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118.オリハルコン

 イザナミとワイバーンが落ち着いたので、俺は収納カードからきりもみ式の火起こしセットを取り出す。


 これはキャンプ用のもので、アウトドア用品店にあったから拝借した。何回か試したが、簡単に火起こしが出来るのでかなり重宝している。


 王都とかにいたら火には困らないが、モンスターを倒すために遠征した時に火がないと困ることがあるので常に収納カードに仕舞ってあるのだ。


 一応ライターもあるんだけど、黄泉の国の雰囲気的にはきりもみ式の方が適切が気がするんだよね。


 早速火を起こそうか。


 俺は垂直に立てた火起こしセットの木の棒を両手ではさみ、その木の棒を竹トンボを飛ばすかのように回転させる。


 それからしばらくすると煙が上がり、火種が生まれた。あとは燃えやすい種類の木の棒を火種に押し付けると、少しずつ火が大きくなっていく。


 松明の完成だ。


「明かり確保っと」


 これで少しは視界が開けるだろう。ホント、黄泉の国は真っ暗過ぎんだよ。


「へぇ、ここ森だったのか」


 松明の明かりを頼りに辺りを見回すと、どうやら俺達は森の中にいるということがわかった。黄泉の国にも植生ってあるんだな。


 俺的には黄泉の国って草木が一本も生えない荒れ果てた大地が広がっているイメージがあったんだけど、そうではないっぽい。


「イザナミ、ワイバーン。移動するから付いてこい」


「どこに向かう気なのじゃ?」


「とりあえずフラガラッハやカヤ達と合流する。居場所の見当が付いているし、まずはカヤとその配下のドワーフ達と合流する予定だ」


「居場所に見当が付いている? それはどこなのじゃ?」


「ドワーフと言ったら洞窟だろ。だから片っ端から洞窟を巡るんだよ」


 イザナミは嫌そうな表情を浮かべ、脱力して地面に寝転がった。


 ワイバーンに乗っていたら松明を持っていても洞窟は暗闇に紛れてしまい発見出来ないので、ここからは松明を持って歩きでの洞窟探しとなる。


 歩きとかつらいから、イザナミの気持ちもわかる。ぶっちゃけ俺も歩きたくないし。


 でも暗いからワイバーンに乗ると洞窟が見つかんないんだから仕方ない。


 歩きで洞窟を探すとか、はっきり言って地獄だよな。


 ……あ、黄泉の国はそもそも地獄じゃんっていうツッコミは無しだよ?


 まあ、空を飛ぶのではなく地を走るのならば松明の明かりによって洞窟が暗闇に紛れることはあるまい。なので俺はヒッポグリフを召喚し、跨がった。


「イザナミも乗れ。ワイバーンはどうする? 洞窟探しに参加したくないならカードに送還するが」


「余も手伝おう。その分、あの果実を食わせるのだ」


「へいへい。お前、食い意地───」


 ───張ってんなぁ。


 そう言い切る前に、俺達の元に無数の人影が近づいてくる。


 松明の明かりが目立っちゃったかね。


 黄泉の国との関係悪化を防ぐために、出来るだけ黄泉の国の住人と敵対はしたくない。そのため、このような場合は脱兎のごとく逃げ出すという選択肢しかとれないのが厄介だ。


 と考えていたら……向こうから声を掛けてきた。しかも敵対的なものではなく、友好的なもののようだ。


神銅(しんどう)(りゅう)様の気配がしたとノーム様に言われてもしやと思うておったが……まさか本当にいるとは。もし、あなた方は神銅竜様とそのご一行様でござりまするか?」


 うん……うん?


 ごめん、話の展開が急過ぎてついて行けないよ。神銅竜様ってなにさ。神の銅の竜?


 それにノーム様、ねぇ。ノーミーデスならカヤの可能性もあったが、ノームならば人違いか。いや、ノーム違いか? ややこしいな。


 話にはついて行けないが、こいつらがこちらと敵対的でないことは理解出来るので俺も友好的に接することにする。


「聞きたいことは色々ありますが、その神銅竜というのは?」


 俺が尋ねると、引き続きクセが強い口調の奴が口を開く。


「我々()()()()は神銅竜様と呼んでおりまするが、一般的にはワイバーン様という名があるそうでござりまする」


 こいつらってドワーフなのか。暗いからわからんかった。


「おぉ? 神銅竜様とはつまり余のことか?」


「はっ! あなた様は神銅竜様であります!」


「余はワイバーンなのだが?」


「神銅竜様であります!」


「ワイバーンなのだg──」


「神銅竜様であります!」


「ワイバーンn──」


「神銅竜様であります!」


「ワイb──」


「神銅竜様であります!」


「w──」


「神銅竜様であります!」


「──」


「神銅竜様であります!」


 押しが強すぎぃぃぃぃ!! 珍しくワイバーンも困り顔になってるよ!


