31.棚ぼたのリザルト《1》
河童と八咫烏によって回収したドロップアイテムを受け取り、一旦拠点に戻る。回収されたドロップアイテムの数が尋常じゃないほど多かったので、確認のためだ。
「何だ、帰ってくるのが早かったじゃないか」
マヨヒガの屋敷に入って玄関で靴を脱いでいると、意外そうな顔をした先輩がやって来た。
「海上で『擬神罰』を発動したら水生モンスターとかを巻き込んじゃってドロップアイテムが大量に手に入りまして」
「ああ、そういうことか」
俺が早く帰ってきた理由をすぐに察した先輩は、南原さんを呼ぶかどうか聞いてきた。
「うーん、ドロップアイテムの確認なので面白くないかもしれませんが……ここで呼ばないと仲間外れになっちゃうので南原さんも呼びましょう」
先輩の表情を見るに、ドロップアイテムの確認を一緒にしたいみたいだ。南原さんを呼ばずに先輩が確認作業を手伝うならば、南原さんが仲間外れになる。
そうならないために、つまらないかもしれないが一応南原さんも誘っておかないと。
一人で寂しく過ごすのは嫌だけど、大人数で人間関係を意識するのも面倒だ。いいとこ取りしたいけど、無理だろうな。
俺はマヨヒガの日本家屋内にある、畳が何十枚分あるんだよってくらい広い居間に向かう。先輩は南原さんを誘うため、南原さんのいる部屋へ行くために階段を上がっていった。
襖を開けて居間に入り、部屋の中央にある囲炉裏の前で腰を下ろしてあぐらを掻いた。
ちなみにこの囲炉裏、見た目は何の変哲もないが取り外し不可の魔導具である。
マヨヒガの屋敷に最初っから取り付けられていて取り外しが出来ないため、魔導具ではあるが宝物庫には保管されていなかったものだ。
この囲炉裏の形をした魔導具は収納カードに入れられなかったので品質とかはわからんが、Fランクモンスターの魔石一個を消費するだけで最大半日ほど火を付けていられるというコスパの良いものだ。
Fランクモンスターの魔石なんてそこら辺にいるゴブリンを蹴り殺せば手に入るから、この囲炉裏の魔導具は効率が良いのだ。
「連れてきたぞ、俊也」
待っているまで暇なので、かなり数が増えたモンスターカードの整理をしていたら先輩と南原さんが居間にやって来た。
彼女達を手招きして囲炉裏を囲むように座らせてから、回収したドロップアイテムを入れている収納カードをポケットから取り出した。
「えっと、これは何の集まりなんですかね?」
すると畳に正座して礼儀正しく座った南原さんがこの集まりの目的を尋ねてきた。
どうも先輩は南原さんにこれから何をやるのか伝えずに誘ったようだが、南原さんもよくそれで居間に来る気になったな。
先輩が俺に説明してくれと視線で促してくるので、掻い摘まんで説明する。
「なるほど、だから帰ってくるのが早かったんですね」
「そういうことです」
まず二人に数枚の収納カードを渡してから、大量のドロップアイテムを収納カードから引っ張り出して居間の床に並べていく。
物が大量でも一つの袋に纏めれば一枚の収納カードに入れられるが、その場合は解説の欄が表示されないのだ。
一枚の収納カードに一つの物を入れた場合ではないと、解説の欄は表示されない。
だからこれからやるのは、ドロップアイテムを一つ一つそれぞれ収納カードに入れて解説の欄を確認していく作業だ。
「じゃあ、手分けしてやっていきましょう」
「はい!」
「ああ、わかった」
俺が最初にドロップアイテムを収納カードに入れると、それに続いて彼女達も収納カードにドロップアイテムを放り込んでいった。
しばらく作業をしていると、モンスターカードが目に入った。それを手に取り、何のモンスターのカードなのか見てみる。
種族:ガーゴイル
ランク:D
攻撃力:95
防御力:350
【スキル】
●水の息吹:口から加圧した水流を噴射する。
●守護者:守護する対象を指定している場合に限り、自身を大幅に強化する。生物・無生物問わず守護する対象を指定出来るが、対象に指定出来る数の上限は一つである。
ガーゴイルはよく物語などで見る、悪魔のような姿をした石像のモンスターだ。動く石像のモンスターなので、ゴーレムと似ているかもしれない。
ただし、元々ガーゴイルというのは悪魔や怪物の姿を象った雨樋の機能を持つ彫刻だったのである。
ガーゴイルは西洋建築での屋根に設置され、雨樋なので雨水の排出口として使用されている。ガーゴイルはシンガポールのマーライオンのごとく、口から雨水を吐き出しているのだ。
また、ガーゴイルは雨樋であるとともに芸術作品でもあり、様々な形をしたガーゴイルが無数に存在する。
このガーゴイルの起源は、ガルグイユという竜にある。ガルグイユはフランスのセーヌ河の畔にいて、火を吹き、水を吐き出して大洪水を起こすことが出来ると伝えられている。
