3.リビングアーマー
残った二人を拷問し──ゲフン、ゲフン。残った二人を尋問したところ、館山第三避難所を運営する覚醒者が俺の情報をこいつらに漏らしたことがわかった。
日本などの島国は海で隔たれているため、非覚醒者の受け皿と化している。その分、日本は避難所などを運営している覚醒者が多い。
避難所、これは読んで字のごとく避難する場所だ。非覚醒者を避難所で保護し、モンスターが避難所を襲撃してきたら覚醒者が倒す。
つまり、避難所を運営している覚醒者は基本的にボランティア精神旺盛な善人どもだ。
ただし例外もある。館山には三つの避難所があるが、その三つ全ての避難所を運営しているのは善人などではなくクズの覚醒者達なのだ。
避難所を運営する側にもかかわらず気に入らない非覚醒者の一般人を殺したり、逆に気に入った女がいれば無理矢理自分のものにしたりするクズどもだ。
程度の差はあれど、館山にある三つの避難所を運営するのはクズしかいない。
で、どうも俺の家に入ろうとしていた三人組は、館山第三避難所に避難している非覚醒者の一般人だったらしい。で、第三避難所を運営する覚醒者達に魔石貯めてる奴がいると教えられた、と。
館山第三避難所か。あそこは、クズしかいないという館山の避難所の中でも取り分けて酷い。
俺がモンスターを倒すと魔石以外のものが確率でドロップするのはもう知っていると思うが、たまにモンスターの肉なんかがドロップされることがある。
そのドロップされる肉の中でも、オークからドロップする『オークの肉』は格別に美味しい。
たまにドロップするモンスター肉を、俺は避難所に提供したりすることが以前あった。俺は覚醒者なのに戦闘がからっきしだから、せめて食糧難にはならないように貢献しようと。
だが、それがいけなかったようだ。第三避難所にいる奴らは、覚醒者も一般人も皆俺にモンスター肉を持ってこいと言うのだ。しかも無料で。
俺も食べないと生きていけないので食べ物と交換してほしいと言っているのに、覚醒者達に脅されてほぼ無償での提供を無理矢理やらされている。
そのくせ、覚醒者も一般人も誰も俺には感謝しない。やって当然だと言わんばかりの態度だ。最近は自分が食べる分まで取られるので、少し痩せた気がする。
他の避難所にモンスター肉を提供すると申し訳程度にクズ野菜などを渡されるのだが、第三避難所の奴らからは何も渡されない。
文句を言ったこともあったが、覚醒者に袋叩きにされて終わった。
……思い出したら腹立ってきたな。強くなってから館山にある避難所を全て潰そう。
遠慮はしない。避難所で俺に優しく接する奴なんていないからな。それだけなら覚醒者が怖くて優しく接することが出来ないのかもしれないが、一般人は積極的に俺を罵倒するのだ。
ああクソッ! マジで腹立つ。
「……ぜ、全部話しました! だから許してくださいっ!」
うっせぇな。今すごくムカついてるんだけど。
声の発生源に目を向けると、ゴブリンに拘束された男が一人いた。俺の家に忍び込もうとしていた奴だ。
もう一人は、見せしめに俺がインテリジェンス・ソードで首を落とした。そしたら、こいつはベラベラと情報を喋るのだから楽でいい。
「そうだね、いっぱい喋ってくれたね」
「じゃ、じゃあ……」
男の目に希望の光が灯り、自分が助かるかもしれないと安堵する。
「うん、だから楽に殺してあげるよ。痛くはない、大丈夫だ。痛いと感じる前に死ぬから」
「え?」
「何? 助かるかもとか思ってたの? おめでたい頭してるね。俺の魔石や食料を盗もうとして生きて帰すわけないじゃん」
すると男は顔を真っ赤にし、激高した。
「話が違うっ!」
「話したら殺さないなんて言ってねーよっ!」
俺は流れるように剣を振るい、男の首を刎ね飛ばした。
「この死体どうしよっかな」
ここは自宅の庭だ。家の前だと誰かに見られるかもしれないから、場所を庭に移したのだ。
「あ、そうだ」
