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121.戦争の始まり《2》

 昨日投稿し忘れていた分です。

 時は少し戻り、三ヶ月ほど前に遡る。


 貿易使節団の大使である大宮の姿は、ジパング王国の王都ではなく四国避難所連合の首都・高松市長国にある建物の一室にあった。


 彼が率いる使節団はいくつかの市長国を経由し、つい先ほどジパング王国の王都から高松市長国に帰ってきたばかりである。


 行きは数週間程度だったが、ちょうど冬に重なったので帰りはやや遅れたのだ。


 そして部屋には、彼以外にもう一人の男がいた。連合長の夢野だ。


「大宮、ご苦労様だったな。それで、どうだった?」


 夢野が眼鏡をクイッと指で押し上げながら疑問を投げかけた。


「俺……というか四国避難所連合は法務大臣の女にかなり警戒されてるみたいだったぜ? ここ最近四国で広がっている噂も知っているみたいだったし、もしかしたらジパング王国への侵攻が漏れてるかも」


 そう大宮が答えると、夢野は頭を抱えてため息をつく。


「あの噂がジパング王国にまで流れているのですか」


 夢野が困っているのも無理はない。なにせ、その噂は全て事実なのだから。


「そうらしい。その噂のせいで警戒されてるっぽかった」


「出所は調べてありますか?」


「俺の部下達に調査させた結果、連合派から情報が漏れていることがわかった。ただ、どうも意図的なものではなく口が滑っていたりが原因らしい」


「……わざとでないのなら余計に質が悪いですね。彼らの口はさぞかし水に浮かぶことでしょう」


 こめかみを押さえ、夢野は脱力した。


「あん? 口が水に浮かぶ? どういうことだ?」


 大宮が首を傾げると、その様子を見た夢野は苦笑いをする。


「そういう反応をされると恥ずかしいのですが……。私が言わんとしていることは、水に浮かぶほど連合派の口が軽いということですよ」


「あー、なるほど」


 ポンッと大宮は手を叩く。


 この反応により夢野は迂遠(うえん)な言い回しをしたことを恥じ、それにより真っ赤に染まった自分の頬をポリポリと掻いた。


「それで、ジパング王国行って得た情報は他にありますか?」


「そうだな……あ、理由は知らんがジパング王が不在だったな。だから法務大臣の女が代わりに俺の対応をしていた」


 すると夢野は興味深そうに身を乗り出す。


「ほお、ジパング王は不在? それは幸先がいいじゃないですか。彼が不在ならば、易々とジパング王国を叩き潰せますね」


 夢野は、ジパング王国への侵攻の際に一番の障害になるのはジパング王だと想定している。


 それはジパング王が強いからという単純な理由ではなく、自分の異能が唯一通用しない相手こそがジパング王なのではないかと夢野が考えているからだ。


 そんな彼の異能は───




◇ ◆ ◇




 場面は変わり、高松市長国の壁内に置かれる連合長宮殿の会議室。


 そこには四国避難所連合の連合長を始めとして、流求王国の国王や九州諸国同盟の盟主・フランカ王国の国王、その他各離島に樹立した様々な小国家の君主達が(つど)っていた。


 また、各国家の君主達だけではなく、九州などで小規模な活動をしていた複数の武装勢力のリーダー達なども会議室に顔を出している。


 これら武装勢力は傭兵のような仕事を請け負っており、魔石を対価に護送や避難所同士の小競り合いに参加したりしていた。


 武装勢力ら──以後、傭兵団と呼ぶ──は四国避難所連合に雇われたから高松市長国に集まっているわけだが、この場に出席している国家の代表達は雇われているわけではない。


 みな、同じ目的を持っているからこそこの場に出席しているのだ。


 その目的とは何か、わざわざ言うまでもなく諸君らは察していることだろう。打倒ジパング王国、という目的である。


「機は熟しました」


 会議室にいる者に一人ずつ顔を向けながら、夢野は宣言する。


「ジパング王が不在の今こそ、ジパング王国を攻めるのには最適です。これ以上放置して手が付けられなくなる前に、かの国をこの場にいる我々で倒さねばなりません。各々、自国に帰ったら軍を率いて四国に再び来てください。ともにジパング王国に攻め込みましょう」


