42.ドワーフ《2》
俺はいつの間にか、吊り目のロリっ娘ドワーフをずっと見つめていた。なんてったって瞳が大きくて可愛いし、幼女特有の控えめなちっぱい。おお、ぺたん娘だ。
……ここは天国か!?
幼女がいる。お触りOKなんだろうか? クンカクンカしていい? いいよね?
「ゴフッ!」
ずっとロリっ娘ドワーフを見ていたら、目の前にいたドワーフのおっさんに腹を殴られた。
リビングアーマーを装備して、エルダートレントから祝福を受けていなかったら死んでいるであろう攻撃だ。痛い……。
「やりやがったな! ドワーフのおっさん!」
「お? 何だ人間の小僧、俺とやる気か? あ゛?」
「当たり前だ! フラガラッハで切り刻んでやんよ!」
急に殴りやがって! せっかくロリっ娘ドワーフさんに話しかけようとしていたのに!
「そもそも、何で急に殴るんだよ!」
「お前さんがうちの娘を視姦していたからだろーが!」
「視姦なんかしてねぇよ!? ロリっ娘ドワーフがいたから興奮しただけだ!」
「あん? 文句あんのか?」
「あるよ!」
「そうか、ならこいつをくれてやろう」
そう言っておっさんドワーフは再度俺を殴った。さっきのパンチと違うことと言えば、おっさんのパンチに重みがあったから俺が数十メートルほど吹っ飛んたことか。
受け身を取れずに地面を転がり、何度も回転しているうちにやっと勢いが衰えていった。
おいおい……今の攻撃の威力はDランクというよりCランクモンスター並みだったぞ。防御力だけじゃなくて攻撃力も高すぎんだろ。
「マスター! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ!」
「一旦撤退しましょう! 走ってください!」
……仕方ない、今回は撤退しよう。だが、次来る時まで待っていてくれよ、合法ロリっ娘ドワーフちゃん!
俺は再び洞窟の外を目指して走り出し、追いかけてくるドワーフのおっさんを振り切った。
ドワーフは筋肉質で力は強いかもしれないが、その代わりスピードはそこまででもなかった。つまり、ドワーフは鈍足ということか。
ドワーフが鈍足だったことに安堵しつつ洞窟の外へと走り抜け、洞窟の入り口付近で待機していたクロウの背中に飛び乗った。
「どうしたのだ、マスターよ」
予定よりも早く俺達が洞窟から帰ってきたことで、クロウが少しだけ驚いていた。けど今は悠長に話している暇なんてないから、説明は後回しだ。
「急いで飛べ! ドワーフが追ってくる!」
「敗走するということかのぅ?」
「それで間違ってはいねぇよ。いいから早く飛べ!」
「相わかった」
俺がヒッポグリフを召喚せずにクロウに飛び乗ったことから、敗走中ということを瞬時に理解したのだろう。クロウは翼を広げ、大空へと飛び立った。
それから少しして洞窟からドワーフのおっさんが出てきたが、時すでに遅し。俺達はクロウに乗って空にいたから、ドワーフのおっさんには追いかけられまい。
ドワーフの背中には翼なんて生えてないしな。
「危機一髪でしたね」
洞窟が見えなくなるまで離れたところで、フラガラッハは安心したのか口を開いた。
「ああ、そうだな。ロリっ娘がいたのに撤退するしかなかったのは残念だったが」
本当に残念だよ。可愛い可愛いロリっ娘ドワーフちゃんがいたのに、会話も出来ずに逃げ出すことしか出来なかったなんて……。
「そろそろ我に教えてくれ。洞窟の中で何があった?」
クロウはまだ洞窟の方に視線を向けて警戒をしながら、洞窟で何があったのか尋ねてきた。
「それがさぁ……ドワーフがDランクモンスターってのはランク詐欺だと思うんだよね」
この一言に尽きる。
◇ ◆ ◇
「アハハハハ! Dランクモンスターに敗走とか、駄目駄目っすね!」
ミラージュは腹を抱えてテーブルをバンバンと叩きながら笑っていた。目には涙が浮かんでいて、笑い泣きしていやがる。
「そんな笑うなよ。ぶっ飛ばすぞ」
「いや、これは笑うしかねぇっすよ! まさかマスターがDランクモンスター相手に負けて逃げ帰ってくるとは!」
「うぜぇ」
ここは俺が建国を宣言したファミレスのソファ席だ。俺の対面の席にミラージュが座っていて、フライドポテトを頬張りながら爆笑している。
俺はそんなミラージュを見ながら、コップに入ったジュースをストローで吸う。
この席には俺とミラージュ以外には誰もいない。なぜかというと、俺が彼女一人をここに呼んだからだ。
「で、私に用事ってなんすか?」
「お前、俺がドワーフを倒しに行く時に止めようとしただろ」
「まあ、そうっすね」
「ってことは、ドワーフがCランクモンスター並みに強いってことを知っていたんじゃないか?」
「まあ、そうっすね」
「そう簡単には言ってくれないかもしれ───え、そんなあっさり認めていいのかよ!?」
先輩がいたから言いにくくて、ドワーフのことを教えてくれなかったのかもしれないとか思ってたんだけど。
だからわざわざミラージュだけをファミレスに呼び出したんだが。俺が深読みしただけか?
