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27.宝物庫《2》

「お、これじゃーか?」


 宝物庫の本棚に並べられていた本を一つずつ収納カードに入れて解説を見ていたら、魔導書と表示された本があった。




収納物:炎の魔導書グリモワール

貴重度:B+

解説:ネームドアイテムである炎の魔導書。紙幣を消費することにより炎の魔法を放つ。魔法の威力は消費する紙幣の価値に比例する。




 やっぱりあったか、ネームドアイテム。グリモワールってどんな意味だったけ。ああ、あれだ。フランス語で魔導書を表す単語だった記憶がある。


 魔導書とグリモワールって意味が重なってるじゃん。そこんとこどうなんだよ。


 というか何で消費するのは魔石じゃなくて紙幣なんだ? どっから紙幣が出てきたんだよ。繋がりがまったく見えてこない。


 『炎の魔導書グリモワール』って長いし言いにくいな。もうグリモワールって呼ぼう、うん。


 俺はグリモワールを手に取ってページをパラパラとめくるが、どこも白紙だな。表紙にも背表紙にも何も書かれていないし、収納カードがなかったら見逃していただろう。


 唯一絵が描かれていたのが1ページ目だけで他のページには絵も文字もなく、シミだけが目立つ古ぼけた本だ。


 1ページ目に描かれている絵というのは、おじさんが紙幣を燃やす絵だ。どっかで見たことがあるんだが、思い出せん。


「……これは『成金栄華時代』という明治の成金の風刺画だな」


 なので先輩や南原さんに絵を見せてみた。すると先輩いわく、魔導書の1ページ目に描かれていた絵は『成金栄華時代』という風刺画らしいことがわかった。


「第一次世界大戦が始まった影響で明治時代の日本にはかなり成金がいたのは知っているな?」


「ええ、まあ。学校で習った覚えがあります」


「この『成金栄華時代』という絵は、その日本の成金の風刺画だ。夜の暗闇で靴を探している女性に対して、成金の男性が紙幣を燃やして灯りを取る場面を表しているんだ」


 じゃあこの紙幣を燃やしているのが成金のおじさんか。紙幣を燃やして灯りにするとは贅沢な。


 でもこれでわかったぞ。グリモワールが炎の魔法を放出するのに紙幣を消費するのは、この絵と関係しているんだな。


 ……この魔導書、ネタ枠じゃないか? なぜもっと普通の魔導書にしなかったんだ。作った奴は誰だ?


