1.インテリジェンス・ソード
モンスター出現から4年後の、2024年。
日本の、かつて千葉県館山市と呼ばれていた場所に建つ、小さな一戸建てにて。この物語は始まりを迎える。
◇ ◆ ◇
モンスターが出現する少し前にローンを払い終えたこの小さな一戸建てのリビングで、俺はソファに座りながら目に涙を浮かべていた。
俺の右手には一枚のカードがあり、そのカードにはカッコイイ西洋のロングソードが描かれていた。装飾も少し派手で、宝剣みたいに見える。
「ついに……俺の努力が報われる時が来るぜっ!」
俺は現在26歳の自宅警備員である。
いや、だってモンスターが現れて会社がビルごとなくなったから……。無職なのは俺が悪いわけじゃないよ? 違うからね?
んで名前は塚原俊也。これでも一応覚醒者だ。
俺の異能は、いわゆる特殊型と呼ばれるものだ。特殊、つまりはスペシャル。聞こえは良いかもしれないが、特殊過ぎて使えないって意味の特殊型である。ちくせう。
そのせいで他の覚醒者からは白い目で見られるし、一般人からは覚醒者のくせに使えないと見下される。
だから自宅に引きこもりつつ、自分の異能を活かすために試行錯誤していた。
それから4年が経ち、俺はついに自分の能力の使い方を理解し始めた。
俺の異能とは、倒したモンスターに特別なアイテムをドロップさせる、というものだ。
一般人も覚醒者も分け隔てなく、モンスターを倒せば魔石と名付けられた黒い石がドロップする。だが俺がモンスターを倒すと、例えばゴブリンだったら『ゴブリンの腰布』などがドロップされるのだ。
今のところ他の奴がモンスターから魔石以外をドロップさせたとは聞かないので、唯一無二の俺だけの異能だ。ただ、本当にこの能力は使えない。
スライムからは『スライムの粘液』、ゴブリンからは『ゴブリンの腰布』、オークからは『オークの精力剤』などがドロップされる。それだけだ。ただ、それだけ。
だから皆に馬鹿にされた。
ただ、たま~に倒したモンスターのイラストが描かれたカードがドロップすることがある。紙みたいにペラペラなカードなのに、破ろうとしても破れない。材質なんだろう。
何か特別なものかも、と思ってそれらのカードは大切に保管していたのだ。
そして先々月くらいに、このカードの使い方を知った。
その日は何で俺が皆に見下されなきゃいけないんだとムカつき、酒に溺れていた。そして酔っ払いながらゴブリンのカードを手に持っていじくり、そのまま寝てしまった。
それで朝起きると目の前にゴブリンが立っていたのである。あれは驚いたよ。ちゃんと家の戸締まりしてたのに。
それから何やかんやあって、そのゴブリンはカードから召喚された存在だと知る。なぜ今まで召喚出来なかったかと言うと、どうやら俺は寝ている間にカードに涎が掛かっていたらしい。
その後いろいろと試してみた結果、カードに唾液や血液などの体液を垂らすことで召喚が可能になる、ということがわかった。
何で体液を垂らすというプロセスを挟まないとモンスターが召喚出来ないのかはわからない。
体液を垂らしてDNAをカードに登録することで、モンスター召喚が可能になるんじゃないのかと俺は考えているけどね。
召喚したモンスターを再度カードに送還することも可能だった。けれど召喚中にモンスターが倒されたりしたら、そのカードからは二度とモンスターが召喚出来なくなる。
これはたくさんあるゴブリンのカードで試した。
そのことが判明してから、俺はとあるモンスターのカードを手に入れるために躍起になっていた。それが、俺が今右手に持っているカードだ。
種族:インテリジェンス・ソード
ランク:D
攻撃力:100
防御力:350
【スキル】
●装備者強化・剣術:この武器の装備者の身体能力を底上げし、達人のような剣術を繰り出せるようにする。
●浮遊:ある程度自由に空を浮遊出来るが、五分程度で効果が切れて飛べなくなる。クールタイムは二時間。
このカードのモンスターは、剣の形をしている。だから召喚したら装備出来るんじゃないかと思っていたんだが、俺の予想通りだった。
スキルというのは字面から予想するに、特殊技能みたいな意味があるんだと思う。
で、インテリジェンス・ソードは『装備者強化・剣術』というスキルを持っているな。説明欄に書いてあるけど、この剣を装備した者の身体能力とかが強化されるって効果のスキルなんじゃないかな?
この剣を装備すれば、俺は強くなれる。強くなれれば、誰にも見下されなくて済むんだ。
それに攻撃力もすごい。他のDランクモンスターのカードの攻撃力は90前後なのに、こいつは100もあるんだぜ?
あ、カードに書かれているランクっていうのは、モンスターの強さを表している。
モンスターにはA、B、C、D、E、Fの六つのランクが定められ、左側のランクに行くほどモンスターの脅威度は上がり、右側のランクに行くほどモンスターは弱くなる。
Aランクのモンスターには主にドラゴン、Fランクのモンスターはスライムやゴブリンが代表的かな。
この脅威度によるランク制度は、視界に収めたモンスターのステータスを鑑定して読み取るという異能を持った覚醒者によって定められたものだ。
なんでもモンスターを対象にして鑑定をすると、種族の下にランクが書かれたステータスがゲームみたいに表示されるんだってさ。
その表示されたステータスに書かれてあるランクに基づいて、モンスターにランクが定められた。
鑑定能力ってファンタジー作品なんかで主人公が持ってそうな能力だよね。羨ましい……。
ちなみに、Dランクモンスターは銃器で倒せるけど、Cランクモンスターに銃器はまったく通じない。
どんなに強い覚醒者でも、単独ではDランクモンスターしか倒せない。また、覚醒者が束になって多大な犠牲を払わなければCランクモンスターは討伐出来ない。
だから、Cランクモンスターと遭遇したら死を覚悟しろってのが常識なわけだ。
話を戻そう。
……俺は緊張しつつ、針で指先を刺してカードに血を垂らす。そしてそのカードを持って、召喚するように念じる。
するとカードのイラストが徐々に薄くなって消え、その代わりに目の前にカードのイラストとまったく同じ剣が現れた。
迷わずその剣の柄を掴むと、自分の力が増したような気がする。これは勘違いなどではない。インテリジェンス・ソードのスキルによるものだろう。
というか、インテリジェンス・ソードなんて種族名なんだし、意識があるのかもしれないな。挨拶しとくか。
「よろしく、俺は塚原俊也だ。これからお前の装備者になる」
端から見たら頭のおかしな奴だ。俺だったらこんな奴と関わりたくないと思う。……自分で言ってて凹んだ。
しばらく待ってみるが返事がないので、意識があるだけで会話までは成立しないのだろう。肩を落としてちょっとガッカリしていると、その剣が少し振動した。
俺にはその振動が''よろしく''と言っているように感じられた。