16.神木の祝福
強かったな、エルダートレントは。八咫烏は『太陽の化身』の効果で攻撃力が2500はあるってのに。フラガラッハなんぞ通常状態で攻撃力3000超だぞ。
エルダー種ってのはどんだけだよ。しかも、ネームドなんてエルダー種より強いらしいし。
……フラガラッハ、お前ってすごい奴だったんだな。
つーか、Dランクのネームドであるフラガラッハがここまで規格外なんだ。Cランク以上のネームドモンスターってもっと強いってことだよな?
世の中は広いな。まだまだ上には上がいるってことか。
よしっ! 国造ったら篭もろう。死にたくないし。
でもなぁ、もしBランクモンスターの襲撃があれば安全ではなくなる。安全のためには、せめてBランクモンスターのカードが必要になるわけだ。
地道にやっていこう。俺の異能があれば、いずれはAランクモンスターだって倒せるようになるはずだ。
「マスター、エルダートレントのドロップアイテムです」
その時、フラガラッハが俺のところに戻ってきた。剣身にはエルダートレントのドロップアイテムと思われるものが載せられている。
「……カードか!?」
「そのようです。エルダートレントのカードでした」
フラガラッハの剣身に乗ったカードを手に取ってから見てみると、そこには先ほど戦っていたエルダートレントのイラストが描かれていた。
種族:トレント(エルダー)
ランク:C
攻撃力:1185(MAX!)
防御力:1395(MAX!)
【スキル】
●誘引
●誘惑の果実
●神木の祝福:最大で一人、対象に指定した者を祝福する。祝福された者の身体能力は大幅に強化され、植物が操れるようになる。
攻撃力と防御力が通常のトレントより220も高いな。ただし成長限界に到達しているから、『成長限界突破』のスキルを手に入れない限りエルダートレントのステータスが上がることはないだろう。
通常のトレントは持っていない、『神木の祝福』という興味深いスキルが生えている。俺はてっきり『従属化』でトレントを配下に出来るスキルを持っているかと思ったが。
エルダートレントはトレントと同じくCランクだから、上位種という判定ではないのか? だから下位種を従えるための『従属化』スキルが生えなかった、と。あり得るな。
エルダートレントのスキル『神木の祝福』は、対象に指定した者の身体能力を強化出来るのだ。ただ身体能力の強化はフラガラッハの『装備者強化・剣術』などのスキルでも可能だ。
では『神木の祝福』のどこがすごいかって、対象に指定した者に植物が操れる力を授けられるってとこだよ。
神木ってのは神社とか寺に生えている大きな大木で、神の依り代だったよな。トレントはエルダー種になると神木になるのか。
植物を操るって効果は地味ではあるが、格好良さそうだ。例えば森などに近づくと、木が独りでに動いて俺が通るための道が勝手に作られる演出が可能だ。
やべええぇぇぇ! カッコイイじゃん! 何かそれめっちゃやりたい! 早速召喚して、エルダートレントには俺を祝福してもらおう、そうしよう!
興奮して鼻息を荒くしつつ、エルダートレントのカードを持ちながら召喚するように強く念じた。すると仰々しい光りのエフェクトとともに大樹が現れる。
「エルダートレント、聞こえるか?」
「…………聞こえております、我が主」
エルダートレントの声は老爺のそれだった。ただ八咫烏の話だとこのエルダートレントって四年から五年くらいの歳だろ。トレントは年取るのが早かったりするのだろうか。
「早速で悪いが、俺を祝福してくれ」
「…………では、祝福させていただきます」
光りの粒子のようなものがエルダートレントから俺の体へと流れ込んでくる。それが俺の全身を巡り、やがて薄くなって消えていった。
「…………これで我が主も加護持ちになったはずです」
「加護持ち?」
「…………祝福を受けた者は加護と呼ばれる力を得ることが出来ます。私の祝福を受けた場合は『神木の加護』を得ます」
エルダートレントの返事が遅い。年取って反応が鈍くなっているってことかな。
くわしく聞いてみると、加護ってのは覚醒者の異能とかとは違うんだって。祝福されることで得られた力を総称して加護と呼ぶらしい。
これで植物を操れるようになったってことか。
「植物を操るにはどうしたら良い?」
「…………上達すれば手足のように操れます。まずは植物を急速に成長させてください」
「急速に成長?」
「…………植物に触れながら、その植物に力を流し込むようにイメージすれば大丈夫です」
俺はアスファルトの割れ目から生える小さな植物の芽に手を当てて、力を注ぎ込むようにイメージをしてみる。
するとその芽は急激に伸び始め、アスファルトを壊しながら成長していく。数分もする頃には、エルダートレントと見間違うほどの大樹に育った。
何かトトロでこんなシーンがあった気がする。ほら、あれだよ。
「夢だけど、夢じゃなかった!」
……。
…………。
………………。
……………………。
「誰か反応しろよ!? 八咫烏とかさぁ!」
「なぜ我が反応しなくてはならぬのだ!?」
……恥ずかしいが、幸いモンスター以外には見られていない。大丈夫、悶死するほどじゃない。
「ふー」
息を吐いてから『神木の加護』について考えてみるが、少しイメージしただけで小さな芽がこんな大樹になるってすごくないか?
