39.王城
第二章連載開始です。
本日の午後四時頃にもう一話投稿します。
その国は明治維新によって帝政が復し、その後強引に近代化を推し進め、急速に軍事大国へと発展した。
その国は日清戦争で大国の清を打ち破り、アジアの近代国家として認められて国際的地位を向上させた。
その国は有色人種国家でありながらも日露戦争において白色人種の大国であるロシア帝国を単独で打倒し、世界中で差別されていた有色人種の人々に勇気と希望を与えた。
その国は第一次世界大戦後に発足された国際連盟の常任理事国となり、かつては五大国の一つに数えられていた東アジアの列強。
その国は満州国を始めとした数々の傀儡政権や独立政権を樹立させ、様々な戦争で勝利を収め、そして枢軸国として第二次世界大戦に参戦した。
その国は大東亜戦争にて真珠湾にあるアメリカ海軍の基地に無謀にも奇襲攻撃を行い、これを成功させて西太平洋海域の制海権を確定させた。
その国はポツダム宣言を受諾して第二次世界大戦において敗戦するも、当初の目的通り欧米列強に植民地支配されていた東洋諸国に独立の切っ掛けを与えることに成功した。
その国は戦後急速に復興し、驚異的な経済成長を遂げて『東洋の奇跡』と謳われ、アメリカに次ぐ世界第二位の経済大国にまで至りプラザ合意にてドル経済を屈服させた。
その国の名は、日本。かつては大日本帝国と名乗り、偉大なる天皇陛下を国家元首として戴いていた民主制国家である。
さて、突然だが諸君らは知っているだろうか。第二次世界大戦時に戦地に赴き、戦場を敵国人の血で赤く染め上げた大日本帝国の軍人のことを。
その軍人は銃剣を片手に敵軍に単身で突撃し、返り血を浴びながらも敵軍を蹂躙した。
その軍人は非力な一般人のふりをして両手を挙げながら敵軍に近づき、隙を見て敵軍人から武器を奪って暴れ回った。
その軍人は同国軍人の遺体を盾にして敵軍に突っ込み、敵将校の生首を持って帰還した。
大日本帝国の侵攻を受けた国では、その軍人のことと思われる言い伝えが多数見つかっている。
いわく、日本の軍人であり。
いわく、片手に銃剣を装備し。
いわく、その者の名を──
───塚原、と言った。
◇ ◆ ◇
ヴェルサイユ宮殿。それはフランスにある世界文化遺産である。
1590年頃から盛んになったバロック建築の代表作で、フランス王ルイ14世が権力を国の内外に示すために建てさせた王城だという。
権力を示すための王城なだけあり、フランス王国の財政が傾くほどの莫大な資金を費やして建造されたらしい。
フランス王国が全盛期の時に国王だったのがルイ14世であり、『朕は国家なり』という絶対王政を代表する言葉を言ったということで有名だな。
フランス絶対王政を象徴するのがヴェルサイユ宮殿というわけだ。
なぜいきなりヴェルサイユ宮殿の話しをしているかって? そりゃ、今目の前にヴェルサイユ宮殿があるからだ。
朝起きたら、街の中心地に見たことがある建物があるなと気付いた。で、近づいたらヴェルサイユ宮殿だった。
何を言っているかわからないかもしれないけど、安心してくれ。俺もわからない。
「おい! 何でこの街にヴェルサイユ宮殿なんてあるんだよ!?」
「フランスから持ってきたっす!」
うっそだろお前……。フランスから持ってきちゃったのかよ……。
「何で持ってきてんだよ!? ってか、どうやって持ってきやがった!?」
「八咫烏さんにヴェルサイユ宮殿を収納カードに入れて持ってくるように頼んだっす」
「だから何で!?」
「ヴェルサイユ宮殿を建てたのはルイ14世っす。んで、ルイ14世は太陽王とも呼ばれていましたっすよね?」
「まあ、そうだな」
「マスターも太陽王なので、じゃあヴェルサイユ宮殿に住めば良いのでは、と思いついたんすよ!」
「思いつくなよ!!」
蜃がフランスから世界文化遺産を丸ごと持ってきやがった。どうしよう、もしフランス政府にバレたら戦争になりそうなんだけど。
「大丈夫っす。フランス政府は反乱を起こした覚醒者達に負けて消滅していましたっすから」
「マジかよ!?」
フランスが消滅したのか。……ならヴェルサイユ宮殿を盗んだことがバレても、文句を言われることはないかな。
ヴェルサイユ宮殿は国有地に建っているため、所有者はフランス共和国ということになる。その所有者である国が消滅したんだから、俺が盗んでも大丈夫……なはず。駄目かな?
