40.Dランク最強のモンスター
「俊也、何をしているんだい?」
その後もミラージュと一緒に王としての威厳を身につける練習をしていたら、先輩がアポロンの間に入ってきた。
先輩は笑みを浮かべているが、目は笑っていなかった。あ、やべぇ。先輩が怒った時の顔をしてるよ。
「な、何で怒ってるんですかね、先輩」
「うん? わからないのかい?」
「はい……わからないです……」
「俊也に法務大臣に任命されてから、私はずっと法律を作るのに忙しかったのだ。なのに俊也達は楽しく遊んでいた。これは怒るしかないだろう?」
「や、遊んでいたわけじゃ……」
「遊んでいただろ。何が『頭が高い』だ」
「す、すみません……」
これ、端から見たら俺より先輩の方が王様に見える気がしないか? 気のせいかな。うん、きっと気のせいだ。
「なんかマスターより内藤さんの方が王に見えるっすね」
言うんじゃねぇ。確かに先輩の方が俺より威厳があるけども。口にしていいことと悪いことがあるんだ。それ以上は言うな。
「それにな、私はまだ納得していないぞ? 何で私を侯爵にしたんだ」
「前にも言ったじゃないですか。大臣になる者にはそれなりの地位がないと駄目なんですよ」
「むぅ……」
先輩は口を尖らせた。おお、何か可愛い。
「しかし私は、一度公爵になるのを断っているじゃないか」
「先輩が公爵位を断ったから侯爵位を与えたんです」
建国宣言時に、先輩と南原さんは公爵になることを断った。そのためミラージュが公爵になったわけだ。
ただ俺は、国家の中枢は親しい者に任せたいと考えている。だから公爵の一つ下である侯爵の爵位を、法務大臣に任命するためだと言って先輩に無理矢理与えたのだ。
無理矢理与えたのは悪いと思っているが、先輩は俺と同じでモンスターを使役することが出来る覚醒者だ。権力を与えておかないと、よからぬことを考える愚か者がいないとも限らない。
だからそれなりの権力を先輩に与えることで、先輩に対して何かを企む者への抑止力としたのだ。
ということを懇切丁寧に説明する。
「……だが香織には何の爵位も与えていないじゃないか」
「南原さんにはまだどの役職にも任命していないので、爵位を与える口実がないんですよね」
俺は南原さんにも何らかの大臣職を与えたいと思っている。けど現時点で法務大臣以外の大臣職は必要ないんだよな。
外交を担う外務大臣は、そもそも建国したばかりで他の国と国交を結んでないからいらないし。
「つーか、あれ? 先輩はヴェルサイユ宮殿のこととか聞かないんですか?」
そういえば先輩が口にするのは爵位や役職のことだけで、ヴェルサイユ宮殿についてはまったく口にしていなかった。先輩と南原さんにはまだヴェルサイユ宮殿のことを話していないにもかかわらず、だ。
そのことを指摘すると、先輩は苦笑した。
「朝起きた時は驚いたけどね。ただクロウから、ヴェルサイユ宮殿を王城にすることを教えられたんだ」
ああ、なるほど。ミラージュが言っていたけど、確かクロウがフランスからヴェルサイユ宮殿を盗んできたんだったな。
「じゃあ南原さんもヴェルサイユ宮殿についてはもう知っているんですね?」
「知っているとも。クロウからヴェルサイユ宮殿のことを教えてもらった時、その場に香織もいたからな」
さすが俺のモンスターの中で一番真面目なクロウだ。フラガラッハも真面目だけど、俺やクロウ以外とはあんまり喋ろうとしないからな。内気なのかな。
「お、マスター。クロウさんがマスターのことを呼んでるっすよ」
噂をすればなんとやら。まあ本人がここに来たわけではないけど。
蜃の分身は王都や宮殿内の至るところにいる。だからクロウが俺のことを探していることがミラージュにはわかったのだろう。擬似的な電話みたいだな。
「クロウが俺を探してるってことか?」
「そうなるっす」
「要件はなんだって?」
「ドワーフを見つけたみたいっす」
おお、マジか。ついに見つけたのか、ドワーフ。
「今行くとクロウに伝えてくれ。で、クロウは今どこにいる?」
「王都上空にいるっすね。でも行かない方が良いんじゃないっすか?」
「あ? 何でだよ」
「……やっぱ言うのやめたっす」
「言わないのかよ……」
ミラージュは何も言おうとせずにそっぽを向いた。
まあ、いいや。
俺は立ち上がって高御座の腰を掛ける部分に王冠を載せてから、ヒッポグリフを召喚して跨がる。
