33.Cランク最強のモンスター
種族:イザナミ
ランク:C
攻撃力:1080
防御力:1265
【スキル】
●国生み:異空間に箱庭世界を展開し、外界からの干渉を遮断することが出来る。
●神生み:イザナギがパーティー内にいる場合に限り発動可能。神生みの神話で伊邪那美命が生み出した御子神を召喚する。
●黄泉津大神:日に一度だけ発動可能。自身と表裏一体であるヨモツオオカミに変じて、『雷神纏』『黄泉醜女召喚』のスキルが使用出来るようになる。
Cランクの中でも最強を誇るのが、イザナミというモンスターだ。けれど攻撃力1080、防御力1265でありステータスはCランク上位の八咫烏以下だ。
ではなぜ強いのかというと、保有するスキルが破格の性能だからだろう。
モンスターであるイザナミの元になったのが、日本神話においてたくさんの神々を生み、日本列島すらも生み出した女神である伊邪那美命である。
といっても、伊邪那美命だけで日本列島や神を生み出したわけではない。伊邪那美命とその夫である伊邪那岐命の二柱の神によって生み出されたのだ。
日本列島を生み出した神話は国生み、八百万の神々を生み出した神話は神生みと呼ばれている。
日本神話を構成する神話の一つである国生みの神話は、高天原に住まう神々が下界に新しい国を造ることを伊邪那美命と伊邪那岐命に命じたことから始まる。
高天原とは遙か上空にある神々の住まう場所だ。そこから下界に降りた伊邪那美命と伊邪那岐命は天浮橋に立ち、神々に与えられた天沼矛という矛で海を掻き混ぜた。
この時の大地は海に油が浮かんでいるように漂っていたとされ、天沼矛で海を掻き混ぜることによって日本列島が出来上がった。
この国生み神話が由来のスキルが『国生み』だ。このスキルは、異空間に箱庭世界を生み出すというものになる。
蜃の『体内街』と似たスキルだが、違うところは捕食目的のスキルではないことだろう。『国生み』によって展開された箱庭世界は『体内街』とは違い、外界に展開は不可だ。
異空間に展開された箱庭世界に行くにはイザナミの許可が必要となる。つまり、箱庭世界に逃げ込めば敵は攻めてこられないというわけだ。
マヨヒガは敵が侵入した際に眷属を強化して侵入者を排除するが、イザナミの箱庭世界は異空間にあるので侵入すら出来ない。
防御だけでも最強だとわかるが、攻撃もまたえげつない。何とイザナミは『神生み』のスキルで、伊邪那美命の御子神を数十柱も召喚出来るというチートっぷり。
御子神というのは、親子関係のある神々の子供に当たる神を指す言葉だ。要するに『神生み』のスキルは、神生みの神話で伊邪那美命が生み出した神々を全て召喚出来るのだ。
ただし、このスキルはCランクのイザナギが一緒にいないと発動出来ない。今はまだイザナギのカードを持っていないので使えないスキルではあるが、イザナギのカードが手に入ったらBランクモンスターも簡単に撃破出来るようになるらしい。
なぜイザナギが一緒じゃないと『神生み』のスキルが発動出来ない仕様なのかというと、神生みの神話を元にしているからだろう。
神生みの神話だと、日本列島を造ったあとに伊邪那美命と伊邪那岐命は性交することで神々を生み出した。
イザナミ単体だと性交が不可能なため、『神生み』のスキルはイザナギがいないと発動出来ないのだと思われる。
まあ『神生み』のスキルを発動しても、イザナミとイザナギが性交するわけではないだろうけどね。そういう仕様ってことだ。
それと、イザナギがいなくても『神生み』が発動出来たらイザナミが強くなりすぎるから調整されているってことでもあるんだろ。
そんでもってイザナミが持つ三つ目のスキルである『黄泉津大神』も、頭おかしいぐらい強い効果だ。
そもそも黄泉津大神というのは伊邪那美命の別称だ。この別称は、伊邪那美命が神生みの際に死んだことに由来する。
神生みの際に伊邪那美命は火神である火之迦具土神を出産するが、それが原因で火傷をした伊邪那美命は死んでしまう。
伊邪那岐命は火之迦具土神を殺してから、伊邪那美命を取り戻すために死者の国である黄泉の国に向かった。
そこで死体となって醜くなった伊邪那美命の姿を見てしまった伊邪那岐命は恐れおののいて逃げ出し、それに怒った伊邪那美命が黄泉醜女という鬼女に伊邪那岐命を追わせた。
それでも逃げ続ける伊邪那岐命に、伊邪那美命はさらに黄泉軍と八柱の雷神(八雷神)にも追わせた。
最終的に伊邪那岐命は地上と黄泉の国の境界にある黄泉比良坂という坂を大岩で塞ぎ、伊邪那美命が追ってこられないようにした。
伊邪那美命は大岩越しに『こんなことをするならあなたの国の民を毎日1000人殺す』と言い、対して伊邪那岐命は『ならば私は毎日1500人の子供を産ませる』と言って二柱は離縁した。
伊邪那美命が毎日1000人殺すと言ったことで、黄泉津大神とも呼ばれるようになる。
この神話を元にした『黄泉津大神』のスキルは日に一度だけ発動可能で、発動するとイザナミがヨモツオオカミに変ずる。