まあ、いいか。王の権威を示すために王城は必要だったのだ。王城が世界遺産ならば、充分ジパング王国の権威を示すことが出来るし。
「頑張った私を褒めてほしいっす」
う~ん、これは褒めても良いのだろうか。悩ましい。
「よくやった!」
「褒められたっす!」
ここは褒めておこう。実際、王城は建設するんじゃなくてどこかから持ってこようとしていたわけだし。皇居である江戸城とかをね。
ただし、自称革命軍と戦っている日本国政府が江戸城を本拠地にしているので、江戸城を盗んできてしまえば日本国政府の負けが確定してしまう。俺には関係ないことだけど。
そんなことはさておき、早速ヴェルサイユ宮殿に入ろう。ただし今日中にヴェルサイユ宮殿の全てを見回ることは出来なさそうだ。ヴェルサイユ宮殿って広いし。
「それにしても賑やかになったっすね~」
蜃の分身が自分の街を見ながら呟く。
蜃の街、もとい王都は分身やモンスター達でごった返しており、すごい賑やかになっている。俺はモンスターにも人権を与えたからね。
あ、ちなみに蜃には名前を付けた。蜃にはジパング王国での公爵位を与えたので名前がないと不便だ。そのため、ミラージュ・ヴァレンタインという名前を付けたのだ。
正確に言うと、蜃の本体ではなく蜃が最初に作った銀髪美女の分身にミラージュ・ヴァレンタインと名付けた。
だから蜃の分身全員がミラージュ・ヴァレンタインと名乗るのではなく、今目の前にいる銀髪美女の分身だけがミラージュ・ヴァレンタインと名乗ることになる。
名前の由来は蜃気楼の英語がミラージュであり、姓であるヴァレンタインは蜃自らが付けた。本人いわく、自分が誕生した日が2年前の2月14日だったかららしい。
名を付けたことにより、銀髪美女の蜃の分身は他の分身と区別するためにミラージュと呼ぶようにした。
その際に八咫烏も名前を付けてほしそうにしていたので、彼にはクロウと名付けた。黒烏と書いてクロウと読む。
面倒だからという理由でcrowを名前にしたわけでは決してない。……いいね?
「ミラージュ! 早く来ないと先にヴェルサイユ宮殿に行ってるぞ!」
「ちょ、待ってくださいっす!」
肩越しに振り返って追いかけてくるミラージュを見つつ、俺はヴェルサイユ宮殿に足を踏み入れた。
◇ ◆ ◇
俺はヴェルサイユ宮殿のアポロンの間と呼ばれる部屋に置かれている玉座に腰を掛けていた。このアポロンの間は、ルイ14世が家臣との謁見に使っていたとされている。
この玉座はヴェルサイユ宮殿にあったものではなく、ミラージュが用意したもののようだ。京都御所の紫宸殿に常設されている、天皇が使っていた高御座というものらしい。
どうも高御座というのは皇位継承儀式の即位の礼において用いられていたようで、これがなくなったら皇室は困るだろうなっていう代物だ。
盗んでいいのかと不安になったが、そもそも世界遺産のヴェルサイユ宮殿を盗んでいるので今更である。
「我こそがジパング王であるぞ、頭が高い!」
「もうちょっと威厳たっぷりでやってくださいっす」
「我こそがジパング王であるぞっ! 頭が高あああぁぁぁぁぁいいいぃぃぃぃぃ!」
「それはふざけているだけっす」
「どうやったら威厳たっぷりになるんだよ!? こちとら数年前までただのリーマンだったんだぞ!」
ミラージュに王としてのオーラを纏えるようになれと言われ、今はその練習中だ。何だよ王としてのオーラって。
「もうあれをやるしかないっすね」
「あれってなんだよ」
「王冠っすよ、王冠。王権を象徴するレガリアである王冠を、王は頭に被るんすよ。知ってましたっすか?」
