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110.大志の家

 俺達の目の前には少しばかり外観の古い一戸建てがあった。


「ここが大志の家か」


 見た感じ、俺がローンで買った家と同じくらいの大きさだな。だがいかんせん古臭く、家の外観は薄汚れている。明らかに新築ではないな。


「この家、郊外にあるからか安かったんだよ。なんでも前の持ち主が行方不明だったから国が接収して売りに出したらしい」


 この家について大志が軽く説明をした。


「どうでもいいことだが、大志の言う国ってのは四国避難所連合か松山市長国のどっちなんだ?」


「松山市長国の方だ」


 持ち主が行方不明だからって接収するとは、松山市長国はかなり野蛮だな。


 ……いや、よくよく考えてみればジパング王国でも同じようなことをしているな。


 ゴーストタウン化した都市を壁で囲むことでジパング王国は国土を拡大していっているが、その過程で国土に組み込まれた都市内にある全ての建物はジパング王国の所有物となる。


 ジパング王国ではその行為を『接収』と呼んでいないからすぐには気付かなかったが、松山市長国とジパング王国がしていることは同じということだ。


 こうして考えるとジパング王国の国土拡大政策はなかなかに強引だな。まあでも、対外戦争による国土拡大政策よりかは幾分もマシだろ。


 俺は戦争がしたいわけじゃない。国土は出来るだけ拡大したいが、それだって他国と戦争してまでやることじゃないと俺は思っている。


 元々俺がジパング王国を建国した理由は自衛のためだ。人類の敵であるモンスターを使役しているという理由で、いずれ俺のことを『人の皮を被ったモンスター』だと主張する者も現れるだろう。


 俺のことをモンスターだと思い込んだ奴らから身を守るためにも、ジパング王国を大きくしなくてはならない。


 しかし、やはり俺も男の子なんだ。歴史に名を残したいとか、王様として踏ん反り返りたいという思いもないわけではない。というか滅茶苦茶ある。


 ぶっちゃけるとジパング王国を建国した理由は自衛のためっていうのが五割で、もう半分は偉くなって威張るためだ。


 建国当初はハーレムとかも良いなと思っていた。男の子なんだからしゃーない。雫と結婚した今では浮気する度胸とかないけど。


「ようこそ、我が家へ。気にせず寛いでくれ」


 大志は玄関扉を開け放ち、家に入るように俺達に促す。


「ボロい家じゃの」


「コラ、俊也の友達の家にそんなことを言うんじゃない」


「でも古臭いってのは事実じゃね?」


 イザナミ、雫、俺の順番で大志の家に上がる。


「おいおい、安かったんだからボロいのは大目に見てくれよ」


 辛辣な俺達の発言を聞いた大志は苦々しく笑い、両肩を上げてすくめた。


 まあ俺達にとってこれは一種のコミュニケーションみたいなもんだ。高校時代によくこんな会話をしてたっけ。


「二階の部屋はまったく使ってないから、寝る時はそこの部屋を使ってくれ。残念ながら風呂はねぇぞ。体の汚れを落としたきゃ濡れたタオルでも使ってくれ」


「あれ? 温泉はないのか?」


 松山は温泉が有名なんだし、温泉の大衆浴場とかありそうだが。濡れたタオル使うより大衆浴場行った方が良いだろ。


「温泉はあるぞ。だが入浴料が高いんだ。一日の食事代よりも高いもんだから、四国では温泉なんてもはや贅沢品のような扱いだぜ」


「何で入浴料がそんな高いんだよ?」


「そりゃあ国の主要財源の一つだからだ。四国にある温泉施設は全て国営さ。どうやら毎日風呂に入りたい綺麗好きが一定数いるらしくてな、入浴料が高いくせにそれなりに稼げてるって小耳に挟んだことがある」


 国の主要財源になっているのは綺麗好きなら入浴料が高くても毎日温泉施設に通うからかな?