ファンタジー小説とかで魔法の発動はかなり具体的なイメージが必要なことが多いけど、これはかなり楽だな。軽くイメージすればすぐに発動する。
植物を操ることにも挑戦してみよう。俺が成長させた大樹に触れながら、手のように動かすイメージをしてみる。
「うおっ!?」
みるみるうちに大樹が巨人の手のように変形し、俺の意のままに動かせるようになった。よし、第三の手と名付けよう。
お、自分の手の動きに大樹の第三の手を連動させられるな。これなら植物を鎧みたいに纏っても戦える。……植物だから防御力は低そうだが。
蔦とかを操れば敵を拘束することも出来るようになるぞ。『神木の加護』の有用な能力だな。汎用性が高い。
「よし、アーマーモード!」
大樹を変形させて、俺に纏わせる。ただ大樹が大きすぎて、鎧というよりロボットに乗り込んでいるみたいになってしまった。
この大樹を俺の動きに連動させてみると、自分の体じゃないのに人型の大きな大樹が思い通りに動かせる。精密な動作も余裕だ。
触れていなくてもこの人型の大樹を操作出来れば、囮とか荷物運びに使えるな。
俺は人型の大樹の胸の部分にいたのだが、そこから抜け出してみる。それから操作出来るか試してみるが、そううまくはいかなかった。
「触れていないと植物は操作出来ないのか」
触れていないといけないというデメリットはあるが、この人型の大樹は様々な場面で活躍してくれることだろう。
う~ん、人型の大樹か……言いにくいし何か名前付けてみるか。
「うん、お前はウッドゴーレムだ」
俺はまだ見たことないけど、ゴーレムってファンタジー世界のモンスターとして有名だよな。実際にこの世界にゴーレムは存在するのかな。
「なあ八咫烏、ゴーレムってモンスターは存在するか?」
「いないな。ゴーレムはモンスターではない。ゴーレムはユダヤ教の伝承だと、動く土塊のようなものだ」
「いないのか」
スライムとかゴブリンとかオークとかいたから、ゴーレムもいると思ったんだが……。まあそこまでゴーレムが好きなわけじゃないから良いけど。
次はウッドゴーレムの耐久力テストだ。俺は拳を握り締め、全力でウッドゴーレムに向けて突き出した。
「うっそだろ?」
ウッドゴーレムは消し飛んでしまった……。脆いというだけでは済まないんだけど!?
「どうしてだ!?」
「…………我が主は『神木の祝福』によって身体能力が何倍にも強化されているので、当然の結果かと」
「!?」
『装備者強化・剣術』と『装備者強化・体術』のスキルの相乗効果で人間やめた身体能力にはなってたけど、『神木の祝福』の強化率が高すぎて大樹が粉々になっちまったぞ!
それにこれじゃあウッドゴーレムの耐久力がまったくわかんない。マジどうしよう。
「ふむふむ……ウッドゴーレムの耐久力は大体Dランク上位レベルであろう」
八咫烏が粉々に砕け散ったウッドゴーレムの残骸に顔を近づけながら、自分の推測を口にした。
「何でわかるんだ?」
「今のお主が本気でパンチすればDランク上位のモンスターくらいなら消滅させられるだろう。だからだ」
「いや、『神木の加護』を受ける前からハイ・オークなんてパンチ一撃で倒せていたけど?」
「Dランク上位のモンスターを倒すだけなら少し強い者ならば簡単だが、消滅は難しい。現にお主、パンチだけでウッドゴーレムを木っ端微塵にしたであろうが」
確かに、避難所にいた格闘型の異能が発現していた覚醒者でも、ハイ・オークをパンチだけで粉々には出来ていなかったな。
「今の俺ならCランク上位のモンスターでも倒せるかな?」
「それは無理だろう。Cランクでも上位に位置するモンスターなどは、攻撃力によるゴリ押しの勝負は基本しない。頭を使った勝負などをするようになるぞ。それに厄介なスキルを持つ奴もおる」
厄介なスキル、か。今まで八咫烏やフラガラッハの攻撃力でゴリ押し出来ていたから忘れていたが、モンスターはスキルを持っているもんな。
攻撃力や防御力はあくまで指標でしかない。モンスターの強さの本質はスキルだ。敵モンスターの攻撃力が低くても、油断してはならない。
まだカードの使い方を理解していない頃は慎重にモンスターを倒していたけど、強くなってからあんまり警戒とかせずに行動していたな。これからは気をつけるとしよう。