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38.建国宣言《2》

 ちょっと長めです。

 俺が建国を宣言してから最初に口を開いたのは南原さんだった。


「け、建国ですか?」


 彼女は困惑していた。そういえば先輩には話していたが、南原さんには建国云々(うんぬん)についてまったく話していなかったな。


「私から話していいか?」


 俺がうなずくと、先輩は南原さんに建国について話し始めた。


 まず、なぜ国を造るのか。その理由だ。南原さんは館山第三避難所にいたので、俺があそこにいた奴らに利益を搾取(さくしゅ)されていたことは知っている。


 今後二度と良いように利用されないためというのが建国の主な理由だが、それに加えてモンスターの地位向上のためでもある。


 別に野生のモンスターを殺すなとは言うつもりはない。野生のモンスターは人間がいたら必ず襲い掛かってくる。


 知性があるはずのCランクモンスターですら、会話には応じても人間を殺そうとする。八咫烏は俺を殺そうとせずに成長するように導いてくれたが、あれは上位存在が八咫烏に指示したかららしい。


 指示といっても神が八咫烏の前に姿を現したわけではなく、『導き手』のスキルが俺達を成長させるように指示を出したんだとさ。やっぱり『導き手』は謎のスキルだな。


 話を戻してモンスターの地位向上。これは野生のモンスターの地位を向上させたいわけではない。


 同じ異能を持つ覚醒者は存在しないが、似たような異能を持つ覚醒者はいる。だから、俺や先輩以外にもモンスターを使役している覚醒者が存在している可能性は高い。


 俺の場合はモンスターが使役出来るから虐げられていたわけではないが、先輩はアンデッドを使役出来るために避難所から追い出されている。


 俺達以外のモンスターを使役出来る覚醒者も、同様に虐げられるかコミュニティから追い出されて孤独感を味わっているだろう。


 そういう人達の受け皿になれるような国にしたいと俺は考えている。つまりモンスターではなく、正確にはモンスターを使役出来る覚醒者の地位向上だ。


 ではなぜ絶対王政を敷く必要があるのか。


 人類の敵であるモンスターを使役する覚醒者の集団。これだけ聞けば内情を知ろうともせずに敵視する奴らが確実にいることだろう。


 もし共和国という体制を取っていれば、敵対勢力が攻撃を仕掛けてきた際に迅速な判断が出来ずに対応が後手に回ることになる。


 俺が王として君臨して国の決定権を持っていれば、そういう事態に迅速に対処出来るようになるのだ。


 ということを先輩が丁寧に説明した。


「……なるほど」


「わかってくれたかい?」


「ええ、塚原さんが理不尽な目に遭っていたことはこの目で見ているので知っていますし」


 南原さんが先輩の説明で納得したところで、俺は建国の具体的な話に移った。


「まず国王は俺がなります。そして先輩と南原さんには公爵位を──」


「「却下で」」


「あ、はい……」


 先輩と南原さんを公爵にしようと思っていたんだが、同時に断られてしまった。国家の中枢は俺が信用出来る人で固めたいんだけど。


「なら私が公爵になりたいっす」


「お前が?」


「はいっす」


 蜃は俺が召喚したモンスターだから信用出来るし、適任だな。


「よし、じゃあ蜃は今日から公爵だ」


「わーい、っす」


 喜んではいるんだが、そんなに嬉しいことなのかな。まあ公爵家って王家に次いで偉い家だからなぁ。公爵の上には大公ってのもあるけどね。


「待て、そもそも国民はどうする気だ? 国民が認めなければ絶対王政は敷けないが、数年前まで民主主義国の国民だった日本人が王制による支配を認めるわけがないぞ」


 絶対君主制国家に人が集まるわけがない。先輩はそう言いたいのだ。


「それなら万事解決する方法があります。蜃が実体を与えた分身を国民にさせ、その分身達に絶対王政を認めさせれば良いんです」


「!」


 先輩が驚いたような顔をしている。盲点だったみたいだな。


 この方法は俺もさっき思いついたんだ。それまではどうやって国民に王制を認めさせようか悩んでいたが、蜃の分身を国民にすれば万事解決だと気付いた。


 これによって、絶対君主制国家の建国が現実味を帯びてくる。


「蜃。お前はどれくらい分身出来るんだ?」


「最大で100万体に分身出来るっす」


「その内、実体を与えられる分身は?」


