26.宝物庫《1》
遠野物語としてのマヨヒガは、訪れた者には富などを授けるが欲深い者には罰を与える家だ。
モンスターとしてのマヨヒガもそれを踏襲していて、訪れた者はマヨヒガの中から物品を一つだけ持ち出して良いことになっている。これが訪れた者に与えられる富だ。
ただし害意などを持つ者がマヨヒガに訪れたり、マヨヒガ内から物品を二つ以上持ち出したりすると『意思ある屋敷』のスキルによって大幅に強化された眷属に襲われることになる。これが欲深い者に与えられる罰だ。
モンスターに対して害意を持たずに近づく者なんていないので、結果としてマヨヒガから物品を持ち出せた奴はいないだろうがな。
そのマヨヒガから持ち出せる物品は、当然そこら辺にある普通の物ではない。八咫烏に聞いてみるとマヨヒガの中には魔導具なるものがあり、訪れた者はその魔導具を一つ持ち出せるらしい。
この魔導具というのはなんと、覚醒者でもない一般人でも魔法を使えるようになる道具なんだとさ。
気になったのでくわしいことを聞いたら、魔石を消費することで発動する魔導具が主流だけど、魔石以外を消費して発動する魔導具も存在するとのこと。
河童を倒した際にドロップした『河童の皿』は、キュウリを消費して河童を召喚する魔導具という扱いになっている。
そんで、そんな夢のような魔導具がマヨヒガのどこにあるのかっていうと、宝物庫という部屋にあるらしい。
そう、今俺達の目の前にあるのが宝物庫の扉だ。
フラガラッハが感じた魔力の流れは、この扉の先にあるであろう宝物庫の魔導具からだろう。
ちなみにこのマヨヒガは俺が召喚したので、ここからなら俺達は物品を二つ以上持ち出しても罰を与えられることはない。
魔導具をマヨヒガからいくらでも持ち出せるとか、俺の異能がチート過ぎるぜ。
「ここが宝物庫か」
宝物庫と呼ばれる部屋なので、この中には魔導具以外にも宝石や金銀財宝が詰め込まれている。だがこんな世界では金銀財宝に価値はないのであまり興味はない。
魔導具は有用なので、金銀財宝はなくてもいい。まああったら貰うけどね。
「おーい! 先輩、南原さん! 大丈夫そうです!」
後ろにいる二人にそう言いながらリビングアーマーをカードに送還し、鉄製の扉へ近づいていく。
「立派な扉だな」
すぐに俺の元に来た先輩は顎に手を当てながら大きな宝物庫の扉を見上げた。
「ええ、八咫烏いわく宝物庫の中には金銀財宝や魔導具があるようですよ」
「魔導具?」
「誰でも魔法が使えるようになる道具です。主に魔石を消費するようですが」
「なるほど、魔導具とは便利なものだな」
南原さんも来たので早速俺が重厚な扉を押して開け、宝物庫の中に入った。
宝物庫内部の広さは学校の体育館くらいで、棚や机などにこれでもかというくらい金銀や宝石、魔導具と思われるようなものが並べられていた。
木箱もあるが、布が掛けられているので中身はわからない。ただ宝物庫にあるものなのだから、何かしらすごいものだろう。
おお、武器などもあるな。宝剣などもあるが実用性重視の武器もある。これらも魔導具なのかもしれない。
「マスター……」
俺が宝物庫にある武器を物色していたら、フラガラッハから不安げな様子で俺を呼んだ。ただ、どんどん声量が小さくなっていっていた。
「そんな不安そうにすんなよ。俺のメインウェポンはフラガラッハだ」
「はい、マスターっ!」
その瞬間、フラガラッハが嬉しそうにうなずいた。
ただ気になるものは気になるので、宝物庫にある武器を収納カードに入れて解説を見てみた。その中でも強そうな武器はこれくらいかな。
名称:劣天剣
品質:B+
解説:劣化天剣。本来の天剣は装備者に天使を憑依させてステータスを絶大に強化する『天使化』を発動可能だが、その劣化品のため発動にはBランクモンスターの魔石を十個消費する必要がある。
名称:劣雷槍
品質:B-
解説:劣化雷槍。本来の雷槍は神の裁きを擬似的に再現した『擬神罰』を発動可能だが、その劣化品のため発動にはCランクモンスターの魔石を五十個消費する必要がある。
『劣天剣』と『劣雷槍』。天剣は天使が装備者に憑依するらしいから、天使の剣ってことで天剣なんだろう。
雷槍は神の裁きを擬似的に再現、とか解説にあるな。雷は空から落ちるから、昔は雷は神罰だとか言われていたからかな?