 あ、今気づいたけど紙幣持ってない。モンスターが出現してから硬貨や紙幣は(さび)れて価値を失ったので、硬貨も紙幣も持ってないんだよ。


 貨幣の代わりとして今では魔石が使われている。中には物々交換をしている人達もいるが、基本は魔石が貨幣の代用として機能しているのだ。


 どうしよう。紙幣を持ってないから、グリモワールの性能を確かめられないな。


「あの……銀行から調達出来ないんですか?」


「「それだ!」」


 南原さんのナイスアイディアに俺と先輩のセリフがハモった。


 盲点だった。そういえば銀行にはお金がたくさんある。ただ硬貨や紙幣の価値はモンスターの出現で暴落したので、誰も銀行からお金を調達しようとは考えないはずだ。


 だからまだ銀行には紙幣がたんまりあると思う。それを持ってくればいいんだ。


「さすが南原さん!」


「あ、えっと、ありがとうございます!」


 グリモワールの性能テストをするには銀行から紙幣を調達しなくてはならない。だが今は宝物庫の中を漁っている作業中だ。


 性能テストをしたければ、早く宝物庫を調べ終えねば。




◇ ◆ ◇




 数時間後、やっと宝物庫にあった物を全て調べた。その結果、俺の評価で一番の掘り出し物はグリモワールとなった。


 グリモワールの品質は『劣天剣』と同じくB+だが、『劣天剣』はコスパが悪いので俺的には評価が低いのだ。


 『ポーションのボトル』は念願の回復アイテムなので、品質はC+だけど『劣天剣』より掘り出し物だと俺は思っている。


 やっぱりどんなに性能が良かったとしても、コスパが悪かったら駄目だ。


 まだ性能テストはしてないけど、収納カードの解説を見れば大体の性能はわかるから、それを基準とした宝物庫の掘り出し物の評価は以下の通りになっている。


1位:炎の魔導書グリモワール

2位:ポーションのボトル

3位:劣雷槍

4位:劣天剣


 まだ倒せる見込みのないBランクモンスターの魔石を消費する『劣天剣』は当然だけど最下位だ。コスパが悪い上にBランクモンスターが倒せるようになるまではお荷物になる。


 『劣雷槍』はコスパは悪いが消費するのはCランクモンスターの魔石なので運用は可能。


 武器の魔導具の総評としては、性能が(とが)り過ぎてるんじゃねぇかってことかな。性能を平均的にしたら良いと思うんだけど。


「マスター、どうであった?」


 宝物庫を調べ終えてマヨヒガの日本家屋から出た俺達の前に、庭で待機していた八咫烏がやって来た。


「ああ、使えそうな魔導具があったよ」


「良かったのぅ。それで、これからいかがする?」


「このゴルフ場を中心に拠点を広げていこうと思ってる。でもゴルフ場を囲うようにトレントを配置しておきたいんだけど、トレントのカードが足りないんだよ」


「トレントを狩ってカードをドロップさせるしか方法はあるまい」


 拠点の強化は喫緊(きっきん)の問題だ。マヨヒガ内に侵入されることはないだろうが、現状ではゴルフ場には簡単に侵入出来てしまう。


 ゴルフ場に畑を作ってモンスター達に管理させようと考えているが、ゴルフ場に簡単に侵入出来てしまうので侵入者に畑の収穫物を奪われる可能性もある。


 だからゴルフ場に侵入出来ないようにトレントで囲いたいが、それをするにはトレントのカードの数が圧倒的に足りていない。


 地道に拠点の範囲を広げていくしかないか。


「俺は用事で行くところがあるから、八咫烏は先輩と南原さんを守って待っていてくれ」


「用事とは?」


「銀行強盗だ」


 召喚したヒッポグリフに乗りながら、俺はそう言ってニヒルに笑った。


 銀行から紙幣を盗んでくるので強盗に変わりはない。もう紙幣に価値はないので紙の束でしかないが、それでも紙幣は紙幣だ。


 銀行強盗の気分を味わいながら紙幣を盗んでくるとしよう!


「お主は楽しそうだな。……脳天気だからかのぅ」


 後半は小さな声でボソッと呟いていたが、エルダートレントの『神木の加護』によって強化された聴力でばっちり聞こえてるんだが。


「お前、銀行から帰ってきたらお仕置きだかんな!」


「おお怖い。(いた)し方ないのぅ」


 八咫烏はニヤニヤと笑いながら俺を見送った。やっぱりあいつくだらない会話好きだよな。そういう性格なんだろう。


「あっちに向かってくれ」


「グルゥ!」


 ヒッポグリフの頭を撫でつつ銀行のある方向を指差すと、嬉しそうに一度鳴いてからスピードを上げた。


 うんうん、騎乗系モンスターはヒッポグリフみたいに可愛くないと駄目だよな。上半身がおじさんのケンタウロスに騎乗するとかマジで論外。


 上半身が可愛い女の子のケンタウロスとかだったら大歓迎なんだが、そんなケンタウロスはいないと八咫烏が言っていた。ショック……。


 ヒッポグリフは可愛いから、ケンタウロスに乗り換えることなんてないだろう。


 でもヒッポグリフの上半身である鷲って獰猛(どうもう)な肉食動物だったような……。やめろ、それ以上考えるな!


 それ以上考えてしまったら、ヒッポグリフが可愛く見えなくなってしまうじゃないか!


「グルゥ!」


 ヒッポグリフの鳴き声で我に返ると、真下には銀行がすでに見えていた。さすが速いな。Dランクモンスターといっても、時速は普通に新幹線を余裕で凌駕(りょうが)するからな。


 そもそも覚醒者ではない人間は、全モンスター中最弱の異名を冠するスライムよりも弱い。スライムの攻撃力は5だが、覚醒者ではない人間の攻撃力なんて1くらいが妥当だ。


 スライムや腐肉喰い、ゴブリン達でもパンチ一発でコンクリートを破壊することぐらいは容易いからな。


 異能が発現した覚醒者という人間達がいなかった場合は、人類はスライムに絶滅まで追い込まれる可能性はあった。まあ火器でDランクモンスターまでなら対応は可能ではあるが。


 それでもそういう武器がなければ、覚醒者でもない人間がモンスターに敵うわけがない。結果として、かつて地上の覇者であった人類の栄華は(つい)えたのだ。


 ヒッポグリフがゆっくりと銀行の前の道路に着地し、俺も背中から地面へと降りた。


 銀行は窓ガラスや自動ドアのガラスなどが割れていて、壁も一部崩れている。人間が管理しなくなって4年も経つんだから、どこもこんなもんだよ。


 俺はヒッポグリフをカードに送還し、念のためにリビングアーマーとフラガラッハを召喚して装備しておく。


 何で事前に装備してなかったのかというと、リビングアーマーとフラガラッハってかなり重いんだよね。だから装備したままヒッポグリフに騎乗したら、ヒッポグリフのスピードが遅くなってしまうんだ。


 幸いエルダートレントの『神木の加護』のお陰で、生身の状態でもCランク下位相当のモンスターの攻撃なら耐えられるし。


 八咫烏はCランク上位だけあって俺がリビングアーマーとフラガラッハを装備して乗ってもヒッポグリフより速いが、いかんせん乗り心地が悪いからなあ。


 乗り心地さえ何とかなれば良いんだが。馬につける(くら)みたいなもんでも付けてみるか?


 でも今のところ物を作るのに特化したスキルを持つモンスターのカードを持ってないから、そういうのは作れない。


 早いとこ生産系能力の高いモンスターのカードが欲しいね。もしくは生産系の力を持つ魔導具とか。


 そういう魔導具がマヨヒガにあるかもと期待していたんだけど、マヨヒガにあった魔導具は攻撃能力のあるものが多かった。


 『ポーションのボトル』は生産系の魔導具ではあるが、それ以外にあった生産系の魔導具のほとんどは実用性皆無だった。


「マスター、銀行内からモンスターの気配が感じられます」


 銀行に入ろうとするとフラガラッハが止めて、中にモンスターの気配がすることを教えてくれた。


「そのモンスターのランクは?」


「さほど強力な気配ではないので、良くてDランク上位ほどでしょうか。数は五体以上十体未満程度だと思われます」


 Dランクモンスターの群れか。十体未満の群れならばフラガラッハを使わずとも殲滅が容易だが、屋内戦闘はこれが初めてになる。慎重にいこう。


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