「水さえ近くにあれば100万体全ての分身に実体を与えられるっすよ」


 要するに一気に100万人もの人口を獲得出来るのか。100万人というと17世紀~18世紀頃の江戸の町の人口くらいか。


 17世紀~18世紀頃の江戸の人口は世界一だったから、かなりの人数になる。それくらいの人数の国民に認めてもらえれば、余裕で絶対王政を敷けるな。


「これで問題は解決しましたね。あとは話を詰めていきましょう」


「なら聞いておきたいのだが、貴族の爵位などはどのように扱うつもりだ?」


「爵位は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵を予定しています。準男爵と騎士爵は準貴族として扱い、継承権のない一代限りのものにするつもりです」


 史実だと準男爵とか騎士爵の爵位はお金で買えたりするんだけど、俺の国では爵位を売るつもりはない。そもそも爵位をお金で売っている時点で、その国は末期だし。


「貴族の領地は?」


「貴族に領地を与えて強い発言権を持たれては中央集権が出来ずに王である俺の権力が低下するので、基本的には領地を持たない宮廷貴族にします」


封建(ほうけん)制ではなく郡県(ぐんけん)制を採用するのか」


「ええ、そうなりますね」


 封建制とは、君主が諸侯に土地を与え、諸侯は与えられた土地を統治するという体制だ。なお、土地を与える代わりとして君主は諸侯に貢納や軍事奉仕の義務を課している。


 諸侯は自身の領地での権限が強いため、封建制だと中央に権力が集中しないので王権が絶対的にはならない。


 対して郡県制は中央から派遣された官吏(かんり)が地方を統治するので、中央に権力が集中して王権が絶対的なものとなる。


 王と諸侯がほぼ同等の権力を有しているのが封建制、王権が絶対的であり諸侯の権力が王権にまったく及ばないのが郡県制だ。


 自身に権力を集中させたいなら絶対王政ではなく、専制君主制にすればいいと思うかもしれない。


 専制君主制とは簡単に言えば、王個人が国を支配する体制であり、王のワンマン国家ということになる。


 ただ、専制君主制には問題もある。専制君主制は王権が強力になる一方で、政策などに失敗した場合は王自らが責任を負わなければならない。


 対して絶対王政で政策に失敗したとしても、王とは別の責任者が責任を負ってくれる。俺は責任という言葉が嫌いなので、絶対王政を敷くことにしたのだ。


「ならば辺境伯は作らないのか」


「ええ」


 辺境伯。これはかなり厄介だ。爵位としては伯爵に該当するが、地方に領地を持っていて大きな権限を有しているので、権力では侯爵と同等とされている。


 辺境伯は軍事上の重要拠点である国境付近を領地として任されているから、外国などの敵対勢力が攻め込んできた際の防衛をしたりするために権限が強いのだ。


 地方に大きな権力を持たせると、王都から離れているからと好き勝手される可能性が高い。


 国防のために強力な武力を持つ辺境伯は、王よりも権力が強い場合もあるくらいだ。だから辺境伯という爵位は作らない。


 誰かを辺境伯に任命するとしても、信頼出来る者を任命するつもりだ。地方分権は絶対にさせない。目指すは中央集権で王権強化だ。


 その点、日本は良い。日本は島国だから中央集権がやりやすいんだ。


 アメリカは国土が広いから、中央集権が出来ていない。だからアメリカは、州ごとに独自の法律と独自の軍隊を持っている。


 イメージとしては、アメリカは一つの国というより州という名の小国家が寄り集まった連合国みたいなもんだ。実際、合衆国と名乗っているわけだし。


 ただ、くわしい国の統治方法についてはまだ考えていない。やっと建国の目処(めど)が立ったという段階なのに、今から統治方法を考えたとしても捕らぬ(たぬき)皮算用(かわざんよう)になるからな。


 でも、ある程度の筋書きはある。俺は、造った国を海洋国家へと成長させたいと考えているんだ。


 日本のような典型的な島国は、制海権さえ手中に収めることが出来れば大国へとのし上がることが可能となる。


 事実、日本列島より小さいブリテン島を本拠地とするイギリスが世界各地に植民地を保有して超大国へと成長するに至ったのは、制海権を手中にしていたからに他ならない。


 このように海洋国家が強い理由としてはいろいろあるが、島国は自然的国境である海で隔てられているので、制海権を手中にすれば外国からの侵攻を海上で食い止められるということが大きい。