どちらもオリジナルを劣化コピーしたような武器のようだが、それでもかなり強そうだ。ただ『劣天剣』の方はBランクモンスターの魔石を十個消費しないと『天使化』を発動出来ないらしい。
そもそもBランクモンスターを倒せるほどまだ俺は強くないので、『劣天剣』は今のところ使い道がないな。
で、『劣雷槍』はCランクモンスターの魔石を五十個消費することで、『擬神罰』が発動出来る。Cランクモンスターの魔石五十個くらいはあるにはあるが、それで一度だけしか発動出来ないってコスパ悪くないか?
それに二つとも品質がBなのに、フラガラッハみたいに名前が付いてないな。ということはネームドモンスターみたいな感じで、ネームドアイテムみたいなのもあるのかな。ちょっと探してみよう。
その前にちらりと先輩と南原さんの様子を窺うと、二人とも宝石の指輪に目が釘付けだった。やっぱ女の子はそうだよな。
それからは武器以外の使えそうな魔導具などを探すために片っ端から収納カードに入れて解説を読んでいく。
着用する者のサイズに調整される服とかいう使い道がわからないのもあったけど、実用性が非常に高い魔導具を見つけた。
それはガラス製のボトルだ。中央部に魔石をはめ込むための窪みがある以外は、どこもおかしいところは見当たらない。
ただフラガラッハは魔力の流れを感じているので、間違いなくこのボトルは魔導具である。これを収納カードに入れて解説を読んでみた。
名称:ポーションのボトル
品質:C+
解説:このボトルに水を満たして中央部の窪みに魔石をはめ込んで一日放置すると、水がポーションに変わる。はめ込む魔石の品質が高い方がポーションの質が上昇する。
これはファンタジーの定番であるポーションを生み出せる魔導具のようだ。生み出すポーションの質は消費する魔石の品質に依存している。
今までは傷を癒やす力を持つモンスターのカードを持っていなかったので自然治癒に任せていたが、これからは傷を癒やしてくれるポーションが使える。
ただこの魔導具で生み出したポーションは、患部に掛けるのか経口なのかわからんな。考えても答えは出ないので後回しだ。
まずは『ポーションのボトル』に水を入れてから、ボトルの中央部の窪みにCランクモンスターの魔石をはめ込んだ。これを放置していると明日にはポーションになるとか楽だな。
他にも有用そうな魔導具を確保しておきたいが、どうかな。
「マスター、ここから強力な魔力の流れを感じます」
「ん?」
フラガラッハが勝手に飛び上がり、本棚の辺りを旋回している。
「そこに何か強力な魔導具とかあんのか?」
「間違いなくあります。おそらく魔導書の類いだと思われます」
「魔導書?」
また男心をくすぐる厨二ワードが出てきた。字面で大体わかるが、説明を聞いておいて損はないだろう。
俺はフラガラッハに説明を促した。
「私は導きの神ほどこういう関連のものにくわしくはないのですが……。魔導書とは魔導の神髄を記した書物で、要するに誰でも魔法を使えるようになるものです」
「……なら、魔導書は魔導具と何が違うんだ?」
「魔導書は魔導具の上位互換だと定義されています。魔導書によって発動された魔法は、魔導具と違って発動者が意のままに操れるようになっているからですね」
つまり、あれか。魔導具を使えば誰でも魔法を放てるが、それにより放たれた魔法を制御するのは難しい。だけど魔導書によって放たれた魔法ならば意のままに操れる、というわけか。
「はい、そのような認識で概ね大丈夫でしょう」
その魔導書がこの本棚の中にあるってことか。
是非とも見てみたい。そう思った俺は一冊ずつ本棚から抜き出して手に取り、収納カードに入れて解説を確認するという作業を始めるのだった。