人なども全て蜃の分身であり、看守や死刑執行人も蜃の分身だ。だから、ミラージュ達に任せればこの五人を殺しておいてくれる。
「なぜ俺を……! 待て、これは何かの間違いだ!」
俺に取り引きを持ちかけてきたクソガキは、喚きながら蜃の分身に連行されていった。ざまぁみろ!
味方は全てを諦めたようで、何もない空中をボーッと見つめながら連行された。その他の三人も似たような感じで、泣いたり怒ったり叫んだりしながら牢屋にぶち込まれた。
「公開処刑してみるか?」
「どうっすかね、公開処刑って需要ないと思うんすけど」
公開処刑は古くから行われていた。見せしめの効果を狙って公開処刑が行われていたようだが、民衆は公開処刑を娯楽として認識していたらしい。
今の時代に公開処刑を娯楽と考える人はいないから、ミラージュの言う通り公開処刑の需要はないだろう。というか、公開処刑に需要があったら怖いよ。
そんな俺とミラージュの会話を聞いていた凛津はドン引きしていたが、彼女はまだこの世界の荒波にもまれていないようだな。
こんな世界になって治安が悪化しているんだから、殺さなければ殺されるんだぞ。躊躇なく人を殺せるように、せめて人が死んでも動揺しないくらいに凛津にはなってもらいたい。
なお、凛津を含むほぼ全ての生徒達がマヨヒガの庭にいたガーゴイルを見て、胃の内容物を吐き出していたことをここに明記しておく。
あ、言っておくけど俺はゲロとかには興奮しないからな。俺はそういうの苦手だ。リョナとかではまったく興奮出来ん。
まあ俺は純愛だったら何でもいい。だからNTRは許すまじ!!
◇ ◆ ◇
「───ということがあり、凛津に男爵位を与えました」
ここはマヨヒガの日本家屋の居間。俺はその居間で、先輩にことの経緯を説明していた。
「ほう、なるほどな。そういうことがあって、その吉川という女を男爵にしたのか」
「あ、でもまだ凛津からは男爵になるかの返事は貰ってませんよ」
「そうなのか?」
「ええ。嘘を見抜く異能を持っていたのでスカウトしたんですが、貴族になると責務を課せられるということを伝えたら返事は保留にしてくれと言われまして」
「もし吉川が女男爵になることを受け入れたら、彼女には外務大臣をやらせるつもりなんだろう?」
「よくわかりましたね。と言っても、ある程度の功績を挙げてからになりますけど」
「その場合、香織の役職はどうなる?」
先輩と俺の間で南原さんを外務大臣にしようと話し合っていたのだが、凛津を外務大臣にすることに決めたので南原さんの役職が未定になってしまった。
そのことで先輩と話し合うために、南原さんはこの場には呼んでいない。居間に呼んでいるのは先輩だけであり、俺達以外には誰もいない。
「そもそも、南原さんには無理に役職を与えずにミラージュみたいに爵位だけ与えるのも有りだと思うんですよ」
ミラージュはジパング王国の公爵だが、役職は与えていない。というのも、雑務とかはミラージュ以外の蜃の分身達がやってくれているので、ミラージュには役職を与えなくても問題はないのだ。
「いや、それがなぁ……。香織は与えられた役職をきちんとこなして皆の役に立つぞって張り切っているんだよ」
「マジですかぁ……」
俺は思わず頭を抱えた。
南原さんが張り切っているのに仕事を割り振らなかったら、彼女を悲しませてしまう。
先輩いわく、南原さんはまだ無位無冠なので、いつ爵位や役職が与えられるのか心待ちにしているという。
「爵位なら、南原さんにはファミレスで建国を宣言した時に公爵位を与えようとしましたけど」
「香織は公爵とかじゃなくて子爵くらいでいいらしい」
「何でです?」
「あまり目立ちたくないようだ」
「だから公爵位を与えようとした時に断られたんですね」
「そういうことだ」
じゃあ南原さんに与える爵位は子爵にするとして、役職はどうしようか。
「提案だが、香織を宰相にするのはどうだろうか?」
「宰相、ですか?」
宰相か。日本などでは内閣総理大臣の通称として宰相が使われていることからわかる通り、王や皇帝などの君主の命で政などを補佐するのが宰相だ。
まだ政治などにおける俺の補佐役はいない。その補佐役を南原さんに任せるということか。
「良いじゃないですか」
「だろう?」
「早速、南原さんを呼んで宰相に任命しましょうか」
ということで先輩が居間を出て、南原さんを連れて戻ってきた。
「塚原さんが私を呼んでいるということでしたが、どうしたんですか?」
「そのことを話す前に、まずは座ってください」
先輩と南原さんが床に腰を下ろす。俺はあぐらを掻いているが、二人は正座をしているな。足が痺れないのかな。
「先輩と話し合った結果、南原さんには子爵位を与え、宰相に任命にすることに決まりました」
「宰相ということは、塚原さんの補佐をするということですか?」
「そうなります。よろしく頼みますよ」
「はい、精一杯頑張りますねっ!」
おお、張り切っていると先輩は言っていたが本当だったようだな……。
南原さんは政治とかにくわしくないみたいなので、しばらくは政治について学んでもらう必要があるんだけど、今から張り切ってると疲れちゃわないかなぁ。
今日、ついに本作の評価ポイントが100を越えました! ありがとうございます!
思っていたより評価ポイントが100を越えるのが早くて驚きました。
ブックマークや評価の加減に一喜一憂する日々です。ポイントが増えるたびに執筆の励みになっておりますので、本当にありがとうございます!
次話から少しずつ物語が動き出します。