「それぐらい知ってるよ」
王冠か。そういえばまだ王冠は用意してなかったな。建国を宣言してからもう一週間くらい経つけど、王冠の用意とかは後回しにしてたし。
ファミレスでジパング王国の建国を宣言してから今日までの一週間の内にやったことと言えば、法整備がほとんどだったからなあ。
王族なら基本的に何をやっても大丈夫だよっていう法律をまず作った。これは国王である俺が、行動を縛られることなく自由にいろいろ出来るようにするためだ。
また、国王は絶対であり、どのような身分の人物であっても王命には逆らえない。国王に逆らうことは国家に逆らうことと同義ということにした。
これで俺はジパング王国内において絶対的な権力を有することになる。
それと、俺が召喚したモンスターに限り人権を認める法律なども作ったな。
あとは、無許可での異能の発動は重罪にした。そのために警察のような治安維持をする機関を設けて、攻撃性のある異能を人に向けて発動しないように取り締まらせようと考えている。
他にもたくさん法律を作ったりしたんだけど、正直全てを記憶する自信が俺にはない。ということで、大学では法学部だった先輩を法務大臣に任命した。
その後は法務大臣となった先輩に法律関係のことを丸投げしたぜ。やったね! めっちゃ先輩怒ってたよ。
先輩を法務大臣に任命することに伴い、彼女には侯爵位を与えた。大臣に任命するなら、それなりの地位がないといけないからね。
あと他にやったことは、イザナミの説得かな。イザナミを召喚し、彼女の意思を尊重してどうやったら俺の指示に従ってくれるのか何度も尋ねた。
そのたびに『お主の指図など受けぬのじゃ』と言ってイザナミにはフルボッコにされたけどね。
話しが逸れたな。王冠の話しに戻して、確かにミラージュの言った通り王冠を被れば俺でも王様のオーラを纏えるかもしれないな。
「ということで。じゃ~ん、っす!」
いきなりミラージュが両手を高く掲げた。その手には、黄金に光り輝く宝冠が載せられていた。
「……何か成金が使っていそうな冠だな」
ミラージュが手に載せている宝冠は、宝石などがこれでもかと取り付けられている成金趣味みたいな見た目をしている。
「酷いっすね。これは私の力作なんすよ」
「ってことは、これお前が作ったのか」
「ええ、マヨヒガの宝物庫にあった金銀財宝や宝石を材料にして作ってみましたっす」
そういえばマヨヒガの宝物庫には宝石とかがいっぱいあったな。あれを使ったのか。
「成金趣味の冠なんか被りたくないんだが」
「まあまあ。人前に出る時だけ被ってれば大丈夫っすよ」
せっかくミラージュが俺のために作ってくれたものだし、試しに被ってみるか。
俺はミラージュから受け取った宝冠を頭に載せ、高御座で踏ん反り返る。
「どうだ? 王のオーラを纏えてるか?」
「駄目っすね。もっとこう、マスターに相対した者が気圧されるくらいのオーラを纏ってくださいっす」
「こうか?」
高御座に座りながらものすごい形相で床を睨んでみる。
「あ、それはただ威圧してるだけっす。う~ん、マスターが人に威厳を感じさせるのは無理そうっすね」
ちくせう。
9月20日(つまりは今日)までには第二章が書き終わっていると言いましたが、結局は八万文字くらいまでしか書けませんでした……。
第二章には主人公と先輩のデート回があるのですが、このデート回を書くのが難しくて思ったように筆が進みませんでしたので。
なので、連載と並行して第二章を書き進めていきたいと思います。