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105.ワイバーン

 モンスターの群れは非常に厄介だ。それがCランク以上となれば、その厄介さに更に磨きが掛かる。脅威度が跳ね上がるのだ。


 Cランクモンスター五十体の群れとなると、脅威度はBランク上位~Aランク下位ほどとなる。


 はっきり言って俺達でも苦しい戦いになる。




 ……というのはさすがに大袈裟だが。


 だが群れると脅威度が跳ね上がるのは事実だ。


 そもそも、モンスターの群れの脅威度は人数によって左右される。


 例えばだが単独(ソロ)でモンスターの群れを相手にする場合はあちこちから攻撃されるので対処が難しく苦戦するが、大人数(レイド)の場合は陣形を組めるので苦戦というほど苦戦はしない。


 今回のようなCランクモンスター五十体の群れはソロだとBランク上位~Aランク下位くらいの脅威度だが、同数の五十人でレイドを組めば脅威度はCランクにまで下がる。


 俺はモンスターを召喚出来るので簡単にレイドを組むことが可能なため、モンスターの群れに負けることはないはずだ。


 ……まあBランク以上のモンスターの群れとなると俺でも負けるだろうが、Cランクモンスター五十体の群れ程度に負けるはずがない。


「イザナミによるとCランクモンスター五十体の群れに囲まれたらしい! 雫は神器を召喚しておけ!」


「Cランクの群れか! 了解!」


 雫は虚空の亀裂に手をねじ込み、神器の松明をその手に掴んだ。


 俺はクロウを始めとする手持ちのCランクモンスターを次々と召喚していく。


「イザナミ、今回は協力してくれるか?」


 とモンスターを召喚する作業中にイザナミに聞いてみると、彼女はつまらなさそうに首を横に振った。


「面倒だから戦闘には参加しないのじゃ。というか、群れに囲まれていることを教えてやったんだから妾に感謝して然るべきなのじゃ」


 相変わらずイザナミはイザナミか。たまにではあるが戦闘に参加してくれるだけ以前よりはマシだけど、やっぱイザナミにはいつも戦闘に参加してもらいたいな。


 ヨモツオオカミに変じたイザナミは非常に強力であり、俺が使役するモンスターの中では現状でも雫に次ぐ強さを誇っているわけだし。


 イザナミが協力的ならばもっと楽にBランクモンスターを狩れるようになるんだけど……。


 そう思いながら、俺は軽くため息を吐き出した。


「はぁ。イザナミならそう言うとは思ってたよ」


 何したらイザナミは俺のことをマスターだと認めてくれるんだろうか。めっちゃ気になる。本人に聞いても無視されるし。


 ……今はそんなことどうでもいいか。


「グリフィス! 『先祖返り』を発動しろ!」


「グルルルルルルッ!!」


 グリフィスは『先祖返り』を発動してグリフォンへとランクアップした。するとちょうどその時、俺達を囲っていたモンスター達が徐々にだがこちらに近づき始める。


 そして露わになったモンスターの姿は、ポケモンで例えるならオンバーンにとても酷似していた。要は巨大なコウモリのような見た目をしたモンスターだ。


 ただ頭はドラゴンのそれだし、脚はワシのだからぶっちゃけコウモリ要素は翼くらいだな。キメラみたい。


「クロウ、あのモンスターの種族は?」


「あれは……ワイバーンであろう」


 なら俺達はこれからワイバーンの群れを相手するのか。


 ワイバーンってどんなモンスターだっけ。俺的にはファンタジー作品でたびたび登場する雑魚キャラのイメージが強いけど。


 基本的にワイバーンはドラゴンなのだが、作品によっては竜ではなく亜竜として扱われていることもある。ワイバーン不憫過ぎやろ。


 えーっと、ワイバーンが登場した伝承や神話は……ないはずだよな。ワイバーンは紋章学の発展によって少しずつその姿を変えながら後世に伝えられていき、その結果誕生した架空の怪物だからだったような。


