2.成長する剣
インテリジェンス・ウェポンの話をしよう。そもそも、インテリジェンス・ウェポンは無機物系ではなく死霊系モンスターに該当する。
実体のない死霊が剣などの武器に憑依しているモンスターが、インテリジェンス・ウェポン系統のモンスターとされている。
しかし本来死霊系モンスターとは実体がないので物理攻撃が効かない、という非常に厄介な存在だ。
しかしインテリジェンス・ウェポンには実体があり、死霊系モンスターでありながら物理攻撃で倒すことも可能である。
そのため、Dランクに分類されるインテリジェンス・ウェポン系統のモンスターは、ランク詐欺などと馬鹿にされる雑魚敵扱いだ。
……俺と似てるね。涙が出てきたよ。
ただ、世間で言われているほどインテリジェンス・ウェポンは弱くはない。Dランクモンスターとしては申し分ない強さだ。
ただ他の死霊系モンスターは物理攻撃が無効なので、それらと比べると格落ち感が否めないというだけのことだ。
つまり何を言いたいのかと言うと───
「インテリジェンス・ウェポンめちゃくちゃつええぇぇぇ!」
俺はインテリジェンス・ソードを振り回し、Dランクのハイ・オークの首を一撃で刎ねる。
さすがインテリジェンス・ソードだ。Dランクモンスターを簡単に倒せるようになるとは。
「おっと、ドロップアイテムを拾わないと」
俺の異能は特別なアイテムをドロップさせるというものだが、だからといって魔石がドロップしないわけではない。今回のドロップは魔石だったようだ。俺はそれを拾い上げる。
そうしたら、剣がわずかに振動した。何だろうと思っていると、剣が勝手に動いて魔石を切断したのである。
え? なぜ急に? と思っていたら、インテリジェンス・ソードのカードが光る。何だろうと思ってカードのステータス部分を見てみると、俺は思わず目を見開いた。
種族:インテリジェンス・ソード
ランク:D
攻撃力:105(5UP!)
防御力:355(5UP!)
【スキル】
●装備者強化・剣術
●浮遊
攻撃力と防御力が5も上がっていた。これは魔石を切断したからだろうことは容易に想像出来る。吸収したってことかな。ということは、この剣は成長するということか。
そしてインテリジェンス・ソードは嬉しそうに小刻みに振動していた。意外と可愛い奴だな。
よし、家に帰ったら魔石をどんどん吸収させて最強の剣にしてやらないと。
生きているんだから当たり前だが、成長する剣。すごいカッコイイ。インテリジェンス・ウェポン系統のモンスターは魔石を吸収して強くなるってことなのかな。
ちなみにカードからモンスターが召喚出来るということは誰にも言ってないよ。避難所にいた奴らは皆俺を馬鹿にしてたからな。言うわけないだろ。
というか、話は変わるけど足が欲しいな。車とかはこんな世界になっちゃったから使えないし、自転車とかも地面が平らな場所でしか使えない。
だから、馬系のモンスターのカードが欲しいんだが。だけどケンタウロスとかは嫌だな。見た目が嫌だ。キモい。無理無理。
ゴブリンとかオークも見た目はキモいが、乗るわけじゃないからまだ大丈夫。だけどケンタウロスはキモいから乗りたくない。
うーん、気持ち悪くない馬系モンスターはペガサスとかか? だけどペガサスって確かCランクモンスターだよな。CランクとDランクの間の壁はすごい高い。
Cランクモンスターになると、Dランクモンスターと比べものにならないくらい強くなるのだ。Cランクモンスターを単独で討伐出来る奴なんて、覚醒者の中にはいない。
どんなに強い覚醒者でも、単独ではDランク上位のモンスターを倒すのが精々だ。
まずは地道に成長していくしかない。毎日の積み重ねも大事なことだ。
「お?」
帰路についていると、霧のようなモヤモヤしたものが見える。そしてその霧には怒り狂った表情の顔が張り付いていた。間違いない、Eランクの死霊系モンスターであるレイスだ。
下から二番目のランクに位置するレイスであるが、実体のない死霊なだけあって物理攻撃が効かない。倒せるのは魔法型の異能を持った覚醒者か、魔法を使うモンスターだけだ。
レイスはスコットランドの伝承などに伝わる幽霊であり、吸血鬼と同様に太陽光が弱点だとされている。
だが日が沈んでいないのにレイスがいる時点で察したかもしれんが、モンスターであるレイスは太陽光にまったく弱くないのだ。
伝承とは違って太陽光を浴びてもダメージを受けないので、目の前にいるレイスを倒すには魔法を使うしかない。
だから例え覚醒者でも魔法型の異能持ちでないのなら、死霊系モンスターからは全力で逃げろ、というのが常識となっている。
だが俺の持っている剣ならば、物理攻撃であろうと死霊系モンスターに攻撃可能だ。それは、インテリジェンス・ウェポンが死霊系モンスターだからである。
死霊系モンスター同士が衝突すると、両者がダメージを受けるということが覚醒者の間では知られている。
そしてインテリジェンス・ウェポンは死霊系モンスターなので、この剣でレイスを斬ればダメージが与えられるはずだ。
その場合はインテリジェンス・ソードもダメージを受けることになるけど。
俺はレイスに向かって突っ込み、インテリジェンス・ソードを振るう。するとレイスの悲鳴が聞こえ、霧は四散した。
「呆気なかったな」
レイスの魔石を拾い、それをポケットに入れる。
