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107.憲法

 グリフィスに跨がった俺の眼下には街があった。


 街の一角は高い壁で囲われており、その壁の周りには楽しげな人々で溢れかえっている。いわゆる城塞都市と呼ばれるものだろう。


 モンスター出現後に造られた街ではなく、既存の街の一部を壁で囲っているだけのものだ。これはジパング王国で街を造る際に使われる手法とまったく同じだな。


 違う点を挙げるとすれば、ジパング王国は城塞都市ではなく城郭都市というところか。


 城塞都市は壁外にも街が広がっているが、城郭都市は街全体を壁で囲っているため壁外に街は広がっていないのだ。


「この街なのか?」


 俺の後ろに乗る雫が尋ねてくる。


「そうみたいだ。だよな、クロウ?」


 俺が同意を求めると、クロウは自信満々に頷いた。


「ああ。我の目が膨大な魔力の塊を捉えておるから間違いない。魔力の塊があるのは壁の内側のようだのぅ」


 モンスターは種族を問わず肉眼で魔力を見ることが出来る。つまりクロウも例外ではない。


 そのクロウが言っているのだ。この街の壁の内側に膨大な魔力の塊がある、と。


「クロウが言う魔力の塊が魔石硬貨のものじゃない可能性があるんじゃないか?」


 雫が鋭い質問をクロウにする。


「その可能性は限りなく低いとしか言えぬ。魔力は見られても、それが何の魔力かは判断がつかぬ故にな」


 それもそうか。ラノベとかだと魔力の質とかで見分けられたりしてるけど、実際にそんな便利だったら世話ねぇもんな。


「じゃあ早速この街に入ろうか」


 街というより正確には都市国家(市長国)なのだが。まあそんな細かいことはどうでもいい。


 俺達は一旦街から離れてから地面に降り立つ。


 夜ならば目立たないと思うが、今はまだ昼頃だから街の近くに降り立ってしまえば目立つからな。


 俺達の正体がバレたら四国避難所連合とジパング王国の関係は急激に冷え込むため、旅の間は正体を隠さないのいけないのが面倒だ。


 もし四国避難所連合がジパング王国に戦争を仕掛ける意志がなかったのに俺達が魔石硬貨の用途を調べているのがバレたとしたら目も当てられない。


 と言っても、今回の旅の主な目的は新婚旅行なんだけどね。


「じゃあなクロウ」


「ああ。ではな、マスター」


「グリフィスもバイバイ」


「グルゥ」


 俺は別れの挨拶をしてからクロウとグリフィスをカードに送還した。モンスターを従えていたら俺がジパング王だと速攻でバレるからである。


 イザナミは人型だからモンスターだとバレることはないし、送還したら彼女は怒るので召喚したままにしている。


「よし雫、手を繋ごう!」


 返事を聞く前に隣りにいる雫の手を握った。


「うおぅ! ビックリした。俊也は強引なんだな」


 驚かせちゃったみたいだ。悪いことしたな。


「悪い悪い。でも手を繋いだ方が新婚旅行っぽいかなと思ってさ」


「腕を組んだ方が新婚旅行っぽくないか?」


「あ、確かに!」


 すると俺達のやり取りを見ていたイザナミがボソリと呟いた。


「うへぇ。キモいバカップルを見ていると砂糖吐きそうなのじゃ」


 聞こえてんぞコラ。




◇ ◆ ◇




 雫と手を繋ぎながら街の前まで来た。


 さすがにまだ気恥ずかしさがあって腕は組まなかったよ。


「近くで見ると高い壁だな」


 と言って雫は溢れかえる人の背後にそびえ立つ壁を見上げる。


 確かに高い壁だよな。ジパング王国ではドワーフに壁を造らせているのだが、ドワーフもなしにこんな高い壁を造れるのはすごいと思う。


 あの壁は覚醒者が異能で造ったのかな? どんな異能なのかねぇ。めっちゃ気になるな。


「そういえば俺、海外旅行は初めてだな」


「果たして四国を海外と呼んでいいのか?」


 雫は冷静にツッコミを入れた。


 別にボケてるつもりはなかったんだけど……。


「童! 妾は食事処に行きたいのじゃ!」


「突然だなおい」


 ビックリするから急に大声で話し始めないでくれ。


 それにしても食事処って要は和食屋ってことだろ? 和食って作るの難しいからあるかなぁ?


