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119.敵

「オリハルコンはですね、銅のくせに非常に硬いという特徴があるのですよ」


 おお! ってことは、ワイバーンの血に溶け込んでいるオリハルコンはファンタジー作品でお馴染みの破格の性能を誇るのかね?


 鎧にすれば全ての攻撃を防ぎ、剣にすれば全てを切り裂き、槍にすれば全てを貫く。


 俺はそんなイメージをオリハルコンに抱いているが、もしそんな性能ならオリハルコン製の武器防具をジパング王国軍の兵士達に使わせたら戦闘で無双してくれそうだ。


「いかんせん加工が難しいという欠点がありますが、その欠点を補って余りあるほどオリハルコンの性能は高いです」


「加工の難易度はどれくらいなんですか?」


「そうですね……最低でも三人以上のノーム様に協力していただかないと厳しいでしょう。ドワーフだけでは何人集まっても加工は不可能だと思われます」


 うへぇ。それってつまり、魔石以上に加工が難しいってことじゃん……。でもその分、性能には期待出来るってことだ。


 いや、まあ加工が難しい割にパッとしない性能の場合もあるけどね。ただ性能はドワーフが保証してるし、大丈夫だろ。多分。


「というか今更なんですが……あなた方ドワーフ達は何用で俺達の元に? 神銅竜様云々と言っていましたが」


 本当に今更だが、ドワーフ達が束になってやって来た理由を問いかける。


「我々を従えしノーム様が神銅竜様とお会いしたいそうで、そのため(わたくし)どもがあなた方神銅竜様ご一行に接触した次第です。


 ノーム様が神銅竜様とお会いしたい理由は私ではわかりませんが、出来れば私達の村にお越しいただければ幸いでございます」


 ノームがワイバーンと会いたいとな? ふむ、ドワーフ達の村か。その村にカヤの手掛かりがあるかもしれないし、行ってみるのもアリだな。


「ワイバーンとイザナミはどうする? ドワーフの村に行ってみるか?」


「妾は行ってみたいのじゃ」


「余は行きたくないが……このドワーフが村に来てくれと鬱陶(うっとう)しい故、仕方ないから余も村に行くことにする」


 ワイバーンが言う鬱陶しいドワーフというのは、当然のことながら口調のクセが強い奴だ。


 あのドワーフ、まだワイバーンにしつこく付き纏って『我らが村に来てください』とか言ってるんだよね。だからワイバーンが譲歩するのはしゃーない。




◇ ◆ ◇




 ドワーフに案内されながら歩くこと早三時間が経過した。真っ暗だから景色も見えず、よって本当に前に進んでいるのかという疑問を俺は抱いていた。


 だが柵に取り付けられた松明の明かりが前方に見え、ドワーフがあれを『村の柵』と呼んだので俺は安心する。


 村に到着したみたいだ。


 ふと松明に照らされた村の中へ目を向け、俺は目を見張った。


 柵の内側にある家は竪穴式住居にしか見えないのだが……?


 まさか、ノームどもは竪穴式住居に住んでんの? ドワーフに立派な家を造らせろや。なんでドワーフがいるのに見窄(みすぼ)らしい家があるんだよ。


「なんで、その、あんな家なんですか?」


 竪穴式住居を指差し、オブラートに包んだ質問をドワーフに投げる。すると苦笑が返ってきた。


「ドワーフは洞窟が住処です。しかしながら我々は生存競争に負けて洞窟から追い出された一派でして。せめて洞窟のような場所で過ごしたいということで、竪穴式住居で生活しているんです」


 わお、重い話が返ってきちゃったよ。どう反応すればいいかわからなくて困るからそういう返しやめろよ(切実)。


 にしても、黄泉の国にもやっぱり洞窟はあるのか。なら洞窟を探していけばカヤと会えるかな。でもこいつらみたいにカヤも洞窟から追い出されている可能性もあるみたいだし。


 クソ、どこを探せばカヤが見つかるんだ! 面倒! めっちゃ面倒! 人探しとか俺は向いてないんだ!


「では、我が村にお入りください。ノーム様がお待ちです」


「あ、うん、はい」


 こうして俺達は柵を越え、洞窟から追放された一派の集落に入った。


 するといくつも並んでいた竪穴式住居の入り口からドワーフ達が一斉に顔を出す。その様子があまりにもモグラ叩きと類似しており、穴の中で生活する点はドワーフもモグラも同じだなと気付いて吹き出した。


「ブハッ!」


 今口に飲み物が入っていたら勢いよく噴射されていたと思う。それほど笑った。


 ふと冷静になると全然面白くないことなのに大笑いしちゃうことってあるよね。まさに今、その現象が起きている。


「大丈夫ですか、お客人」


 ドワーフの一人が心配そうに俺の元に駆け寄ってきた。俺は笑いを堪え、息を整えてなんとか首肯する。


「うん、だ、だいじょぶ……」


 それから少ししてやっと呼吸が落ち着いてきたので、改めて集落の中を見回す。


 柵にくっつくように(やぐら)が東西南北に計四つ建てられており、集落の外周部には空堀が張り巡らされている。


 集落というより簡易的な城ないし要塞に近い。まあ城や要塞と呼ぶには心許ないが。


 にしてもドワーフがいるのに何でこんなショボいんだ? ドワーフなら簡単に堅牢な要塞くらい造れるだろうに。


 ……そうか、そもそも要塞を造る材料がないのか。


 見た感じ、櫓も柵も竪穴式住居も全て材木や土だけで造られている。つまり、この集落の周辺で材料になりそうなのは木々だけってことだな。


 なら矢の(やじり)とかはどうしているんだ? そもそも武器はあるのか? いや、そもそも黄泉の国では争いがないから武器は必要ないのかも。


 でもうっかり侵入しちゃった集落にいたグールは俺達を近隣の集落からの先兵だと思い込んでいたし、集落同士の争いはあるはずだよな?


