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19.自宅防衛戦《1》

「何だ貴様!?」


「初めまして、そしてさようなら。俺はお前達の死神だよっ!」


 フラガラッハを振り回しながら、絶対に堅気(かたぎ)じゃない拳銃構えた野郎どもを()ぎ倒していく。


 こいつらは関所にいた五人が所属している反社会的組織の幹部らしい。要するにヤクザさんってことだ。


 ここはそのヤクザ達が拠点とするビルの最上階で、彼らいわく最終防衛ラインとのこと。もうすぐ俺に突破されるがな。


 にしても組織の幹部なだけはあるぜ。覚醒者じゃないのに体術だけで俺と渡り合っている奴もいるからな。


 ただ俺は今、リビングアーマーに『鎧化』のスキルを使わせている。防御力は上がるが、リビングアーマーのサポートが受けられなくなるというスキルだ。


 そのため、俺は身体能力の差に物を言わせるような戦い方をしている。体(さば)きも素人同然で、リビングアーマーによるサポートがないからどうしてもテレフォンパンチになってしまう。


 大振りとまではいかないが、テレフォンパンチのためかなりの確率で避けられる。だからフラガラッハを振り回して薙ぎ倒すという方針に変えた。


 なぜあの五人が所属する組織の本部に乗り込んでいるのかというと、こいつらこの辺りでかなり好き勝手暴れ回っていたようだ。


 関所を設けて通行する者に物資を置いていくように銃で脅して命令したり、若い娘を(さら)ったりして欲望の限りを尽くしたんだとさ。


 攫われた若い娘がどうなったかは言わなくてもわかるだろう。このビルの一階に若い娘の死体がいくつも積み重ねて放置されていた。……しかも全裸で。


 こんな奴らは死んだ方が良い。だから捕らえて拷問した五人を処分してから、こうして本部へと乗り込んできたのだ。


 ちなみにこのビルの周りを俺が召喚したモンスター達が囲っているため、すでにこいつらはジ・エンドだ。


「こいつ強いぞ!?」


「クソ、かなり強力な覚醒者だ!!」


「取り囲め! それと誰か組織の覚醒者達を集めてこい!」


「無理です! すでに組織の覚醒者のほとんどがこいつに殺されてますよ!!」


「ならどうする!?」


 阿鼻叫喚(あびきょうかん)とはこのことだな。皆パニックを起こしていて、逃げ出す者も多い。まあこのビルからは逃げられないが。


 年貢の納め時だ、クソ野郎ども!




 幹部全員ぶっ殺したあとで、社長室みたいな部屋で偉そうに椅子で踏ん()り返っていた奴の首を刎ねる。


「ほい、終了」


 こうしてクソ野郎どもの殲滅は終わった。逃げ出した奴らは取り囲んでいるモンスターに捕らえられるか殺されているだろう。


 今首を刎ねたのが組長だったのかな。


 そう思いながら死体の懐を探ってみたら名刺みたいなのが出てきて、そこにこのヤクザ達の代表だと書かれていた。


 丁寧に『組長』という感じに書かれているわけではなく、このヤクザ達が表向きに名乗っていた会社の代表だと名刺にはある。


 やっぱこいつがこの組織のトップか。一番偉い奴なら戦えよ! 何でラスボスみたいに豪華な椅子に座って待ち構えていたのにクッソ弱いんだよ!?


 つーかそもそも、何でこんな世界になってんのに名刺を持ってんだ?