 海洋国家である日本は、アジア諸国で唯一植民地支配されていない国家だし。


 厳密に言うと東南アジアに位置するタイも植民地支配はされていないが、タイの場合は緩衝国だったので領土を差し出すことで植民地支配を免れていたんだよね。


 対して日本は領土を差し出すことなく、西洋の列強国と渡り合ったのだ。


 日本には、諸外国との戦争で本土に足を踏み入れさせなかった歴史があるからな。


 ……第二次世界大戦の大日本帝国側の敗戦による、約7年間の連合国軍の日本占領を除いて。


 ただ、ポツダム宣言を受けて昭和天皇が第二次世界大戦の終戦を宣言した8月15日時点ではまだ日本の本土及び首都は陥落しておらず、戦争を継続するに足る戦力をまだ有していた。


 だから、負けはしたが本土にまでは踏み入られてなかったんだよね。


 日本がポツダム宣言によって降伏したあとにGHQが日本本土に上陸するまでおよそ二週間も掛かったけど、あれは日本が残していた戦力を警戒していたからだし。


 GHQは日本を占領したけど、あくまで間接的な統治をしたに過ぎない。それにポツダム宣言によって、日本の主権が認められている。


 まあ俺が住んでいた館山は日本列島で唯一、GHQによって軍政が敷かれてしまった。と言っても、たった四日間だけだ。


 言い訳みたいになるけどね……。


 海洋国家の強みはそれだけでなく、海運を利用することで陸上での輸送より費用が抑えられるという理由もあるし、海軍が強ければ戦争にも勝利出来る。


 トラファルガー海戦とか日本海海戦とかが良い例だな。


 トラファルガー海戦ってのはフランスとスペインの連合艦隊をイギリス艦隊が海上でぶっ倒して、ナポレオンさんのブリテン島上陸の試みを防いだ戦いだ。


 ブリテン島に上陸出来たらイギリスじゃなくてフランスの勝ちだったんだけどなぁ。やっぱイギリスの海軍強すぎっすわ。


 で、日本海海戦はというと、日露戦争で当時世界最強と呼ばれたロシア軍のバルチック艦隊を、大日本帝国の東郷平八郎率いる連合艦隊が打ち破ったものだ。


 近代以前から、日本は海によって守られていたわけだ。元寇とかね。まああれは神風が吹いたとかどうとか聞くけど。


 それとあれか。日本の海賊である倭寇(わこう)とかも一応そうなのかな。


 でも倭寇が明(中国)や高麗(こうらい)(韓国)で恐れられたのは陰流を身につけた乗組員が日本刀を振るっていたからであって、海とかはまったく関係ない。


 明軍の武将・(せき)継光(けいこう)が陰流と日本刀を分析するまで、明軍は倭寇との戦いで負け続きだったわけだし。


 陰流とは新陰流、柳生(やぎゅう)新陰流、鹿島新當(かしましんとう)流などの剣術の源流であり、まあぶっちゃけくっそ強い剣術ってこと。


 それに加えて倭寇の振るう日本刀によって明軍の長柄武器は柄ごと斬り落とされてしまうため、明軍は火縄銃より日本刀を恐れたようだ。


 海賊らしい海賊は倭寇とかよりイギリスやフランスの私掠(しりゃく)船とかか。


「じゃあ最後の質問だ。国名はどうする?」


 …………国名、か。今まで時間がある時に考えてはいたんだが、まだ候補を(しぼ)りきれていないんだよな。


 出来るだけ日本の名残を感じさせる国名にしたいとは思っているのだが。


 どんな国名がいいかねぇ。




「──そうですね、国名は『ジパング』にします」


 熟考の末に、俺はそう口にした。


 マルコ・ポーロの『東方見聞録』。この本にはジパングなる島が登場する。ジパングは黄金の島として描かれ、王の宮殿は金で出来ていると記されている。


 この黄金の島ジパングが日本とされている。ジパングの王宮は黄金で出来ていると『東方見聞録』には書かれているが、この黄金で出来た王宮は現在の岩手にある中尊寺(ちゅうそんじ)金色堂(こんじきどう)がモデルだとするのが一般的な説だ。