そこに司祭ロマヌスが現れて、ガルグイユを焼き殺した。しかし首から上が焼け残ったため、その首が町で晒される。この晒された首がガーゴイルの起源だ。
そんなガーゴイルであるが、不気味な姿をしたものが多い。そのため、ガーゴイルが動き出して人を襲うという感じの物語が描かれていき、ガーゴイルというモンスターが誕生した。
スライムやゴブリンほどではないにしろラノベなどのファンタジー小説などではガーゴイルは多く登場するようになった。
そして面白いことにモンスターであるガーゴイルに、彫刻のガーゴイルの特徴が反映されている。例えば、ガーゴイルの持つ『水の息吹』のスキルだ。
彫刻のガーゴイルが口から雨水を吐き出しているため、モンスターのガーゴイルもこのスキルを与えられているのだと思われる。
ガーゴイルが『守護者』というもう一つのスキルを持つのは、ゲームや小説などでガーゴイルが侵入者を防ぐための防衛機構として描かれることがあるからだろう。
カードに描かれたガーゴイルのイラストを見てみると、彫刻のガーゴイルのように不気味な怪物の姿をしていてコウモリのような翼がある。
「いや、ちょっと待て」
俺は無意識に呟いていた。けれど無理もない。気持ち悪い考えが頭に思い浮かんでしまったのだ。
カードのイラストのガーゴイルは人型で、哺乳類で唯一空を飛べるコウモリのような翼を持っている。ということは、ガーゴイルも哺乳類なんじゃないか、という考えだ。
非常に気持ち悪い。何とガーゴイルの容姿は、カードのイラストにあのゴブリンより醜く描かれている。
人型のゴブリンやオークも汚らしくはあるが、ガーゴイルの場合は見ただけで生理的嫌悪感を抱くレベルだ。ステータスに表示されてないだけで精神攻撃系のスキルは絶対持っていそうな気がする。それぐらい醜い。
そんなのが哺乳類とか考えたくないので、このことは忘れることにしよう……。
まあDランク上位のモンスターであり、『守護者』のスキルも有用そうなのでマヨヒガの防衛戦力として運用しようかな。
外見は醜い石像だから、マヨヒガの屋敷の庭に芸術作品として配置しておこう。屋敷内には絶対に入れない。夜にトイレで起きてガーゴイルと遭遇したら、ほぼ間違いなくトラウマになるからだ。
というか、何で水生モンスターではないガーゴイルが『擬神罰』の発動に巻き込まれたんだろうか。海上で発動したから、水生モンスターしか巻き込んでないと思うけど……。
俺が気付かなかっただけで空を飛んでいたガーゴイルを巻き込んだ可能性もあるか。
その後も延々と作業を続けていき、モンスターから魔導具がドロップしたこともわかった。といっても、ドロップした魔導具は一つだけだったが。
名称:名もなき英雄の剣
品質:C
解説:誰にも名を知られず、功績も歴史に残されなかった英雄が使っていた愛剣。この剣を装備した者を英雄たらしめる。装備者にスキル『英雄』を付与。
これだけだと強そうに見えるでしょ? でもあんまり強くはなかった。そもそも品質がCだから『劣雷槍』以下だ。
この『名もなき英雄の剣』を装備すると付与される『英雄』っていうスキルの効果は、スキル保持者に常時勇気を与えるというものだ。
常時発動型のスキルなんだが、勇気を与えるってのがイマイチ理解出来ない。
いろいろ試した結果、ゴブリンに『名もなき英雄の剣』を装備させたらドラゴンモドキの『恐怖の息吹』のスキルが効かなかった。
なので『英雄』というスキルは、恐怖を抱かなくなって強者にも堂々と立ち向かえるようになるものなんじゃないかと俺は考えている。
この魔導具のすごいところは、装備したら『英雄』のスキルが俺にも付与されたことだな。
『名もなき英雄の剣』を装備しても変化が感じられなかったから俺には使えないのかと思ったが、フラガラッハが俺にもスキルが付与されているって言うから八咫烏にも確認したら本当らしかったのだ。
常時発動型のスキルだから俺はあんまり実感ないが、フラガラッハや八咫烏などのCランクモンスターには一目瞭然なんだってさ。
鞘ごと腰にぶら下げている状態でも装備しているという扱いになって『英雄』のスキルが付与されるから、これからはずっとこの剣を腰に下げておく。
それで気付いたんだが、モンスターの持つスキルと覚醒者の持つ異能って同じものなんじゃないか?
だって人間の俺にもスキルが付与されるってことは、人間もスキルが使えるってことだ。そんでもって、人間の使う力でスキルっぽいものは覚醒者の持つ異能くらいしかない。
そのことを指摘してみたら、八咫烏はあっさりと教えてくれた。
「何だお主、そんなこともまだ気付いてなかったのか?」
……罵倒とともに。