 まあ死人のことなんて、どうでもいいけども。それよりも戦利品を回収するとしようか。


 名刺をそこらに投げ捨て、食料庫を探すために社長室みたいな部屋を出る。どこかに食料や魔石、武器などを置いてある部屋があるはずだ。


 もちろんヤクザ達が持っていた拳銃も回収する。俺は使わないが、もしここに放置していて誰かの手に渡ったら危険だからだ。


 覚醒者ではない一般人でも、拳銃とかを手に入れたら増長して好き勝手暴れるような奴が必ずいるだろう。それだとせっかくこいつらを壊滅させた意味がなくなる。


「お、ここか?」


 厳重そうな扉を蹴破ると、その部屋の中には拳銃やライフル、マシンガンにバズーカなどが並べられていた。


 モンスターがこの世界に出現してからか、それ以前に集めたのかはわからんが、よくこんだけの武器を手に入れられたもんだ。


 それら銃器を収納カードに入れて回収したのち、部屋を出て食料や魔石を再度探し始める。




 各階全ての探索を終え、備蓄されていた非常食や魔石、各種銃器を収納した俺はビルから出た。


「ご苦労さん、八咫烏。逃げ出した奴はどれくらいいた?」


「十数人程度はいた」


「息の根は?」


「止めてある」


「よくやったな、上出来だ」


 ビルを包囲していたモンスターをカードに送還しながら、俺は八咫烏に首尾を聞く。どうやら首尾は上々のようだ。


「じゃあ、ゴルフ場周辺の地形の確認を再開しようか」


 ヒッポグリフを召喚して背中に乗り、猟銃を持っていた五人が関所を設けていた場所まで戻る。


 実はあの五人を殺したあと、聞き出した他の場所にある関所を順次壊滅させて回ったのだ。だからおそらく残党はいないし、いても少数だろうな。




◇ ◆ ◇




 日が暮れるまで拠点の候補地を探し回り、今やっと自宅に到着した。


 あのゴルフ場は拠点の候補地の中でも有力候補の内の一つになった。地形も守りやすいし、近くに自然があるため植物を操りながら戦うことも出来るからな。


 帰宅して玄関で靴を脱いでいると、南原さんが微笑みながら出迎えてくれた。


「どうでした?」


「拠点にするのにかなり好条件の場所を見つけましたよ」


「おお! それは良かったですね。そこを拠点にするんですか?」


「いえ、まだ決まったわけではないです。今後そこより好条件の場所が見つかる可能性もあるので」


 南原さんと喋りながらリビングへ向かうと、食卓にはすでに美味しそうな晩御飯が並べられていた。


「今日の晩御飯はサラダですか!」


「ええ、塚原さんが用意してくれた食材の中に貴重な野菜がたくさんありましたので贅沢(ぜいたく)をしようと」


「確かに贅沢ですね」


 変な会話かもしれないが、我が家では肉よりも野菜の方が貴重だったりする。


 モンスターがこの世界に出現するようになってもう4年が経ち、非常食の肉や干し肉などはほとんど食べられて消費された。


 コンビニやスーパー、デパートに行っても、缶詰などの長期保存に向く食料品はすでに取り尽くされている。


 それに加えて家畜の豚や牛、(にわとり)などは、モンスターの出現で世話をする農家の人間が逃げ出してとっくの昔に餓死(がし)しているだろう。


 モンスターを倒しても魔石以外ドロップしないので、山に入って野生の(いのしし)や鹿などを狩らないと肉は食えないだろう。……俺以外はだけど。


 俺は異能のお陰でモンスター肉が毎日たくさん手に入る上に、収納カードがあるのでまったく腐らない。なので我が家では逆に、野菜の方が肉より貴重なのだ。


 トレントみたいな果実を実らせる植物系モンスターのカードが他にも持っていたら違ったが、あいにく俺はトレント以外の植物系モンスターと戦ったことすらない。


 それにトレントが実らす誘惑の果実は甘いので、あれは野菜ではなく果物という扱いだ。だから我が家で野菜はかなり貴重な食材となっている。


 どっかの本で読んだが、木の実を果実、草の実を野菜と定義するらしい。ぶっちゃけ面倒なので、甘いのが果実、甘くないのが野菜で良いと思うのだが……。


「今日は肉野菜炒めにしてみました。食べて感想を聞かせてください」


 席に着くなり南原さんが自信ありげに言うので、今日はいつもより料理がうまく出来たのかもしれない。いつも美味しいのに。


「肉は何を使ったんです?」


「ハイ・オークの肉を使わせていただきました」


 ハイ・オーク。俺的にはすでにクソ雑魚に成り下がっているが、肉は普通に美味しい。


 というかオークの肉がイベリコ豚以上に美味しいのだ。その上位種であるハイ・オークの肉の美味しさは推して知るべし。


 ……いや、人生で一度もイベリコ豚なんて食ったことないけど。美味しい豚肉って言われて俺はイベリコ豚しか頭に浮かばなかったんだよ。


 オークって豚頭のモンスターだし、豚肉に分類されると思うんだよね。待てよ、猪頭の可能性もあるのか?


 オークに牙は生えていなかった。なので最初は豚頭かと思ったが、どうも家畜の豚は農家さんが牙を定期的に切っているらしいということを思い出した。


 ということは、あのオークの頭は豚でも猪でもないのか? 謎だ。モンスターは存在自体が謎だが、もっと謎が深まってしまった……。


「じゃ、じゃあ食べますね」


「はい、召し上がれ」


 謎が謎を呼んだので、モンスターについて考えるのはやめて(はし)を持って肉野菜炒めを食べ始める。


 慣れればどうってことはないのだ。電化製品だって仕組みは知らんが普通に使える。だからもうモンスターの謎は放置しよう、うん。


 そういうのは生物学者とかが考えることだよな。頑張れよ生物学者!


