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115.黄泉の国

 一週間後。


「じゃあな、大志」


「おう! 俊也達もじゃあな! 時間があったら松山に遊びに来いよ!」


 俺と雫、イザナミの三人は大志に見送られながら松山市長国を出発した。


 ある程度離れてから大志が見えなくなっていることを確認し、また周囲に俺達以外には誰もいないことも確かめてからクロウとグリフィスを召喚する。


「元気そうで何よりだ、マスター達よ」


「グルゥ!」


 うん、クロウとグリフィスも元気そうじゃないか。


「それで、マスター達は目的を達成出来たのか?」


 俺は顔を曇らせながらクロウの問いかけに答えた。


「ああ、四国避難所連合が対外戦争を起こせないっていう確証を得たんだが……少し不安になる噂が流れていてな」


 およそ二日前ほどから四国で囁かれている噂だ。


 その噂というのが、四国避難所連合がジパング王国に戦いを仕掛けるというものだ。


 九州に誕生した統一国家や流求王国などの関係者が揃って四国を訪れていたり、街を見回る治安警備隊の人達が物々しい雰囲気だったということが原因で流れている噂である。


 連合憲法により戦争を放棄しているとはいえ、四国避難所連合が攻めてこないとは断言出来ない。そのため早めに新婚旅行を切り上げ、不測の事態にすぐに対応出来るように王都に帰ることになった。


 ちなみに、九州に誕生した統一国家の国名はフランカ王国だということが情報収集の結果わかった。


 色々調べてみるとフランカ王国は四国避難所連合とは違ってどことも連合はしておらず、その支配領域は鹿児島全域程度とかなり狭い。


 しかしフランカ王国を盟主とし、九州に点在する諸都市国家の間で結ばれている九州諸国同盟という軍事同盟があるらしく、この同盟によりフランカ王国は事実上九州の()()全土を影響下に置いているようだ。


 全土とは言い切らず()()全土と言ったのは、九州の一部地域が九州諸国同盟に加盟していないからだ。


 なぜ加盟していないのか気になって調べてみたら、どうやら加盟していない地域を支配している組織は国家ではなく企業を名乗っているかららしい。


 九州諸国同盟はその名の通り九州諸()による同盟なので、一定の地域を支配しているとはいえ企業を名乗る組織は加盟出来ないのだとか。


 同盟から仲間外れにされている(爆笑)企業は『ユズリハ工業』という社名らしく、建設会社のようだ。


 詳しくは知らないが建設に役立つ異能を持った覚醒者を数多く抱えているみたいで、なんと市長国の壁(城塞?)は全てユズリハ工業が造ったものなんだそう。なにそれスゲー。


 なお、国家ではないのに主権を有して土地や住人を支配しているため、ユズリハ工業は''主権企業''と渾名されているらしい。カッコイイ……。


「グリフィス、背中に乗らせてもらうぞ」


「グルゥ!!」


 俺はグリフィスに跨がり、雫も俺の後ろに乗る。


「じゃあクロウは俺達を護衛してくれ」


「相わかった。任せよ」


 そして飛び立つように指示を出すとグリフィスは翼をはためかせ、地面から浮かび上がった。


 クロウも翼を広げて飛び上がり、グリフィスより少し上空でホバリングする。


 イザナミはと言うと、風に流されるようにフラフラと飛んでいた。イザナミらしいなと俺は苦笑する。


「先頭はクロウ。グリフィスはクロウの後を追え。目指すは王都だ! 行くぞ!」


 こうして俺達は王都に向かって進み始めた。それからしばらくして、俺の口から本音が漏れる。


「暇だなー」


 グリフィスに乗っているだけですることがないので手持ち無沙汰になりつつ、代わり映えしない空の景色をボーッと眺めていることしか出来ない。暇だ。


 最初の頃は飛行系モンスターに乗って空を飛ぶだけで感動していたものだが、今では感動なんてまったくない。それが当たり前になってしまったからだ。


 慣れとはかくも恐ろしいものである。


「暇なのは良いことじゃないか。モンスターと戦闘になるよりはマシさ」


 雫は困ったように笑いながら言った。


「まあ、確かに」


 同意しつつ空の景色に飽きたので下を見下ろしてみると、少し遠くに砂漠のようなものが見える。多分、というか間違いなくあれは鳥取砂丘だろうな。


 ……ん? そういえば鳥取とよく間違われる隣県の島根にはあれがあったよな。そう…………()()()()が。


 ッ! そうだよ! 黄泉の国!