 俺は蒸しタオルなんかで体を拭けるならばあまり気にはならないが、綺麗好きの人は毎日風呂に入って体を洗わないと気が済まないのだろう。


 そういう人達をターゲットにしているからこそ、温泉施設は高い値段設定のままでもやっているんじゃないなと思う。


 なるほど、やり方が上手い。ただ単に高級志向の人に狙いを定めてしまえば、そういう人達が求める煌びやかな高級品を延々と用意し続けなければならない。


 ただこれには、こんな世界になったんだからブランドの衣類やらバッグの仕入れ先がないという大きな問題がある。なので長期的に稼ぐことは不可能だ。


 他方、綺麗好きに狙いを絞れば、温泉施設を管理しているだけでガッポガッポだ。長期的に稼ぐことも可能である。


 しかしいずれ入浴料を安く設定した温泉施設の経営を誰かが始めれば客足が途絶えること不可避だ。


 俺だったら塩の専売を主要財源にするけどねぇ。その方が稼げるし。瀬戸内海といえば塩なのに勿体ないな。


「入浴料が高いのか……」


 温泉の入浴料が高いことを知った雫は見てわかるほど元気をなくし、下唇を突き出して不満を露わにした。


 雫、温泉入りたがってたもんな。


 いや、雫がそんなに温泉入りたいと言っていたわけではないが、雰囲気でなんとなく入りたがっているとわかるというものだ。それが勘違いだったら恥ずかしいが。


「なあ大志、入浴料は大体いくらくらいなんだ?」


「そうだな……大体Fランクモンスターの魔石が八個前後だったはずだ」


 ということは八千円ほどか。モンスター出現以前と比べると十倍では収まらないほど入浴料が吊り上がってんな。確かに高い。


 俺が以前利用した大衆浴場の入浴料は……三百円だか四百円辺りだった。ならば入浴料はおよそ二十倍にまで上がっていることになる。


 二十倍ってさすがに暴利じゃね?


「まあその分、温泉施設では色々なサービスが充実しているらしいぞ」


 大志がそう補足する。


 そうだよな。一回入浴するだけで八千円は頭おかしすぎるもんな。


 ……温泉施設で色々なサービスって聞くとさ。あれだよね、あれ。性的なサービスなんじゃないかと想像しちゃうよね。ムフフ。


「あ、言っとくが温泉施設で受けられるサービスに性的なものはないからな」


 俺にジト目を向けながら大志が言った。


 え、もしかして顔に出てた!?


 俺は慌てて表情筋を動かして真顔になる。


「もしかして顔に出てた!? とか考えてそう」


「何でわかるの!?」


 考えていることを大志に当てられ、そんなに顔に出やすいのかなと思いながら俺は自分を頬をつねる。


「お前、高校生の頃から考えていることが顔に出ていたからな」


 大志に衝撃の告白をされた。


 じゃあ俺、政治家向いてないってこと?


 と落ち込んでいたら、それを見かねた雫が俺をフォローする。


「う~ん、真面目な時の俊也は顔にまったく出ないんだが、ふざけている時とな普段は顔に出やすいかな」


 そうなんだ。自分のことなのに初めて知ったよ。


 真面目な時は顔に出なけりゃ政治家に向いてないわけではない、のか?


 今後は普段から顔に出さないように気を付けておこう。


「どうする、雫? 行きたいなら一緒に温泉施設に行くか?」


「いや、今日は濡れたタオルで体を拭くだけで我慢するから大丈夫だ。温泉に入る楽しみは明日以降にとっておくよ」


「そういうことならわかった」


 雫がいいならいい。温泉は明日以降に行くとしよう。


「いやー、この広い家にずっと一人だったから最近退屈してたんだよ。今夜は話し相手になってくれや」


「ん? 大志はモテるんだし、そこら辺の女を家に連れ込めばいいんじゃないか?」


「それがさ、身なりが悪いからここのところ女が寄ってこないんだわ。こんな経験は初めてだよ」


「あー、身なりか」


 そこで俺は大志の全身を改めて見て、女が寄ってこないことに納得する。


 彼が着ている作業服はところどころ土かなにかで汚れていて、裾には血のようなものが付いている。これでは女が近づいてこないのも無理はない。


「とりあえず綺麗な服を着ろよ」


「でもこの作業服には愛着があってだな」


「じゃあ洗え」


「やだやだ、面倒くさい」


 そういえば大志は横着者だったなと高校時代を懐古しつつ、あの頃に戻ったように感じられて俺は自然と顔を綻ばせた。


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