46.大逆罪
教師他生徒の何名かが味方を止めようとしているが、もう遅いぞ。王である俺に向かって魔法を放とうとしている時点で、大逆罪などの重罪を犯していることになる。
俺=国という等式が成り立っているので、俺に害を加える行為は国に対しての反逆に該当するのだ。故にその罪は重い。
これは先輩が作った法律であり、法律に反したら処すると街に入る前にこいつらには伝えていたはずだ。つまり、止めてももう遅いのだ。
「大逆罪は万死に値する」
俺に向かって放たれた魔法をフラガラッハで切り刻む。ネームドモンスターを舐めるなよ。これくらいの魔法を消滅させるなど容易いわ。
「な、なぜ僕の魔法を───」
「魔法ってのはこうするんだよ!」
グリモワールを収納カードから取り出し、紙幣を消費して炎の魔法を生み出す。その炎をフラガラッハの剣身に纏わせた。
「お前も魔法使いだっのか!」
「いや、俺は魔法使いではなく魔物使いだ。炎の魔法を操れるのは魔導書のお陰だよ」
炎の魔導書グリモワール。魔導書のネームドアイテムであり、俺みたいな特殊な異能を持っていない限り入手不可能な特別なアイテムだ。
そもそも、俺以外の人間が容易く魔導具を手に入れることが出来るわけない。そんな魔導具の中でも、とびきりレアなのが魔導書になる。
その魔導書の中でも、グリモワールはスーパーレアなネームドアイテムなのだ。そこら辺にいる覚醒者のクソガキには知るよしもないだろう。
俺の異能って汎用性高いよなぁ。
唯一俺以外の人間が魔導具を手に入れられる方法というと、ドワーフの造った魔導具の武器を盗み出すくらいしかあるまい。
ただし、モンスターを仲間に出来るという規格外の異能を持っている俺ですらドワーフからは逃げ出すしかなかったのだ。
俺以外の奴らがドワーフから武器を盗むなんて、命がいくつあっても足りないと思うよ。
「魔物使いならなぜモンスターを戦わせないんだ!」
「いや、テメェくらいならモンスターをぽんぽん召喚する必要なんてねぇよ」
「貴様あああぁぁぁぁーーーっ!!」
「黙れ」
魔法型の異能を持つ覚醒者というのは、物理型の異能を持つ覚醒者より圧倒的に強い。そんな魔法型の中でも、魔力を放って攻撃する魔法放出系の異能の強さは飛び抜けている。
味方とかいうこのクソガキは、魔法放出系の異能を持っている。つまり、覚醒者の中でもトップクラスの強さだということだ。
館山第三避難所のリーダー格だった秦野も魔法放出系の異能持ちなので、当然強かった。俺には通じなかったようだがな(ドヤァ)。
で、魔法放出系の異能を持つ覚醒者には共通点がある。そう、魔法を放つには手のひらを相手に向けるモーションが必要なのだ。
さて、ここで問題だ。では、魔法放出系の異能を持つ覚醒者の両腕を切り落とせばどうなるでしょうか?
答えは───
「こうなる」
俺の目の前では両腕を失った味方が床に倒れている。彼は俺を睨みつけながら魔法を放とうとしているが、魔法が放たれる気配はない。
何とビックリ、魔法放出系の異能を持つ覚醒者は両腕を失うと魔法が放てなくなるんだよ。これは以前検証してわかったことだ。
誰を実験台にしたかって? そりゃ、異能を使って横暴な振る舞いをしていたクズどもを実験台にしたさ。安心したまえ。
「ぐああぁ。な、なぜ魔法が……」
「両腕を失ったら魔法は放てなくなるんだぜ? 残念だったな?」
「え…………」
味方は絶望したような表情になり、そのまま固まった。はっはっはっ、そういう反応は好きだよ。もしかしたら俺はSっ気があるのかもな。
Sっ気云々はおいておくとして、フラガラッハの剣身に炎を纏わせたのは、腕を切り落とした時に剣身に纏っている炎が傷口を焼いてくれるので失血死する心配がないからだ。
ポーションを患部に掛けることで傷口は塞がるけど、こんなクソガキのために魔石を消費して生み出したポーションをわざわざ使用するのはもったいないだろ?
「嘘だ……僕にならまだ魔法が使えるはずだ……」
何かクソガキが泣き出したんだけど。魔法を取り上げられたから泣き出すってことは、やっぱ魔法が使えるからという理由で気が大きくなっていたのか?