 当時の日本の東北地方は莫大な砂金を産出しており、その砂金を使って奥州藤原氏が建てたのが中尊寺金色堂だ。


 その黄金の島ジパングから取って、国名はジパングとすることに決めたのだ。


 国名の候補は他にも『扶桑』や『瑞穂(みずほ)』などがあった。以前にも言ったが扶桑は日本の異称で、太陽に関係している。


 そして瑞穂とは瑞々(みずみず)しい稲穂のことで、転じて日本の美称だ。


 ただ扶桑王国や瑞穂王国という漢字の国名がしっくりこないので、横文字のジパングを国名にすることにした。


「ジパングか。『東方見聞録』からだな?」


「はい」


「ならジパング王国ということになるのか」


「いえ、太陽王国ジパングにするつもりです」


 日本は古くから太陽信仰だ。それに太陽の化身とされる八咫烏を国旗に入れるつもりなので、太陽を国名に入れようと思ったんだ。


 国旗は日本と同じで日の丸にしようかとも考えたが、そうすると東京で革命軍を自称する覚醒者達と戦っている日本国政府が反発しそうで面倒だからやめた。


「太陽王国ジパングか。なら俊也は太陽王になるな」


「おお、太陽王なんてカッコイイですね。おめでとうございます、塚原さん」


「これでマスターも王になるのぅ」


「さすがマスターです! 私はマスターに剣として使ってもらえて光栄です!」


「太陽王なんて禿げて頭がピカーッてなってそうな名前っすね」


 やめれ、もし俺が将来禿げたらシャレにならんぞ。




 ───こうして、モンスター出現から4年が経った2024年の日本にて、『俺の王国』が誕生した。




◇ ◆ ◇




 多数の民族や国家を従え、今もなお()(とな)えて世界に君臨し続ける帝国があった。


 ()の帝国は七つある大陸の全てを支配し、世界を()べていた。


 そしてその最大版図(はんと)を現在進行形で数千年も維持し、幾度となく起こる内乱を乗り越えて国家を存続させている。


 その帝国の名はジパング。人類史上初めてとなる世界統一という偉業を成し遂げた国家であり、いわゆる()()()()だ。


 そんな帝国だが、建国当初は帝政ではなく王政を敷く小国だった。


 モンスターがこの世界に出現してから4年後に、かつて日本と呼ばれていた国にて成立したのがジパング帝国の前身となる太陽王国ジパングである。


 建国当初のジパング王国は城郭都市を一つだけ有する都市国家であったようだが、それに対して人口は異常に多かったと伝わる。


 翼を広げた八咫烏の頭上に、二本の剣が交差しているのがジパング王国の国旗だ。


 また、国旗に描かれた交差する片方の剣の鍔に金色の龍の彫刻が取り付けられているため、その特徴から初代王の愛剣であるフラガラッハがモデルだとされている。


 その初代王の名は塚原俊也。一代にしてジパング王国を建国しパクス・ジャポニカ(ジパングによる平和)を築き上げ、『太陽王』『天王(てんのう)』『大王』と称された偉大なる王だ。


 この太陽王の呼称だが、建国宣言時にのちの法務大臣である内藤雫が塚原俊也のことを太陽王と称したことが起源とされている。


 その後、ジパング王国の国王は代々『太陽王』という称号を継承し、世界の全てを征服した際に帝国に国号を変更した現在でもこの慣例は続いている。


 ところで。『太陽王』『天王』『大王』と謳われていた初代王・塚原俊也だが、ジパング王国の周辺諸国は彼のことをこう呼称して恐れたという。


 いわく──































 ───魔王、と。





 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


 これにて第一章が完結しました。


 本作品を面白い、もっと読みたいと思っていただけたらブックマークや評価をお願いします!




【第二章について】

 第二章は現在執筆中です。来月の9月20日までにはおそらく第二章が書き終わっていると思うので、投稿再開は来月9月20日を予定しています。


 第二章の序盤は内政に触れつつ、中盤から終盤にかけてジパング王国が他国と戦争をするような流れにしたいと思っております。


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[一言] ピンポンパンポン~ 迷子のお知らせです。 制空権ちゃんが迷子になっています。 国王さんは至急、迷子センターまで迎えに来て下さい。 以上、お知らせでした。 ピンポンパンポン
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