「マスターが深読みしただけっす」
「じゃあなんで教えてくれなかったんだよ!」
「最近のマスターは強くなって調子に乗ってるので、ドワーフに負けて伸びた天狗の鼻がへし折れればいいなぁと思ったんすよ」
「そういうことかよっ!」
そういえばクロウもミラージュと同じようなことをしてたな。ドラゴンモドキの時に。
「もしかしてお前らモンスターって、マスターの高くなった鼻を折るのが役目なのか?」
「いえ、まったく。私の場合はクロウさんと違って、マスターが負けて悔しそうにしている姿を見るのが面白そうだなと思ったという理由もあるっすし」
「テメェ、やっぱりくだらない理由だったか!」
「あむあむ……私がクロウさんと同じようにマスターのためだけを思ってやるわけないじゃないっすか」
こいつ、悪びれもせずに美味しそうにポテトを食っていやがる。何が『あむあむ』だよ。可愛い咀嚼音しやがって。
「マスターも食べたいんすか?」
「食べたいから見てたわけじゃないけど、食べていいというなら遠慮なく食べるが」
「食べていいっすよ」
ならばということで俺は右手に持ったフォークでフライドポテトを突き刺しそうとするが、それをミラージュが手で制する。
「何だよ?」
「アーン、っす!」
俺が眉間に皺を寄せると、ミラージュはフライドポテトを指で掴んで俺の顔の前に持ってきた。
「これを食えと?」
「そうっす」
「なぜ?」
「何となくっす」
理由はないのかよ。まあいいや。
ミラージュがせっかく俺の口元まで運んできたので、それを齧る。
「美味しいな」
「でしょう? 私に食べさせてもらえたから、いつもより何倍も美味しく感じるっすよね?」
「いや、いつも通りの味だけど」
と、俺は笑いながら言った。
というような話しをしていると、ファミレスの男性店員がこちらにやって来た。
「お客様、ラブラブでございますね? カップルですか?」
そう言ったこの男性店員は無論、蜃の分身だ。
「これがラブラブに見えてんの? 目が腐っているんじゃねぇか?」
俺が呆れながら言うと、店員は煙のようにフッと消え去った。分身を解除したようだ。
「何で急に店員を来させたんだ?」
「面白そうだからっす。そんなことより、いつも通りの味って言いましたっすよね?」
そんなことより!?
「まあ、いつも通りの味とは言ったな」
「つまり、いつも美味しいと思っているってことっすよね?」
……認めるのは癪だが、実際に美味しいのでうなずく。
「さすが私の街っす」
唐突な自画自賛やめろ。
でも確かに、さすがミラージュの街だ。マヨヒガみたいに防御に特化しているわけではないけど、居住性に特化した街ではある。
文明が崩壊してから4年もの間食べることが出来なかったジャンクフードなどを、こうやって食べることが出来るわけだし。その点は感謝している。
「で、そろそろ教えてくれよ。ミラージュは知ってるんだろ? Dランクモンスターのドワーフがあんなに強い理由を」
クロウとかに聞いても、ドワーフが強いことは知っていたがまさかCランクモンスター並みに強いとはと驚いているだけで、ドワーフがなぜ強いのかは知らなかったらしいんだよね。
どうやらドワーフは基本的に洞窟からあんまり出ないので、そのためドワーフに関する情報は乏しいらしい。
「しょうがないっすね。無知なマスターのために、私がドワーフについて教えてあげるっす!」
こいつは一言余計なんだよなぁ。
「まずなぜドワーフが強い理由を私が知っているのかと言うとっすね、以前ドワーフと戦ったことがあるからなんすよ。その時にドワーフ本人が、強さの理由を教えてくれたんす」
「戦ったことがあるのか」
「ええ、ドワーフはDランクのくせに強かったっすよ。一応、勝ちはしたっすけど」
「マジか。よくあんな化け物みたいな強い奴に勝てたな。あのドワーフに向けて『劣雷槍』の『擬神罰』を発動したけど倒せなかったぞ」
「それは多分、強化率の問題だと思うっす」
「強化率?」
「DランクのドワーフがCランク並みに強いのは、自身を強化するスキルを持っているかららしいっす」
そうだろうとは思っていたが、やはりドワーフは自己強化系のスキルを持っていたようだ。
DランクなのにCランク並みに強いモンスターは、自己強化系のスキルを持っている。マヨヒガの『意思ある屋敷』然り、フラガラッハの『覚醒』然り。
だからドワーフも自己強化系スキルを所持しているはずだと踏んでいたが、予想通りだったな。
「ドワーフの持つ自己強化系スキルのトリガーは?」
「酒を飲むことっす。酒を飲めば飲むほど自身が強化されていき、もし傷があっても酒さえ飲めば癒えるらしいっす」
……言われてみると、ドワーフのおっさんが土器に入った液体を飲んだあとに傷が癒えないとか口にしていたな。
ポーションだと思っていたけど、ドワーフのおっさんが飲んでいた液体は酒だったのか。
果実とかを発酵させれば簡単に酒を造れるし、おそらくドワーフのおっさんはそうやって造った酒を飲んだんだろう。
「私が倒したドワーフは少ししか酒を飲んでいなかったのであまり強化されていなかったっすけど、マスターが戦ったドワーフはかなり強化された個体だったんだと思うっす」
「酒を飲み続けていないと強化されないスキルってことか」
「くわしい条件はわからないっすけど、そうじゃないかと私は考えているっすね。無限に強化されるってことはないと思うっすけど、上限がどれくらいかはわかんないっす」
なるほど……ドワーフがDランクモンスターってのはランク詐欺だな。はっきりわかんだね。