 なお、傭兵団は全軍がすでに四国に集結しているので拠点のある九州に帰る必要はない。


「それでは、なにかこの場で伝えておきたいことなどがある方はいらっしゃいますか?」


 そう夢野が尋ねると、一人が手を挙げた。


「連合長よ。この場を借りて皆に頼みたいことがあるのだが、良いか?」


 挙手をしたのは流求王国の国王だ。


「良いでしょう。皆さんもそれでよろしいですね?」


 夢野の問いかけに対する返事は誰からもなかったが、流求王はそれを無言の肯定と受け取って口を開いた。


「一番槍は俺ら流求王国がいただく」


 頼みがあると口にしておきながら、彼は異論を認めないといった態度で言い放つ。


 これには全員もれなく面食らった。危険を伴う一番槍など、進んでやろうと思う者は普通はいないからだ。


 当たり前のことだが、自分達には被害が及ばないのならばと、流求王国が一番槍になることを皆喜んで認めるはずである。


「一応確認しますが、あなたの言う一番槍の意味は『最初に手柄を立てる』という方ではなく『最初に敵陣に突っ込む』という方ですよね?」


「ああ、そうだ」


「なるほど。それなら反対意見のある人はいないんじゃないですか?」


 そう言いながら夢野が皆に視線を投げかけると、先ほどとは打って変わって反応が返ってきた。


「異議なし」


「右に同じ」


「私もです」


「同意する」


「賛成です」


「認めよう」


 すると流求王はニヤリと笑みを浮かべた。


「フハハ、では一番槍はいただいた。初撃でジパング王国の首都機能を麻痺させてやろうではないか!」


 とこのように流求王が調子の良いことを言い始めると、彼の背後に立っていた側仕えが咳払いをする。


「陛下、出来ることと出来ないことがございます」


 側仕えは躊躇いなく苦言を呈した。


「くっ……わかっている! だが先駆けて攻撃をするからには必ずや大打撃を与えてみせよう!」


「ですから、出来ることと出来ないことがあるのですよ」


「なに、大打撃を与えることくらい余裕だ!」


 自信満々に流求王は言い、これに側仕えの男は痛そうに頭を押さえてうなり声を上げた。


「陛下、お願いですからこのような場での明言は控えてください……。もし大打撃が与えられなかった場合、あなたの発言によって我々は他国から批判される可能性があるのですよ? 頼みますよ、本当に!」


 側仕えは流求王に必死に頼み込む。これが功を奏したのか流求王は不承不承ながら口をつぐみ、側仕えはホッと安堵のため息を漏らした。


 それから間髪入れず、フランカ王国の国王が口を開く。


「僕から質問があるのだが、連合長は答えてくれるかな?」


「質問の内容によりますが、出来うる限り答えさせていただく所存です」


「ならば遠慮なく聞こうか。ジパング王国を倒したあと、本州をどのように統治する気なんだい? 君の考えを知りたい」


「私の考え、ですか」


 夢野は顎に手を当てた。


 まだジパング王国を倒せていないのに、もう本州をどのように統治するのか考えるというのは異なものだと思うかもしれない。


 しかし、統治方法を考えずに脳死で敵国を倒して併合するだけというのは、考えなしの馬鹿がやる所業だ。併合した元敵国の国民による反乱などが容易く想像出来るからである。


 つまり戦争を起こすには、戦争の終わらせ方や戦後処理までを想定して事前に準備しておく必要があるというわけだ。


「全てをお話しすることはまだ出来ませんが、統治方法ならばすでに考えています。


 かつて西方に存在した偉大なる大帝国の統治術は、次のような言葉で表されていました。分割して統治せよ、と」


 夢野は間を置いた。


「そう、帝政ローマや大英帝国に代表される分割統治を採用し、本州を統治しようと私は考えています」


 分割統治。それは被支配者を分割させることで統治をやりやすくする方法であり、なおかつより長期的な統治の実現が見込める方法でもある。


 簡単に説明すると、被支配者を複数の集団に分割し、その複数の集団が互いに反目するように仕向けることで統治者へのヘイトを分散させる仕組みになっている。


 ブリカスが使っただけあり、なかなかえげつない統治術だ。


「分割統治をするために、まずジパング王国の各地方都市をこちらに寝返らせるのが現実的だと思っています。そして我々の支配下に下った地方都市への待遇に格差をつけるというローマ式分割統治をすることで、反乱を抑えます。地方都市の待遇というのは、自治を認めたり認めなかったりすることです。


 待遇が悪い都市は待遇が良い都市を妬み、待遇が良い都市は待遇が悪い都市を見下す。こうすることで、こちらに寝返った地方都市同士が連携して反乱を起こす可能性がなくなります」


 夢野は具体例を挙げたあとで、『ただし』と前置きして例外を述べた。


「ただし王都などのジパング王国の主要都市には寝返りを促さず、軍によって征服して我々が直接的に統治するのが良いでしょう」


 要するに自分達の元に下った地方都市にはある程度の自治権を与えてから互いに反目させ、対して主要都市には自治権を与えず直接統治するということだ。


「王都のような主要都市に自治権を与えれば、いずれ力を付けて獅子身中の虫になってしまいます。それを避けるために、主要都市は我々で管理すべきでしょうね」


 夢野はそう締めくくった。


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