 神話に登場する神を元にしたモンスターがいるんだから、もしかして黄泉の国もあるんじゃないか!?


 何で今までそのことに気付かなかったんだ!


「止まってくれ!」


 俺が止まるように呼びかけると、クロウとグリフィスは徐々に減速してから空中で停止した。


 しかしイザナミは指示を聞いていなかったとばかりに進んでいき、少しして誰も付いてきていないことに気付いて止まる。


「イザナミに聞きたい。黄泉の国ってあるのか?」


 真剣な表情で俺が問うと、彼女の口はへの字に歪んだ。


「……知らないのじゃ」


「知らないってことはないだろ? お前、黄泉の国の王なんだし」


「それは! それは……神話での話なのじゃ。妾は黄泉の国の王じゃないのじゃ」


 イザナミは嫌なことを思い出すかのように不快そうな顔をする。


「ってことはお前、黄泉の国について何か知ってるな?」


 俺が核心を突くと、彼女はうろたえた。


「な、何のことじゃ? わ、わわ、私は知らないのじゃ!」


「嘘が壊滅的に下手だな」


 ワイバーンの時も思ったが、こいつは何かを隠しているようだ。


 本来ならば無理に聞き出すつもりはなかったが……フラガラッハやカヤを蘇らせられる可能性があるのならば、黄泉の国についてイザナミから聞き出したいところだな。


「俺はフラガラッハやカヤを生き返らせたいんだ。だから、黄泉の国のことを知っているなら話してほしい」


「む、むううぅぅぅ。……ならば暇つぶしのために遊び道具を寄越すのじゃ! そうしたら話してやらないこともないのじゃ!」


「遊び道具? え、遊び道具? えぇぇ」


 遊び道具を渡したら教えてくれるということに拍子抜けする。


 だがすぐに遊び道具はあんまり持っていないことに気付き、どうしたものかと考え込む。


 ガキの頃に遊んでいたファミコンとかゲームボーイとかテトリスミニとかは収納カードに入っている。


 しかしそれらのゲーム機は現在遊べない。というのも、マヨヒガの屋敷や蜃の街にはコンセントがないからだ。


 取り外し不可のコンセントの魔導具とかあると思っていたんだが、その期待は裏切られる結果となった。だからゲーム機では遊べないのだ。


 どうにか電源を確保したいんだが、クロウによると『雷魔法』のスキルを持つモンスターならばゲーム機の充電くらいは出来るらしい。


 今後、機会があれば『雷魔法』のスキルを持ったモンスターのカードが欲しいな。


 ……失礼、思考が脱線した。


 今のところイザナミに渡せる遊び道具といえばけん玉くらいしかない。こんなものでイザナミが喜ぶとは思えないが、まあ物は試しだ。


「遊び道具ってこんなのでもいいのか?」


 収納カードからけん玉を取り出し、イザナミに手渡す。すると彼女は受け取ったけん玉をまじまじと見つめ、何を思ったのか紐を引っ張って引きちぎった。


「え、お前何やってんの?」


「邪魔だから切ったのじゃ」


 邪魔だからって切るか、普通?