「うおぅ」


 口に入れたら美味しすぎて口から変な声が漏れ出てしまった。久々に野菜食ったからかな?


 最近はいつも肉ばっかだったからなあ。


「どうです?」


「美味しいですよ。キュウリとかも食感が良いですね」


「良かったです」


 南原さんはホッと安心したように胸を()で下ろした。


「そういえば朝のコンビーフどうでした?」


「あれは美味しかったです! やっぱりモンスター肉も美味しいですけど、加工された食品とかが恋しいです……」


 最初は目を輝かせながら美味しかったと言った南原さんだったが、最後の方はどんどん声が小さくなっていった。


 だよな、わかるよ。もう4年も加工食品を満足に食べれていない。


 避難所から回収してきた非常食などはまだあるが、それだって毎日満足するまで食べていればすぐに底を突いてしまう。


 だから加工食品はもう満足するまで食べられることはないだろう。


 ただ、今日壊滅させた反社会的組織の食料庫に肉の缶詰がかなりあったので全て持ってきたと伝えると途端に笑顔になった。


 ()付けされとる。この子、餌付けされとるよ。


「あ、そういえば!」


「ん?」


 南原さんが手を叩き、何かを思い出したように言う。


「塚原さんはご両親を探しに行ったりしないんですか?」


「っ……」


 彼女にとっては特にこれといった意味もなく、会話を繋ぐために聞いただけかもしれない。だが、俺にとってはあまり触れてほしくない話題だった。


 そのため、口元が引き攣って言葉に詰まってしまう。そんな俺の状態に気付いた南原さんが、しまったという感じの顔を作る。




 ───その時だった。


 胸元のポケットから、ガラスが割れるような音が鳴った。これは、召喚中のモンスターが死亡した時に鳴る音だ。


 俺は胸ポケットに入れてあるカードを取り出し、どのモンスターが死んだのか確かめる。


「っ!? マジかよ!?」


「どうしたんですか、塚原さん!?」


 ああ、そうか。南原さんはこの音をまだ聞いたことがなかったな。


「今襲撃を受けているようです。この家の防衛をしているトレントが死にました……」


 まだ二枚しか持ってないトレントを殺された。Cランクモンスターのカードはあまり持っていないのに、その一枚を殺されたのだ。


 普通の覚醒者がCランクモンスターを倒せるわけないので、襲撃者はおそらくCランク以上のモンスターだろう。心して迎え撃たねば。


 今自宅の防衛として外に召喚しているのは、トレント一体、エルダートレント一体、ハイ・オーク十体、ホブ・ゴブリン三十体、腐肉喰い七十体だ。


 その内、一体のトレントはすでに殺されている。


 腐肉喰いは近づいてくる生物の気配を察知させるために配置しているのだが、トレントを倒せるだけの敵が近づいてきているならば連絡に来るはずだ。


 それがないということは、腐肉喰いが察知可能な半径50メートルの範囲外からの攻撃でトレントが倒されたとみるのが妥当だ。


 襲撃を仕掛けてきたのは遠距離攻撃可能なモンスターの可能性が高い。厄介だな。俺は遠距離攻撃出来るモンスターを持っていないのに。


 いや、ドラゴンモドキはブレスを放てるな。相手に『恐怖』の状態異常を付与するだけだが。


 んなことはいいか。まずはリビングアーマーとフラガラッハを召喚して装備し、念のためにインテリジェンス・シールドも召喚しておく。


 こいつのスキルである『反射』は地味に役立つからな。


 あとは南原さんの護衛として、家に入りきるだけのハイ・オークを召喚する。


「あ、あの……塚原さん?」


「俺が帰ってくるまで家を出ないでくださいね」


 南原さんに出来るだけ穏やかに言って、玄関に向かう。


「…………ちゃんと無事に帰ってきてくださいね」


 リビングから出る前に南原さんから不安そうに言われたので、俺が相当焦っているのはバレているのかもしれない。顔には出してないつもりだったんだけどな。


 でも普通焦るよ。三枚しか持ってないCランクモンスターのカードの内一枚がやられたんだぜ?


 もし敵がBランクモンスターだったら、と考えると心臓がすごいバクバクする。


「マスター、大丈夫ですか?」


 フラガラッハにも心配されているようだ。情けなくて嫌になるね。


「大丈夫だ。……行くとしようか」


 靴を履いて何度も深呼吸し、まだ心音はうるさいが時間はあまりない。先ほどからハイ・オークやホブ・ゴブリンのカードがガラスの割れる音とともに白黒になっているのだ。


 フラガラッハを強く握り締め、俺は家から飛び出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] そういや死んだモンスターカードって消滅じゃなくて白黒になるだけだしそのうち復活手段でるのかね
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