 よしんば食事処があったとしても、こんな世界じゃ満足に食材が集まらないんだから和食もどきしかないと思うんだが。


「どうする雫?」


「そうだな……ちょうどお腹も空いていたし、どこか飲食店に寄るのはいいんじゃないかな」


「ならイザナミの要望通り食事処を探してみようか」


 まずは誰かに食事処の場所を尋ねよう。


 そういえば今更だけど、この街──正しくは市長国──の名前とか知らないな。


 誰かに食事処の場所を尋ねる時は、ついでにこの街のこととか色々聞いてみるか。


 ちょうどそんな時だった。警備服のようなものを着用した三人組の男達が隅々まで目を光らせながら道を歩いているのを見つけた。


 おそらく治安部隊みたいなものなんじゃないかな?


 俺は雫と繋いでいた手をほどき、警備服の三人組の元まで行って声を掛けた。


「あの、すみません。この国の警備の方ですか?」


 そうすると三人組の中で一番階級が高そうなワッペンを警備服に付けた男性が背筋を伸ばしながら答える。


「はっ、そうです。我々は松山市長国治安警備隊の者です」


 松山市長国? 確か夢野の護衛をしていた大宮とかいう奴の肩書きが松山市長だったよな。つまりここは大宮なんちゃら君が市長を務める都市国家ってことか。


 大宮は俺達の顔を知っているから会わないように気を付けないと。つっても大宮みたいな身分の高い奴は壁内にいるだろうから滅多なことがない限り会うことはないはずだ。


 つーか松山市にあるから松山市長国って……俺が言えたことじゃないが国名がずいぶんと安直だな。


「実は広島の方からこちらに来たばかりなので四国のことには疎いもので、色々と教えていただけるとありがたいのですが」


 息を吐くように嘘をついた。実は広島じゃなくて愛知の方から来たぜ。


 愛知から松山に来たって言ったら地理的におかしいから確実に違和感を持たれるため、松山からほど近い広島から来たって設定にしてみた。


「広島というと……ジパング王国ですね。ジパング王国から来たのならこの国に疎いのも当然でしょう。では軽くこの国について説明させていただきます」


 治安警備隊の人は快くこの国のことを教示してくれた。


 それによると、なんと四国避難所連合では日本国憲法を軸にある程度改定を加えた四国避難所連合憲法──通称、連合憲法──が施行されているらしい。


 各市長国はそれぞれ主権を有しているものの独自の法律を持っていることもなく、連合憲法はいずれの市長国でも効力を発揮するようだ。


「この国では日本国憲法を概ね引き継いでいるため、刃物などを所持していた場合は我々治安警備隊が逮捕することになるので気を付けてください」


 治安警備隊の人は真剣な表情で言った。


 じゃあ俺がフラガラッハを帯刀して歩いてたら銃刀法違反で捕まっていた可能性もあるのか。危ねぇ。


「それと、一般人があの壁の中に入ろうとした場合も逮捕されます」


 言いながら治安警備隊の人は街の中央にそびえ立つ壁を指した。


「あの壁の中には何があるんですか?」


「壁内には市長や役人が住んでおり、彼らは政務を執り行っています。なので壁内に入ろうとした者は厳しい処罰を受けることになるのです」


「なるほど」


 まあそりゃそうだわな。仮にモンスターの襲撃があったとしても大丈夫なようになっているわけだ。


 ……その場合は壁外に住む一般市民は無事では済まないが。


 いや、さすがに有事の際は壁外の人間が壁内に逃げ込めるようになっているはずだ……よな? まさか壁外の住人を見捨てるなんてことはないとは思うけど。


「何から何までありがとうございます」


 聞きたいことは聞けたので早いところ情報収集を切り上げるため、俺は親切に色々と教えてくれた治安警備隊の人に頭を下げた。


 そこで急にあることを思い出し、はたと手を叩いた。


「おっと、聞き忘れるところでした。あの、和食屋ってあります?」


 危ない危ない。忘れるところだったよ。


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