 あのドワーフはなにがなんでもワイバーンを神銅竜にしたいらしい。多分、神銅竜であることを認めるまで壊れた蓄音機のように同じ言葉を繰り返し続けることだろう。


 ドワーフの圧がすごい……。ワイバーンもドン引きしてるぞ。


「神銅竜様であります! 神銅竜様であります! 神銅竜様であります! 神銅竜様であります! 神銅竜様であります! 神銅竜様であります!」


「ええぃ! わかった! 余は神銅竜だ!」


「そうですとも! あなた様は神銅竜様であります!」


「だからそれをやめるのだっ!」


 あ、ワイバーンが折れた。そして神銅竜だと認められたことで、嬉しさのあまりドワーフは破顔する。


「それで、結局のところ神銅竜とは?」


 口調のクセが強い奴とは別のドワーフに尋ねてみると、そのドワーフは丁寧に説明してくれた。


「神銅竜様は、我々ドワーフがノーム様の次に尊ぶ存在です。稀にノーム様よりも神銅竜様を尊ぶ(ドワーフ)もいますがね。


 それで、我らが神銅竜様と呼ぶ理由ですが、神銅竜様の体を流れる血に『神に与えられし銅』が溶け込んでいるからなのですよ」


「神に与えられし銅?」


「いわゆる『神に与えられし銅(オリハルコン)』です」


 オリハルコン!? 毒性のあるワイバーンの血液にはオリハルコンが溶解しているのか!?


「そもそも神銅竜様の血に毒性があるのはオリハルコンが溶け込んでいるからです。神銅竜様の血は塩化したオリハルコンの水溶液なのです」


 ……塩化したオリハルコンの水溶液か。なるほどな。


 オリハルコンは古代ギリシアの時代の文献に登場し、銅系の合金ではないかと考えられている金属だ。


 異世界ファンタジーラノベとかだとオリハルコンってデタラメに硬い金属とされるが、実際にはオリハルコンは真鍮や青銅じゃないかという説が有力である。


 ドワーフはオリハルコンを『神に与えられし()』と呼んでいるので、やはり彼らにとってもオリハルコンとは銅系合金のことらしい。


 で、ドワーフいわくワイバーンの血に毒性があるのはオリハルコンが溶け込んでいるからとのことだ。これはもしかして、塩化銅水溶液ってことかな?


 銅の塩化物である塩化銅は毒性を持つ。その塩化銅は水に溶けやすく、塩化銅水溶液は青くなる。


 オリハルコンも銅系合金なので、その塩化物は毒性があり水に溶けやすく、水溶液は青くなる性質を持っていると考えられるな。


 塩化オリハルコンが溶解していたからこそ、ワイバーンの血には毒性があって色も青かったのかもしれない。


 そういや、タコとかの血が青いのも銅が溶け込んでいるとか何とか聞いたことがあるな。


 それにしても夢がねぇ。せっかくモンスターなんてのがいるんだから、オリハルコンを超硬い伝説の金属にしても良いじゃん。


 随分と現実的なオリハルコンだなぁ……これではロマンがないんだが?


「しかし、血に銅が溶け込んでいるってだけでドワーフがワイバーンを尊ぶのは少しおかしくないですかね? 銅なんて地面にたくさん埋まってますよ?」


 俺が疑問を呈すると、ドワーフはわざとらしく首を左右に大きく振った。


「神銅竜様の血に溶け込んでいるのは普通(ただ)の銅ではないのです。言ったでしょう? 神に与えられし銅だと」


「! じゃあまさか、他にはない特徴がオリハルコンにはあるんですか?」


「ありますとも。その特徴があるからこそ、ドワーフは神銅竜様に敬意を表しているのです」


「では、その特徴をお聞きしても?」


 するとドワーフはニヤリと笑みを浮かべて言う。


「オリハルコンはですね、銅のくせに非常に硬いという特徴があるのですよ」



 竜の血にオリハルコンが流れてるってロマンありません???

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