俺は懐から一枚のカードを取り出す。そのカードには、饅頭みたいな形をした半透明の黄色いゼリー状の物体のイラストが描かれている。
そう、スライムである。
種族:スライム
ランク:F
攻撃力:5
防御力:95
【スキル】
●消化:自身の体内に取り込んだものをゆっくりと消化していく。時間さえ掛ければ消化出来ないものはない。
ゴブリンより弱い、最弱モンスターのスライムだ。スキル『消化』の説明欄を読めば、何でも消化出来るんだから強いんじゃないかと考えると思う。
だが、それは間違いだ。ゴミなどを消化させるのは早いから重宝しているが、厚さ1センチ程度の鉄片を消化するのに一ヶ月近く掛かる。
時間さえ掛ければ何でも消化出来るのは事実だろうが、時間が掛かりすぎなのだ。
水道が止まって流れないトイレの便器にスライムを入れておくと糞尿なども消化してくれるので便利で良いが、ずっと便器に入れて放置していると便器まで消化されてしまう。何とも融通が利かないモンスターだ。
なので、用を足す前に便器にスライムを召喚するようにしている。『消化』のスキルは常時発動型だから、ON/OFFが切り替えられないんだよね。
俺は持っているスライムカードを全て使ってスライムを召喚し、三人の死体を手分けして早く消化するように指示を出しておいた。
これで万事解決。あとは強くなってから避難所を襲撃するだけだ。強くなるために、明日に備えて今日はもう休もう。
俺は召喚していたゴブリンやオークをカードに戻してから家の中に入った。
玄関で靴を脱ぐと、真っ先に魔石を保管している部屋へ向かう。インテリジェンス・ソードに吸収させて、攻撃力を上げるためだ。
扉を開け、部屋の中に入る。そして布の掛かっている木箱を手元に引き寄せ、布を取り払う。その木箱には、大小様々な魔石が詰まっていた。
これらの魔石は俺一人で集めたわけではない。そもそもカードからモンスターを召喚出来ることを知らなかった時の俺では、スライムと死闘をするほどだからな。
じゃあどうしたのか。実はこれ、親友の覚醒者と一緒に倒したモンスターからドロップした魔石なんだ。俺がおんぶにだっこ状態だったけど……。
もちろん、その親友の覚醒者は避難所にいるようなクズではない。モンスターが出現するより前からの親友だし。
俺は親友と一緒に集めた魔石を、食料の物々交換に使う分を除いて全てインテリジェンス・ソードに吸収させた。
種族:インテリジェンス・ソード
ランク:D
攻撃力:527(422UP!)
防御力:777(422UP!)
【スキル】
●装備者強化・剣術
●浮遊
おお! すげー強くなったよ! やばい、興奮してきた。育成が楽しくなってきたよ。このままいけば、攻撃力が頭おかしいレベルにまでいくんじゃないか?
俺はニヤニヤと一人で笑いながら、インテリジェンス・ソードをカードへと送還した。
ちなみに、Dランクモンスターの魔石を吸収したら攻撃力と防御力が5上がったが、Eランクモンスターの魔石だと3、Fランクモンスターの魔石に至っては1しか攻撃力と防御力が上がらなかった。
◇ ◆ ◇
窓から太陽の日差しが降り注ぎ、否が応でも目を覚ましてしまう。
俺はベッドから起き上がり、動きやすい服装に着替えてから全てのモンスターカードを懐にしまう。
「よし」
準備が出来たので靴を履き、外へと出ると一旦庭へ向かう。すると、庭にいたスライムはほぼ死体を消化し終えていた。
もう小さな骨しか残っていなかったのでスライムをカードに戻してから、探索を開始した。
今日はとあるモンスターのカードを狙っている。それはDランクのリビングアーマーだ。
リビングアーマーは動く鎧だ。その動く鎧の形は日本の当世具足のような甲冑ではなく、西洋のプレートアーマーのようなものである。
ちなみに、リビングアーマーはインテリジェンス・ウェポンと似ているが、死霊系ではなく無機物系モンスターという分類になる。