 じゃあノームは強いから敵の襲撃があっても大丈夫だから武器がないのか?


 いくつかの疑問が頭の中を巡る。そんな時だった。いつの間にか俺の横に青年が立っていたのだ。


「やあ。私はこの集落の長をしているノームだ」


「ああ、どうもご丁寧に」


 俺は軽く会釈する。


「ワイバーンを連れてくるようにドワーフ達に命じたのは私でね。それでワイバーンが来たと思ったら黄泉の国では珍しい人間がいるから驚いたな」


「ハハ……」


 黄泉の国にいる人間は、俺みたいな不法入国者だけだからなぁ。警察機関に突き出されたらどないしようか。


「まあ今は人間云々はどうでもいい。用件を話したいから、とりあえず私に付いてきてほしい」


「わかりました」


 歩き出した集落の長のあとを付いていってみると、彼はひときわ大きな縦穴式住居に入っていった。


 入り口が狭いためワイバーンは外で待機させ、俺とイザナミは縦穴式住居の入り口を潜る。


「ようこそ、我が家へ。ほぼ何もないが、我々は洞窟を追われた身なので許してくれ」


 集落の長は地べたに腰を下ろしていたので、俺達もそれに倣う。


「さて。早速本題に入るが、私達はオリハルコンを欲している。武器や防具を作りたいんだ。だから、ワイバーンの血を分けてほしい」


 ってことはやっぱり、武器・防具の材料に乏しいのかね?


「もちろん対価は支払わせてもらう。私達に出来ることなら何でも言ってくれ」


 それにしても……いきなりだな。今すぐにでもオリハルコンの武器・防具が欲しいということか。この集落は近いうちに別の集落と戦う予定があるのかもな。


「対価ですか。……ならば、二つほどあなたにお尋ねしたいことがあります。その質問に答えてくれたら、ワイバーンの血をお分けましょう。まあワイバーン本人が承諾したらの話ですが」


「オーケー。どんな質問にも答えようじゃないか」


 俺は少し間を空けてから集落の長に問う。


「なら、まず一つ目の質問です。なぜあなたやドワーフ達は人間である俺を襲わずにいられるんですか?」


 さっきっから気になっていたのだが、なぜこいつらは俺に襲いかかってこないんだろうか。野生のモンスターならば等しく人間を襲うはずなのに。


「ああ、それか。おそらくだがそれは、上位存在のプログラムミスだろうな」


 集落の長は事も無げに言った。


「プログラムミス、ですか?」


「ああ。……突然ですまないが、君はモンスターをモンスターたらしめるものは何だと思う?」


 モンスターをモンスターたらしめるもの、か。スキルの有無かとは思ったが、人間も異能(スキル)を持ってるからなぁ。


「あいにくと、さっぱりわかりませんね」


 俺が降参すると、集落の長はニンマリと笑う。


「スキルが持っているか否か。これがモンスターをモンスターたらしめるものだ」


「え……? ですが私のような人間も異能(スキル)を持ってますよ?」


「フハハ。何か勘違いをしているみたいだから言っておくが、君ら人間が覚醒者と呼ぶ存在は(れっき)としたモンスターだぞ」


 俺は数瞬固まった。


 そしてしばらくして集落の長の言っていることを理解し、俺は彼に対して疑問をぶつける。


「……もし仮に覚醒者もモンスターだとして、あなた方が俺を襲わない理由とは関係ないんじゃないですか?」


「関係大有りだ。モンスターは人間を襲うようにプログラムされているが、当然モンスターは覚醒者も襲う。故にスキルの有無以外の何らかの条件で覚醒者を含む人間を襲うよう、上位存在はモンスターにプログラムしているのだ」


 集落の長は下を指差す。


「だが黄泉の国は本来、人間が来ることが想定されていない。そのため黄泉の国においては、モンスターが人間を襲うようにする面倒なプログラムを上位存在は組んでいないのだと思われる」


 ……なるほど。言いたいことはわかった。


「では、覚醒者がモンスターだという根拠はあるんですか?」


 そう、根拠だ。根拠がなきゃ、集落の長の妄想に過ぎない。


「……根拠ってわけではないが、お前は不思議に思ったことはないのか?」


「何をです?」


「モンスターは同一種族ならば同一のスキルを持っている。対して覚醒者は、同様のスキルを持った奴はいないらしいな」


 …………確かに。


 覚醒者の持つ異能はモンスターが持つスキルと同じものだ。しかし覚醒者の中には、まったく同じ異能を持った人物は存在しない。


 ということは、覚醒者はいずれも別の種族のモンスターだってことか? その場合、もしかすると異能は子供にも遺伝する可能性もあるのか。


「興味深い話が聞けました。ありがとうございます」


 まあ、覚醒者がモンスターである根拠ではなかったがな。


「さて。二つ目の質問です。あなたはオリハルコンの武器防具を使って、どこと戦うつもりなんですか? 近隣の集落ですか? それとも、洞窟にいるノーム・ドワーフ達ですか?」


「敵は誰だ、ということか」


 集落の長は声量を落とす。


「他言無用を守るのならば、その質問に回答しよう」


「これは俺の興味本位の質問です。お答えしてくれるだけで満足ですので、言いふらしたりはしませんよ」


「ならば、特別に教えよう」


 彼は拳を握りしめ、眉間に皺を寄せる。その様子から、集落の長は''敵''に対してかなり恨みがあることがありありと読み取れた。


「敵は──黄泉王(よもつきみ)だ」


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