「ということで行ってきますね、先輩」
「ああ。怪我なんかするなよ、俊也」
「元よりそのつもりです」
先輩に返事をしているうちに、俺の跨がっているヒッポグリフはクロウのいる王都の上空へと向かって進み出した。
◇ ◆ ◇
ドワーフ。またの名をドヴェルグ。それはファンタジー作品でエルフや獣人と並んでお馴染みの種族だ。
ファンタジー作品などでは男女ともに背が低く筋肉質に描かれ、男の方は髭がもっさもさだ。
女のドワーフの場合は基本的に髭は生えておらず、可愛いロリっ娘として描写されている。合法ロリってことだ。合法ロリ……嫌いじゃないです。
んで、高度な鍛冶・建築・工芸などの技術を持っていてお酒好きってのはお決まりだよね。
エルフとドワーフを仲の悪い種族として扱っている作品も多いけど、主人公がそう思っていただけでエルフとドワーフの仲はそこまで悪くなかったというパターンの作品も多い。
また、人間に友好的な種族として扱われている作品と、人間に非友好的(敵対的)な種族として扱われている作品が存在する。
この世界に出現したモンスターであるドワーフは後者であり、当然ながら人間に襲い掛かる。
エルフや獣人などもドワーフと同様に人間に非友好的に描かれている作品が多いが、獣人の場合はエルフやドワーフと違って力が弱く、そのため人間から迫害されたり奴隷にされている作品が多いという印象を受ける。
ネコ耳美少女奴隷って興奮す──ゲフン、ゲフン。……失礼、欲望が漏れてしまったみたいだ。
さて、何で俺がドワーフのことを語っているのか。もう何となくわかっているかもしれないが、今俺はヒッポグリフに乗りながらドワーフのところに向かっているからだ。
隣りではクロウも飛んでいる。彼には数日前からドワーフを探させていたんだけど、やっと見つけてくれた。
というのも、この世界に現れたドワーフも様々なファンタジー作品や神話と同様に洞窟に隠れ住んでいるから遭うのが難しいんだってさ。
俺はこのドワーフのカードが欲しい。だってドワーフのカードがあれば、硬貨を作らせたり新しく街を建築させたり出来るようになるんだぜ?
という理由もあるけど合法ロリっ娘いたらいいなとも思ってます、はい。……俺も男の子なんだから仕方ねぇじゃねぇか!
ロリっ娘だよ、ロリっ娘。それも合法だぜ?
小学生の女の子をペロペロしたりクンカクンカしたら捕まるけど、ドワーフの合法ロリっ娘なら大丈夫なんだよ! 男の夢だよ! 男の夢! ドリーム!
いや、待て。いくら合法ロリでも、ペロペロしたりクンカクンカしたら絵面的にアウトじゃないか? まさか……そんなはずは………………。
そうだよ、本人の許可さえあればクンカクンカ出来るはずッ──!
「のぅ、今お主変なことを考えてないか?」
「そ、そんなわけないじゃないか」
勘がいいじゃないか、クロウ。まさに変なことを考えていたよ。もしクロウが口を開かなかったら、もう少しで俺の性癖を画面の向こうの誰かさんに披露しているところだったぜ。女騎士のくっころとか。
ただなぁ……。この世界のオークやゴブリンって、人間の女を攫って孕ませたりはしないんだよ。残念。
「見えてきたぞ。あの洞窟の中にドワーフがいることは確認済みだ」
クロウの視線を辿ると、山の中腹にある洞窟が見えた。入り口が小さいな。
「あれか」
「あれだ。ドワーフは見える範囲で数は四体ほどいた。洞窟の奥にはさらにいるかもしれん」
「つってもドワーフはDランクモンスターだろ。Dランクはいくら群れようとも雑魚だろ?」
そう、ドワーフのランクはDだ。だけどDランクだからって油断する気はない。フラガラッハはDランクだけど、そんじょそこらのCランクモンスターより強い。ネームドだからって理由があるけどね。
「油断するでない。ドワーフはDランク最強のモンスターだ。最強の名は伊達ではないぞ」
ふーん、ドワーフってDランク最強のモンスターなんだ。まあまあ強いってことかな。それでも、俺が負けるなんてことはないだろうけど(フラグ)。
「それより、ロリっ娘ドワーフはいたか?」
「見ておらぬな」
「何だよ。じゃあさっさとドワーフどもを殲滅してカードをゲットしようぜ」
ため息を吐いた俺はフラガラッハを肩に担ぎながらヒッポグリフから飛び降り、洞窟の前に華麗に着地した。