ヨモツオオカミに変じたイザナミのステータスはこんな感じだ。
種族:ヨモツオオカミ
ランク:C
攻撃力:1745
防御力:1930
【スキル】
●雷神纏:自身の体に蛇の姿をした八柱の雷神を纏わせる。頭に大雷神、胸に火雷神、腹に黒雷神、女陰に咲雷神、左手に若雷神、右手に土雷神、左足に鳴雷神、右足に伏雷神を宿す。
●黄泉醜女召喚:黄泉の国の鬼女であるヨモツシコメを召喚する。
攻撃力と防御力が上昇して保有するスキルが変わり、神話で伊邪那岐命を追ったヨモツシコメを召喚出来るようになる。
また、『雷神纏』は眷属召喚のスキルではないものの、神話で伊邪那岐命を追いかけた八雷神を自身の体に宿らせるというものだ。
神話の描写では、腐った伊邪那美命の死体に蛇の姿をした八雷神が宿っていた。この八雷神は伊邪那美命が単体で生み出した神のため、『雷神纏』はイザナギが一緒にいなくても発動可能なスキルである。
そして、ヨモツオオカミが召喚出来るヨモツシコメのステータスは以下の通りだ。
種族:ヨモツシコメ
ランク:C
攻撃力:990
防御力:1215
【スキル】
●神速:神のごとく速い足を持ち、一瞬で4000キロメートルほどを駆け抜けることが出来る。
●黄泉軍召喚:1500体の黄泉の軍勢である黄泉軍を召喚する。
ヨモツシコメの持つ『神速』のスキルは、黄泉醜女が神話で4000キロメートルを一飛びで走ると描写されていたことが由来だ。
加えて、『黄泉軍召喚』のスキルの説明を見てわかる通り、神話で伊邪那岐命を追いかけた黄泉軍は、ヨモツオオカミではなくヨモツシコメによって召喚される仕様となっている。
1500体の眷属を召喚する『黄泉軍召喚』のスキルはなかなか強力ではあるが、黄泉軍はDランクモンスターだ。
しかし、黄泉軍の保有するスキルが例によって例のごとく強力なのだ。
種族:黄泉軍
ランク:D
攻撃力:90
防御力:340
【スキル】
●統率者強化:この軍勢を率いる統率者の攻撃力と防御力を1.5倍に強化する。
●黄泉戸喫:黄泉の国にある食べ物を召喚する。この食べ物を食した者は黄泉の国の住人となり、アンデッドと化す。
まずバフ系統のスキルである『統率者強化』。これは黄泉軍を率いる者のステータスを1.5倍にするというもので、もし『太陽の化身』スキルで強化された状態の八咫烏が黄泉軍を率いた場合、攻撃力が3750になる。
さらに黄泉軍が持つもう一つのスキルである『黄泉戸喫』は、輪を掛けて強力だ。
このスキルは黄泉の国にある食べ物を召喚し、召喚したその食べ物を食べた者をアンデッドに変えて黄泉の軍勢に組み込むというものだ。『従属化』に似ている。
『黄泉戸喫』のスキルは、黄泉の国にある食べ物を食べると黄泉の国の住人になってしまうという話が由来となっている。
黄泉戸喫の『黄泉』は黄泉の国の『黄泉』を表し、『戸』は竃を、『喫』は食べることを意味する。
死んでしまった伊邪那美命を取り戻すために伊邪那岐命が黄泉の国に向かった際には、伊邪那美命が『黄泉の国の食べ物を食べてしまったので、黄泉の国の住人になってしまった』と伊邪那岐命に言っている。
この時二人は直接会わず建物越しに話していたのだが、こっそり覗いた伊邪那岐命が死体となり腐った伊邪那美命の姿を見てしまったために、怒った伊邪那美命が黄泉醜女と黄泉軍に伊邪那岐命を追わせたのだ。
神話に忠実にするならばヨモツシコメの持つ『黄泉軍召喚』や黄泉軍の持つ『黄泉戸喫』のスキルは、ヨモツオオカミに変じたイザナミが持っていて然るべきものだ。
それをせずにイザナミの眷属召喚によって召喚された眷属がそれらのスキルを持っているのは、イザナミが強くなりすぎることを抑えるためだと八咫烏は言っていた。
確かにそうだよな。もし制限が設けられていなかったらイザナミが強くなりすぎるもんな。
けど今更だが、何でイザナミのカードがドロップしたんだ? Cランク最強のモンスターであるイザナミなら、『擬神罰』に巻き込まれても余裕で生き残れると思うんだが。
「イザナミは一度ヨモツオオカミに変じないと、『雷神纏』と『黄泉醜女召喚』のスキルが使えないからのぅ。変ずる前に倒されてしまったのであろう」
言われてみると、ヨモツオオカミに変じる前のイザナミのステータスはCランク下位相当だ。だから『擬神罰』に巻き込まれて一瞬で倒されたのも納得出来る。
「つーか『擬神罰』に巻き込まれてカードがドロップしているってことは、イザナミも水生モンスターなのか?」
「いや、ガーゴイル同様に陸海空で活動可能なモンスターだ。イザナミはガーゴイルとは違って翼を持たないが、神の名を冠する種族のモンスターは河童などの水生を除いて基本的に空を飛べるからのぅ」
なるほどなぁ。このイザナミは運がなかったのか。『擬神罰』に巻き込まれて抵抗する前に倒されちゃうなんて。
巻き込んだのは俺だけどね。罪悪感はあるよ、そりゃ。でもモンスター達が人間を襲うのが悪いんだ、うん。
人類が生き残るためにはモンスターを殺すしかねぇんだ。許せぇ。
今話は説明回でした。