レイスに生身の人間が触れるとダメージを受けるが、それでも所詮は切り傷程度。Eランク相当の力しか持たない雑魚敵だ。ただ物理攻撃が効かないのが厄介なだけの害獣である。
今でこそそう言えるが、カードの使い方を理解していなかった頃の俺は本当に弱かった。モンスター中最弱と言われるFランクのスライムと死闘をするほどだ。
これからもっと強くなって、俺を馬鹿にしてきた奴らを見返してやる。
決意を新たに歩き始めた俺は、インテリジェンス・ソードの鞘が欲しいなと考えていた。
念じてからモンスターが召喚されるまでには、数秒のタイムラグがある。強いモンスターに遭遇してから召喚するにしても、召喚する前に俺がダメージを受けてしまう可能性が高い。
だから、外に出る時にはモンスターを召喚しっぱなしにしている。無論、インテリジェンス・ソードもである。だが、インテリジェンス・ソードをずっと持っていると重くて疲れるのだ。
だから、このインテリジェンス・ソードの形に合うような鞘が欲しい。そうしたら持たなくて済むから幾分か楽になるだろう。
と言っても、俺に鞘は作れねぇ。俺はそんな器用な奴じゃないからな。工作系のスキルを持ったモンスターのカードでも手に入れてみるのが最善な気がする。
それと、自宅にある食料も少なくなってきた。今度どこかから調達しないとな。
◇ ◆ ◇
「ん?」
俺の家の前に人影が見えるので、バレないようにこっそりと近づいてそいつらの顔を確かめる。
家の前で三人の男が話し合っているが、顔を見る限り知り合いではない。何の用だろうか。俺は三人の会話に耳を立てることにした。
「───本当にこの家なのか?」
「ああ、間違いない。避難所にいた覚醒者の奴に聞いたからな」
「だとしたら、あの出来損ないの覚醒者の家がこれか」
「そうらしい。例の覚醒者に戦う力はないからな。そのくせ、魔石をたんまりと貯め込んでいるって話だ」
「魔石がそんなあんのか? なら山分けだな」
魔石目当てか。まあ魔石って実際便利だからな。魔法型の異能が発現した覚醒者なんかは、魔石に貯まっている魔力を使うことで強力な魔法が一度だけ放てるようになるらしいし。
だから、今の世の中では魔石が通貨の代わりとして使われていたりする。
そして、魔石は大きければ大きいほど価値が上がる。ランクが高いモンスターからドロップした魔石の方が大きいからだ。
俺はある程度の量の魔石を家に保管しているのだが、他の覚醒者がその情報を漏らしたようだ。クソが、あいつらめ。
まずはこいつらをぶっ飛ばすか。そんで情報を漏らした覚醒者が誰か、締め上げて聞き出そう。強くなってから仕返ししてやる。
俺はゴブリンのカードを三枚取り出し、召喚する。
「あの三人を捕らえろ。出来るだけ傷付けるなよ」
「「「ギャギャギャッ!」」」
三体のゴブリンは返事をしてから、あの三人の男へと向かっていった。ゴブリンの攻撃力は10だ。低いように思うかもしれないが、覚醒者でもない人間ではゴブリンにすら敵わないのだ。
生かして帰す気は全くない。以前にも何回か襲撃を受け、そのたびに魔石を盗まれていた。そのことを知っているはずの奴らは、誰も俺を助けようとはしない。
それに、食料なんかも毎回盗まれる。こんな世界になってしまったから、食料を盗むということは相手に死ねと言っているようなものだ。だから、俺も遠慮する気はない。
前の俺は狩られる側だったかもしれない。だが、今はもう狩る側だ。
俺はモンスターを召喚して命令出来るが、もしそれを誰かに知られたら飼い殺しにされる可能性もある。もしくは、モンスターがこの世界に出現したのは俺が原因だと言われるかもしれない。
だから極力この能力のことは隠しておく。明かすのは、最低でもCランクモンスターを召喚出来るようになってからだ。
だが、こいつらは生かして帰さないので、モンスターを操れることを明かしても何ら問題はない。
「クソ!? ゴブリンか!?」
「どうする!?」
「やばい、逃げろっ!」
逃がすかよ。オークも召喚してやる。
「うわあああぁぁぁ!! 何でここにオークがっ! ここら辺はFランクモンスターしか湧かないはずだろ!?」
「知るかよっ!」
ふふふ、滑稽だな。人様の家に押し入ろうとするからこうなるんだ。
オークとゴブリン達が三人を拘束したのを確認してから、俺は姿を現す。
「よう、助けはいるか?」
俺が声を掛けると三人は助けを求めるように顔を上げるが、俺を視界に入れた途端に落胆した。
「出来損ないの覚醒者が単独でオークを討伐出来るわけないだろ!?」
「使えないんだから、せめて囮になれよ!」
「そんな剣なんて持ってもテメェじゃ何も出来ねぇよ!」
……うわぁ。こいつら、マジかよ。俺の家に忍び込もうとしてたくせに。頭大丈夫か?
「この盗人どもめ。立場をわきまえろ。オーク、一人殺せ」
俺が指示を出すと、オークは一度うなずいて拘束している一人の男の頭を潰した。うん、グロいな。モンスターを殺してるからグロ耐性があるが、耐性がなかったらゲロ吐いてたよ。
実際、他の二人は吐いてるし。
「さて、自分の立場は理解したか? そのモンスター達は俺の支配下にあるわけだ」
男達は驚愕し、そして顔面蒼白となった。
「聞きたいことがある。ここが俺の家だと誰に聞いた? それと、俺の家に魔石があることもだ」
俺は睨むでもなく、怒るでもなく、無表情で尋ねた。無表情が一番怖い。幼い頃からいろいろやらかして親に怒られていた俺の実体験である。