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122.意思ある諸国の連携

「至急連絡っす! 蝦夷汗国を除き、モンスター出現後に日本列島に誕生した全ての国家・組織の軍が四国避難所連合に続々と合流! 目標はジパング王国と思われるっす!」


 その報告を聞いた瞬間、私は頭を切り替えてベンチから立ち上がった。


「なに!? どういうことだ!」


「私も詳しくは把握してないっす。私が直接調べて得た情報ではないので」


 私が説明を求めるとミラージュは眉間に皺を寄せ、困惑したような目つきで言った。


 その驚きっぷりを見るに、確かにミラージュも寝耳に水の事態だったようだな。


「ならばその情報は誰が持ってきたものだ?」


「仁藤さんが四国に放っていた密偵からの情報っす」


 ああ、彼か。そういえば、諜報に長けた知り合いがいるのでその者達を四国に送り出すとかなんとか言っていたな。さすが元総理大臣だ。


「群臣をヴェルサイユ宮殿の会議室に集めろ! 情報を届けてきた密偵も忘れずに連れてこい!」


「ラジャーっす!」


 ミラージュは敬礼をすると、徐々に姿を薄くしていって消え去った。




◇ ◆ ◇




 ヴェルサイユ宮殿の会議室。そこには、ジパング王国の全貴族・準貴族が集まっていた。


「諸君、よく集まってくれたな。俊也が不在の今、国王の代理たる摂政(せっしょう)はこの()()雫が務める」


 まだ俊也とは結婚していないため、本来であれば私はまだ王妃ではないから塚原姓を名乗るべきではない。


 だがそれだと、侯爵でしかない私より公爵であるミラージュの方が国王代理に適任だということになってしまう。


 そのため自分で塚原姓を名乗るのはまだ少し気恥ずかしいが、今回のような場合は私が国王代理を務める正当性を示すために塚原姓を名乗って王妃であることを強調する必要があるのだ。


「さて。フランカ王国や流求王国などの軍が四国避難所連合の軍に合流していることは、すでに諸君らも耳にしていることだろう。だが私も含めて、ここにいる者の中で詳細を知っているは密偵以外にはいまい」