インテリジェンス・ウェポン系統のモンスターは死霊が憑依して動いているようなものだが、リビングアーマーは元々動く鎧としての生を受けて生まれてくる。
確か、魔力を直接見ることが出来る異能が発現した覚醒者が、リビングアーマーはインテリジェンス・ウェポンと魔力の流れが違うとか言って、死霊系モンスターではないと結論付けていた。
魔力の流れが違うとは何ぞや。
俺は魔力を視認出来ないので知らんが、視認出来る奴には違うのがわかるのだろうな。
「っと、着いたな」
家から一時間ほど歩いた場所にあるこの小山付近には、Dランクモンスターが跋扈している。インテリジェンス・ソードもここで仕留めた。
ここら辺にリビングアーマーも徘徊しているはずだから、そいつを倒してモンスターカードをドロップさせよう。
まずは腐肉喰いという小さなネズミの姿をしたFランクモンスターを召喚した。
種族:腐肉喰い
ランク:F
攻撃力:7
防御力:100
【スキル】
●気配察知:自身を中心として半径50メートルの範囲内にいる生物の居場所を察知する。
●空間把握:自身を中心として半径50メートルの範囲内の空間を把握する。
腐肉喰いは動物やモンスターの死体を漁って食すモンスターだ。強さはスライムとゴブリンの中間ぐらいで、警戒心が非常に強い。
そのため、自分より強い相手の気配を察知すると、全力で逃げ出すという性質を持つ。
ただ、索敵役としては優秀なのだ。スキル『気配察知』で周辺のモンスターの居場所がわかり、スキル『空間把握』では複雑な迷路だとしてもゴールまで最短ルートを進むことが可能だ。
補足しておくと、『気配察知』の説明欄には『生物の居場所を察知する』とあるが、死んでいるはずの死霊系モンスターや、そもそも生物ですらない無機物系モンスターの気配も察知出来る。不思議だ。
リビングアーマーは無機物系モンスターに分類されるが、前述の通り腐肉喰いのスキルによって探すことが可能である。
「一番近くにいるリビングアーマーの元に案内してくれ」
「キュウッ!」
腐肉喰いは器用に敬礼のポーズをしてからスキルを発動し、一直線に道を進み始めた。
俺はインテリジェンス・ソードを強く握りしめてから、腐肉喰いを追いかけるために歩き出す。
しばらくすると道の曲がり角で腐肉喰いが立ち止まったので、俺も歩くのをやめて曲がり角の先をそっと覗いてみた。そうしたら、プレートアーマーが堂々と歩いている姿が見える。
ビンゴ! あれがリビングアーマーだ。
俺は腐肉喰いをカードに戻してからオークを十体召喚し、俺が戦闘している間はモンスターを近づけないように言った。
その指示に従い、オーク達は四方八方へと散っていく。
次に盾用のオークを五体召喚し、俺はその背後でインテリジェンス・ソードを構える。
「行けオーク!」
「「「「「ブモゥッ!」」」」」
五体のオークが一斉にリビングアーマーに突進し、リビングアーマーが防御し損ねて盛大に転がる。その隙に俺も飛び出し、ソードを大振りした。
しかしそれを躱したリビングアーマーは立ち上がり、拳を構えて俺に向き直る。
「オークは奴の気を逸らせ!」
リビングアーマーは体術で戦う。剣や盾なんて持っていない、ただの鎧だからな。たまにゴブリンなんかが武器を持っている場合もあるが、それは拾ったものなのだ。
オークがリビングアーマーに攻撃を加えてヘイトを集めている間に、俺はインテリジェンス・ソードの剣先をリビングアーマーの胴体部分に突き刺した。
次の瞬間、リビングアーマーの動きは止まり、地面に崩れ落ちて徐々に塵と化していく。塵は風で飛ばされ、最後には魔石だけが残った。
「カードはドロップしなかったか」
肩を落としつつ、腐肉喰いを召喚して次のリビングアーマーを探しに行く。
───それから三時間ほどが経過して、リビングアーマーを何体倒したか数えるのも面倒になってきた頃。ついに、リビングアーマーのカードがドロップしたのである。