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34.シーサーペントの肉

 Cランク最強のモンスターのカードを棚ぼたで手に入れることが出来た。これはツキが回ってきていると言っても過言ではないんじゃないか?


 うん、そうに違いない。今までは運が悪くて避難所で虐げられてきたが、カードの使い方を理解してからは良いことばっかりだ。


 来たか、俺の時代が。


「お主の時代が来るわけなかろう」


 何か八咫烏が言ったような気がしたが、多分空耳だ。


 俺は手に持ったイザナミのカードに目を落とす。そこにはステータスとともに、美しい少女のイラストが描かれている。


 このイラストがイザナミだろう。黒髪ロングで、服装は(はかま)の日本人然とした和風の美少女である。


 『墜ちし水神の意地』を発動した河童もそうだったけど、日本にまつわるモンスターは袴とか浴衣を着ている場合が多いよな。


 まあイザナミは日本人のような顔立ちなので袴とマッチしていて可愛いから全然問題ないが。


 まさに清楚(せいそ)というような姿をしていて、大和撫子(やまとなでしこ)のように見える。ぶっちゃけ好みです、はい。


「俊也はそういう()が好みなのか?」


 じーっとイザナミのイラストを見ていたら、俺の背後から先輩が顔を覗かせて尋ねてきた。


 めっちゃ好みドストライクなんだが、はっきりと口にするのは恥ずかしいな。ちょっと(にご)しておくか。


「好みといえば好みですね」


「そ、そうなのか……」


 先輩は居間にある鏡に向かい合い、少ししてから肩を落とした。シュンとしている。何でだろ。


 そんな先輩の様子を見ていたら後ろから肩を叩かれたので振り返ると、南原さんが立っていた。


「どうしたんです、南原さん?」


「雫さんは今落ち込んでいるので(なぐさ)めてあげてください」


「お、俺が?」


 俺は自分を指差しながら南原さんに聞き返すと、南原さんはうなずいた。


「はい、そうです」


「なぜ」


「雫さんが落ち込んでいるからです」


 わからん。まったくわからんぞ。女心は複雑なり。


 でも南原さんの顔がかなり真剣だったので、言われた通り先輩を慰めることにする。実際、先輩は目に見えて落ち込んでいるわけだし。


「大丈夫ですか、先輩?」


「ふえぇ……」


 何それ可愛い。先輩の泣き声「ふえぇ」とか可愛いすぎんだろーが!?


 違う、そうじゃない。先輩を慰めるんだった。


 その後泣き止んだ先輩に落ち込んでいた理由を聞いてみると、清楚系美少女のイザナミのイラストを見ていて自分ががさつなことを気にしてしまったらしい。


 繊細(せんさい)だな先輩。まあ確かに先輩はたまに寝癖で髪がボサボサになってても放置している時あるからなあ。


 でも先輩は一応清楚系美少女のような見た目ではあるんだよ。大学で初めて先輩に会った時は、まさかこんな性格だとは思わんかった。


 けどもし先輩が見た目通りの清楚な女の子だったら、社会人になっても交流を続けることはなかったと断言出来る。


 説明が難しいんだけど清楚な女の子って俺の好みではあるが、だからって清楚な女の子と付き合いたいというわけではない。


 漫画や小説、アニメなどの女キャラは可愛い思うけど、もし二次元にいるような非現実的な女キャラが現実にいたらドン引きだよ。


 例えばツンデレヒロインは物語で見ている分には可愛いと思うだけだけど、現実にいたらツンの部分がウザすぎて無理。


 ぶりっ子も物語の中でならば大好きな俺ではあるが、現実ではお断りである。


 そのような感じで、清楚な女の子は俺の理想だけど現実では求めていないというわけだ。


 先輩は話してみると見た目に反して取っ付きやすい性格をしていたため、社会人となってからも交流を続けて今に至る。


 仮に先輩が清楚な女の子のような性格をしていた場合、俺の理想を押し付けてしまう可能性がある。もしそうなったら、先輩が俺の理想とは少しでも異なる性格ならば幻滅していただろう。