 皆が一斉に首を縦に振った。


「そういうわけで、密偵であるあなたには詳細について説明していただきたい」


 密偵の男を見ながら私は言う。


「わかりました。……現在、蝦夷汗国を除く列島諸国の軍が四国避難所連合に集まり始めている状況です。彼らは一時的に連合し、ジパング王国を一気に叩くつもりのようです」


 するとそこで、香織が密偵に尋ねた。


「その連合は、どの国が主導しているんですか?」


「四国避難所連合です。かの国が対ジパングの共同戦線を張ることを列島諸国に呼びかけたのが切っ掛けですので」


「つまり、私達は列島の全ての国と戦わなくてはならないわけですか……」


 香織は難しい顔をしながら呟く。


「私から質問をしてもいいかな?」


 私がそう言うと密偵は肯定をしたので、先ほどから気になっていた疑問にぶつけた。


「四国避難所連合は連合憲法により戦争を放棄していたはずだ。なのになぜ、かの国は対ジパングの連合を主導しているんだ?」


 密偵は眉を下げた。


「ええと、その……怒らないでくださいね?」


「ああ、大丈夫だ。私は怒りはしない」


 と言って安心させてやると彼は懐から和紙のような質感の紙を取り出し、ビクビクと震えながら私に差し出す。


 私はそれを手に取り、紙に書かれている文章に目を通す。


「なんだ、これは!」


 クシャリ。


 そんな音とともに、紙は私の手によって握り潰された。


「おい、紙にはなんと書かれていたんだ?」


 怒り心頭の私に聞くと不味いと思ったのか、仁藤さんは密偵に問う。すると密偵は私をチラリと見てから、仁藤さんに視線を移して開口した。


「四国中に何百、何千もの札が立てられていました、その立て札に書かれていた内容の写しが先ほど摂政殿下にお渡しした紙です。


 書かれている内容は……要約すると、自称『ジパング王国』は国家ではなく武装勢力であるため武力行使は合憲だとし、今回の敵対行為を正当化するものです」


 連合憲法は日本国憲法と同じく、()()()に対する武力行使を禁止している。


 そう、つまりジパング王国を()()ではなく()()()()と扱うならば、四国避難所連合による今回の敵対行為は連合憲法には違反していないことになる。


 彼らはこの敵対行為を、超法規的措置ではなく超実定法的措置と主張しているわけだ。


 やはり、奴らは憲法を拡大解釈してきたか。わかってはいたが、滅茶苦茶な理論だな。こんな屁理屈で四国に住む市民達が納得するとは思えないが。


「違憲ではないと主張しても、それだけだと今回の敵対行為を正当化するにはちと説得力に欠くのでは?」


 どういうことかと首を傾げながら、仁藤さんは独りごちる。


 仁藤さんに私も全面的に同意だ。敵対行為が合憲であることと正当であることはイコールではない。


 法律によって規制されていないからやっても大丈夫、なんてことはないのだから当然のことだ。そんなことをしたら法律の濫用になってしまうし、不文律なんてのもある。


 法律を濫用する人が増えれば、それに伴って法律で規制される事柄も増えていく。濫用を防ぐためだ。


 また、上の者が法律を守らねば、下の者も法律を守らなくなる。法治国家では王ですら法を遵守するのはそういうことだ。


 だからこそ連合憲法を拡大解釈した四国避難所連合の行動は、連合憲法の強制力の低下を招く恐れがある。


 それだけ、憲法の拡大解釈という行為は命綱なしでの綱渡りのような危うさを孕んでいる。


「翔太──準男爵閣下のおっしゃる通り、ジパング王国を武装勢力と扱うだけであれば今回の敵対行為を正当化することは不可能です」


 知り合いであるため密偵は仁藤さんを下の名前で呼ぶが、不適切だと思ったのか準男爵閣下と言い替えた。


「しかし、立て札に書かれていたのはそれだけではないのです。摂政殿下が写しの紙を握り潰したのは、おそらくこちらの理由でしょう」


 密偵がこちらを見たので、私は怒りを抑えつつ無言で頷く。


「立て札には、次のようなことも書かれていました。『モンスターを使役しているため自称ジパング王はモンスターの手先に違いない。故に対モンスター法に()()、我ら四国避難所連合は意思ある列島諸国とともに自称ジパング王を討ち取る』と」


 密偵の話を聞いているうちに抑えていた怒りが顔を覗かせ、私は平静を保つために目を閉じて深呼吸をする。


 ネームドモンスターになってからというもの、非常に怒りやすくなった。何日も徹夜してイライラしている状態がずっと続いている、と言えば想像しやすいだろう。


 だが、ネームドモンスターでなくとも私は怒っていたと思う。それほどまでに、奴らのやり方は気に入らない。


 それに、連合憲法に対モンスター法の条文が引き継がれている真意に気付かなかった馬鹿な自分のことも気に入らない。


 対モンスター法が連合憲法にあることを不思議に思っていたのに、私はその理由を考えようとはしなかった。そんな私を馬鹿と呼ばずしてなんと呼ぶのか。


「日本国憲法に由来する対モンスター法を持ち出して私達ジパング王国を悪者に仕立て上げることで、ジパング王国を攻める大義名分を作ったというわけですか」


 そう結論付けたのは、難しい顔で唸る香織だ。


 彼女は成長著しく、この話にも付いてこれているみたいだ。以前の彼女ではチンプンカンプンだったろうが、今の彼女は宰相の肩書きに負けないくらいにはなっているらしい。


「まず私達がやるべきは、列島諸国による対ジパング連合への非難と戦争の準備だ」


 怒りが鎮まってきた私は、今後の方針を示した。


 しかし……列島諸国による対ジパング連合、というのは嫌に長ったらしい名称だな。そう口にすると、仁藤さんが苦笑しながら言った。


「では、ひとまず対ジパング連合のことは多国籍軍とでも呼びましょうか。……いえ、安保理決議がないので、多国籍軍ではなく有志連合軍の方が適切ですね」


 有志連合軍か。良いんじゃないか。イラク戦争のせいで有志連合軍には良いイメージはあまりないし、奴らにはピッタリの命名だ。


 そう思っていると、密偵が言いにくそうにしつつも口を切る。


「実は対ジパング連合が名乗っている名前がありましてですね……」


「ほう」仁藤さんが興味を示した。「その名前はなんなんだ?」


「ええ、彼らは──































 ───()()討伐軍、と名乗っています」




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