「で、これどうやって遊ぶやつなのじゃ?」


「貸してみ。教えてやるよ」


 イザナミから俺の手元にけん玉が返ってきた。


 そしてけん玉の遊び方を実演してやると、イザナミは目を輝かせて俺からけん玉をひったくる。


「面白そうじゃな! これを妾が貰ってもいいなら黄泉の国について話してやろう!」


 そんなんで教えてくれんのかよ。


「じゃあけん玉をお前にやるよ」


 と俺が言うと、イザナミは嬉しそうにけん玉で遊び始める。それから少しして何かを思い出したように手を止め、バツが悪そうにこちらを見た。


「仕方ないから黄泉の国のことを教えてやるのじゃ」


 そして黄泉の国のことを語り出す。


「黄泉の国には、死んだモンスターの魂が集まるようになっているのじゃ。その魂を黄泉の国から連れ出せば、生き返らせることが出来るのじゃよ」


「「おお!」」


 俺と雫の声が重なる。やっとフラガラッハとカヤを蘇らせられる方法が見つかったのだから当然だ。


 蘇生スキルを持ったモンスターにばかり気を取られて、黄泉の国のような場所のことをすっかり忘れてたな。これに早く気付ければ良かったんだが。


「黄泉の国にはどうすれば行ける?」


 蘇生方法が見つかり興奮している俺とは異なり、雫は冷静に黄泉の国への行き方を質問した。


「黄泉の国に行くには、島根にある黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)を通ればいいのじゃ。だが生者が黄泉の国を訪れると(けが)れることになるから気を付けるのじゃよ」


「なら私は大丈夫だが、俊也が黄泉の国に行けば穢れるのか?」


「童だけでなくお主も黄泉の国に行けば穢れるのじゃよ。確かにお主は人間としては死んでおるが、モンスターのゾンビとしては生きていることになっているのじゃ」


 雫は生きているという扱いなのか。……ということは黄泉の国に行っても雫を人間には戻せないのかもな。


 俺と同じ考えに至ったのか、雫は少し悲しそうな顔をした。しかしそれは一瞬のことで、表情を元に戻すとまたイザナミに疑問を投げかける。


「穢れるとどうなるんだ?」


「穢れを放置するといずれ体が(むしば)まれて死ぬが、(みそぎ)を行えば穢れを浄化出来るのじゃ」


 禊、つまり水浴びをすれば穢れを浄化出来るのか。意外と簡単に穢れって清められるんだな。


「よし、じゃあ黄泉の国に行こう!」


 雫とイザナミの会話を聞いている間に冷静さを取り戻した俺はそう言って拳を掲げた。


「ああ、そうだな!」


 雫も賛成をする。


 が、俺としては雫には先に王都に帰っていてもらいたい。だからそのことを口に出した。


「すまないんだが、もしものことが起きた時に備えて雫は王都にいてほしいんだ」


「いや、しかし……私が黄泉の国に行き、俊也が王都に行くのは駄目なのか?」


 俺は左右に激しく首を振る。


「駄目だ。もう少し早く撤退していればフラガラッハとカヤは助かったかもしれない。俺の判断が遅かったから二人は死んだんだ。だから二人は俺が助けてやりたい」


「ならば一緒に黄泉の国に行こう」


「それも駄目だ」


 またも俺はかぶりを振る。


「四国に流れる噂が現実となった場合、雫には四国避難所連合に『我が国への侵略行為は連合憲法違反だ』って抗議してほしいんだ。雫なら相手がどんなに憲法を拡大解釈して理論武装したとしても言い負かすことが出来るだろうしさ」


 すると彼女が折れた。


「はぁ。そんな言い方をされては断りにくいな。仕方ない。私は王都に行くよ」


「! ありがとう! 黄泉の国から帰ってきたらお礼するよ」


「なら王都に帰ってきたら、俊也には私とデートしてもらおう」


「おう! 任せろ!」


 そうして俺達は二手に分かれることになった。


「じゃあな、俊也! またあとで!」


 雫はこちらに手を振りながら空を飛んで遠ざかっていく。


「ああ、またあとで」


 俺も手を振り返した。


「何で妾まで黄泉の国に行かねばならぬのじゃ」


「お前が黄泉の国に詳しいからだろ」


 王都に向かったのは雫だけで、イザナミやクロウ、グリフィスは俺とともに黄泉の国に行ってもらうことになったのだ。


「ほら、さっさと行くぞ!」


 不満そうにして動く気のなさそうなイザナミの手を掴み、無理矢理引っ張りながら俺達は黄泉の国の入り口を目指した。


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