だからといって、同情する気はないよ。ざまぁみろ。
「両腕だけで許す気はないぞ。死んで詫びてもらおうか」
「そ、そんな……」
王ないし国家への反逆は死罪だ。両腕だけで終わるわけがない。街に入る前に渡した、ジパング王国の法律の条文が書かれた紙束をよく読んでいないのが悪い。
「ちょっと待ってよ、おっさん」
味方の首を刎ねようとしたんだが、またも横槍が入った。王の行動を中断させるということは、それだけでも失礼になるんだけど。
俺をおっさん呼ばわりした奴に顔を向ける。制服を着た男子生徒だな。長身で美形だ。美形なのがムカつくな。イケメンは滅びろ!
「誰だよお前」
「俺のこと?」
「お前しかいねぇじゃん。早く用件を言え。こいつの首が刎ねられない」
「俺は覚醒者だよ。そんなことよりおっさんさぁ、俺らと取り引きしない?」
「取り引き?」
「そう、取り引き。おっさんが味方を殺すには何ら正当性はないよね? もしここで味方を見逃してくれたら何もしないであげる」
味方がこちらに魔法を放とうとしたんだし、正義はこちら側にあるんだが。
「もし味方を殺したら?」
「王が不当に青年を殺したって城下で言いふらすよ? 王への求心力が低下すれば王政は敷けないんだし、おっさんはこの取り引きをするしか道はないぜ」
どいつもこいつも上から目線だな。最近のクソガキは偉そうなのが多いなぁ、まったく。
それで今このガキは何て言ったっけ。城下で不当に味方を殺したことを言いふらす、だっけ。
あいにく、ジパング王国の国民は今のところ全員が蜃の分身だから、そんなことを言いふらされた程度では求心力が低下することはあり得ないんだよね。
「凛津の異能を使えば、味方が俺に向けて魔法を放とうとしたことを証明出来るけど?」
「凛津はもうジパング王国の男爵だ。よって、凛津がジパング王国側に肩入れする可能性が否めない。だから正当性は証明不可能だ。チェックメイト、お遊びは終わりだぜ」
キザな野郎だな。というか何だよ、その謎理論は。もうこれ俺に対して脅迫しているんじゃないか。この男も罪人として殺そうかな。
ああ、本っっっ当に嫌だね。傲慢な人間ってのは。見てるだけで虫唾が走る。俺は自分勝手な奴は嫌いだよ(ブーメラン)。
「もう面倒だ。お前ら全員まとめて殺してやるよ。チッ! こんな面倒になるなら迎えに行かなければ良かったよ」
でも迎えに行ったお陰で、嘘を見抜く異能を持つ凛津に接触出来たのだから御の字か。
「マスター、全員殺すのはやり過ぎだと思うっすけど」
「大丈夫だ。全員の中に凛津は含んでいないから」
「あ、なら問題ないっすね」
「だろ?」
「全員の中にオレが入ってないってだけで、問題ないわけじゃないと思うんだけど!?」
「「気にしない、気にしない」」
人間ってのはいつもそうだ。苦労せずに他人から利益を搾取しようとする。そして、自分勝手で傲慢。それが人間の本質だ。そんな奴らを生かしておく理由はない。
俺達が本気で全員殺そうとしているのだと悟ると、取り引きを持ちかけてきたクソガキが怯む。生徒からは、取り引きを持ちかけたクソガキが味方を非難する声が聞こえてくる。
まあ生徒達はとばっちりで殺されるわけだから、非難もするよね。生かしていたら面倒だから、慈悲はないけど許せ。
許さなくてもいいけど、祟るのだけはマジで勘弁な。お化け屋敷とかは昔から苦手だったんだよ。
すると──
「お主ら、何をやっておるのだ……」
───アポロンの間にクロウがやって来た。クロウは呆れているが、こいつらがムカつくんだから殺すしかないだろう?
「ふむ、要するにそこの小僧を殺す正当性が証明出来れば良いのであろう?」
「うん、そうみたいだ」
「であれば、我に良い考えがある」
「考え?」
「然り」
クロウは首を縦に振った。
クロウの考えとは何だろうか。俺は凛津の異能を使った方法しか思いつかないんだが。
「クロウの考えってのはどういう?」
「マヨヒガの『意思ある屋敷』のスキルで害意があるかどうかが確かめられるぞ」
「その手があったか!」
マヨヒガの『意思ある屋敷』のスキルは、害意のある者などが敷地内に侵入した際に発動する。一人ずつマヨヒガの敷地内に入らせれば、誰が害意を持っているか正確にわかる。
さすがクロウだ。『意思ある屋敷』はマヨヒガの眷属を強化するためのスキルなのだが、言われてみればそういう使い方も出来るな。
「じゃあそうしようか」
「う~ん、私としては全員殺しても問題ないと思ったんすけどね~」
ミラージュはやや不服そうにしていたが、間延びした話し方をしているので怒っているわけではないようだ。ふざけているだけだろう。
というか、その間延びした話し方はやめい。煽られてるみたいな気持ちになるじゃん。