 先輩が取っ付きやすい性格だったからこそ、ここまで仲良くなれたのだ。俺が社会人になっても頻繁に交流を続けていた友達は先輩くらいだしね。


「先輩は別にそのままでも良いんですよ」


 俺はそう言いながら先輩の背中をさすった。頭を撫でるという高等テクは俺には出来ないから背中をさすることにしたんだ。


 で、先輩が落ち着きを取り戻してきたので蜃やイザナミを召喚するために外に出ようとしたのだが。


「もうこんな時間である故、明日にしてはどうか?」


 八咫烏は居間の壁に掛けられた時計を見ながら言った。


 俺も時計を見てみるが、現在時刻は午後7時頃。今の季節は夏なのでまだ空は明るいが、そろそろ暗くなってしまうという時間帯だ。


 日が沈んだら『太陽の化身』スキルの効果が切れるので八咫烏が弱体化してしまう。そのため俺達は基本的に夜には活動しない。


 夜にしか活動しないモンスターも存在するようで、そんな夜行性モンスターのカードが欲しいとは思っているんだが、八咫烏は俺の召喚出来るモンスターの主力を担っている。


 主力が弱体化した状態で未知の夜行性モンスターとの戦闘は危険と判断し、なので仕方なく夜の活動は控えているのだ。


 八咫烏がいなくてもCランクモンスターを余裕で狩れるくらい強くなったら夜に活動してみるのも良いかと思っている。


 イザナミがいれば八咫烏が抜けてもCランクモンスターは狩れるが、ぶっつけ本番でイザナミを召喚するなんてチャレンジャーなことはしない。


 いつモンスターに殺されるかわからない世の中になったんだ。慎重になることは悪いことではない。


 日本家屋の壁に掛けても違和感を抱かないように設計された時計を見ながら俺は決断を下した。


「そうだな。召喚は明日にするか」


 ちなみに居間の壁に掛けられている時計も、囲炉裏と同じで魔導具だ。


 ただこの時計の魔導具は囲炉裏の魔導具と違って取り外し不可というわけではなく、元々居間ではなく宝物庫にあったものになる。


 なので収納カードに入れることが可能であり、解説の欄には魔力によって時間が調整されているので針が狂うことのない時計と書いてあった。消費するのも囲炉裏の魔導具と同様でFランクモンスターの魔石だ。


 見た目が和風の時計でちょうど良さそうだったので居間の壁に掛けておいたんだ。


「ガーゴイルや蜃、イザナミの召喚は明日にするとして、今日はあれを食べましょうよ!」


 俺が(よだれ)を垂らすのを我慢しながらそう言うと、八咫烏は察しが付いたようで楽しみだと喉を鳴らした。


 一方で先輩と南原さんは見当が付かなかったようで疑問符を浮かべる。


 そういえば八咫烏には言ったけど先輩と南原さんには伝えてなかったな。


「実は今日海で回収したドロップアイテムの中にシーサーペントの肉があったんですよ」


「美味しいんですか、シーサーペントのお肉というのは?」


「ええ、それはもちろん。何せシーサーペントはCランク中位相当の水生モンスターですから」


 シーサーペント、つまり大きな海蛇の姿をしたモンスターだ。大きな蛇の姿をしているため龍に見えなくもないが、八咫烏いわくシーサーペントは龍種ではないとのこと。


 俺の経験上、モンスターのランクが高い方がドロップした肉は美味しくなる。オークはEランクモンスターのくせにドロップする肉は美味しいという例外も存在するが。


 オーク系の肉ってランク関係なく美味しいんだよな。ハイ・オークの肉だってDランクとは思えないほど美味しいし。


 逆にゴブリン系の肉はランク関係なく不味い。Fランクのゴブリンの肉も、Eランクのホブ・ゴブリンの肉も総じて不味い。


 シーサーペントの肉が不味くないということは確認済みだ。収納カードに入れたて解説の欄を見たら大体わかる。


 収納カードの解説によると、シーサーペントの肉は非常に美味しいようだ。


「それは楽しみだな」


 俺がシーサーペントの肉を取り出して皿に載せると、先輩が肉に顔を近づけたりして興味津々の様子だ。


 南原さんも興味はあるようだが先輩ほどではなく、顔を近づけたりはしていない。


 それから数時間して、食卓に豪華な晩御飯が並んだ。シーサーペントの料理は先輩と南原さんがやってくれたよ。


 俺も一人暮らしをしていたから簡単な料理くらいなら出来るけど、本格的な料理を作れないので二人に全部任せた。


 料理をするには囲炉裏の魔導具を使うので二人は居間にずっといたのだが、俺はその間ずっとモンスターカードを整理をしたりフラガラッハの手入れして過ごした。


 フラガラッハはモンスターだけど種族がインテリジェンス・ソードのため武器でもある。だから汚れを拭き取ったり()いだりすると気持ちいいらしい。


 研ぐとフラガラッハがダメージ受けるんじゃないかと心配したんだけど、本人は研がれるのが気持ち良いそうだから気にしないことにする。


「おー、美味しいですね」


 その日はシーサーペントの肉を主役にした晩御飯を食べてから就寝した。


 シーサーペントの肉は美味しくはあったんだけど、油が多いからたくさん食べることが出来なかった。


 八咫烏にもシーサーペントの肉を食べさせてみたが、油が多いと言って不評だったよ。


 だよね。胃がもたれるよ……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば先輩達の細かい容姿って描写されてたっけ?ぼさぼさしか記憶に残ってない
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