 つまりワイバーンがどのような姿でどのような能力を持っているのかは時代ごとに非常に多種多様であり、よって俺ではワイバーンのスキル構成をまったく予想出来ない。


 だってワイバーンは神話に登場していないから『ワイバーンと言えばこれ』というものがない。俺が無知なわけではないと理解してくれたまへ。


 まあワイバーンに無知ではないが、さりとて博識なわけでもないが。


「クロウはワイバーンのスキル構成とかわかる?」


「スキル構成、か。ワイバーンは『噴血(ふんけつ)』という一つのスキルしか持っておらぬぞ」


「『噴血』? どういうスキルだ?」


 そう言いながらチラリと見るとまだワイバーン達との距離はある程度離れているので、あとちょっとならばクロウと会話する余裕もありそうだ。


「確か『噴血』の効果は、文字通り傷口から血を噴き出させて相手を攻撃するというものだ。『噴血』にそれ以外に効果はない」


「いやいや、効果がそれだけのはずないだろ?」


 血が噴き出るだけの効果に拍子抜けしつつ、まさかCランクモンスターが持つスキルがそんなちんけな効果のはずないだろうとクロウに答えを求める。


「マスターの疑念ももっともだが、本当に『噴血』の効果はそれだけなのだ。ただ……ワイバーンの体に流れる血液は普通ではなくてのぅ。ワイバーンの血の毒性はとても高く、肌に触れればたちまち(ただ)れ、人間の体内に混入すれば数分もせずに息絶えてしまうほどだ。我のようなCランクでも上位に位置するモンスターでさえ、ワイバーンの血を浴びればただでは済まない」


「うわぁ」


 自分の頬が引きつるのを感じる。


 素で声を漏らした。血が肌に触れただけで爛れるとは。恐ろしいほどの毒性だな。


 なぜワイバーンは己の血の毒性で死なないのかという疑問もあるが、そんなの今更だ。俺達人間の常識はモンスターには通用しない。


 ワイバーンが自分の血の毒性によって死なないのは、彼らにとっては常識なのだ。いちいちモンスターの生態に疑問を持ってたらこの世界ではやっていけない。


 まあ東欧の伝承においては竜の血は有毒だとされているし、その伝承を踏襲して上位存在がワイバーンを生み出したのだと考えるのが妥当か。


 ワイバーンの尻尾に毒があるとされている場合なんかがあるが、この世界に現れたワイバーンは尻尾ではなく血液そのものが毒というパターンってことだな。


 というか傷口から毒の血が噴き出すということは、斬ったりしたら毒を浴びせられるってことだろ? 強すぎんだろ。


 神及び竜ないし龍系統の種族のモンスターは頭一つ抜きん出た強さを持っているわけで、ワイバーンは腐っても竜だ。雑魚キャラだと侮れる敵ではないな。


 俺はワイバーンに対する評価を上方修正した。


「雫もクロウの言うことを聞いていたよな? ワイバーンの傷口には気を付けろ」


「俊也も気を付けろよ!」


「おう!」


 ってな感じで暢気に雫と会話をしていると、一体のワイバーンが俺を睨みながら仲間達を鼓舞した。


「人間は軟弱だ! なぜか同胞のモンスター達が人間の味方をしているようだが、我らは偉大なるドラゴンに連なるワイバーン! 人間など恐るるに足らず!」


 仲間達を鼓舞するこいつが群れのボスなのかなと見当をつけていると、そのボスの叱咤激励を皮切りに次々とワイバーンが俺達に向かって襲い掛かってくる。


 っしゃオラァーッ! 来やがれ塵芥(ワイバーン)ども!


「死ねっ!」


 こちら目掛けて突っ込んでくるワイバーンに向かって俺は『劣雷槍』を振り下ろす。だが傷口を付けないように軽く、だ。


 すると『劣雷槍』が帯びる電気によりワイバーンは麻痺し、海へと墜落していく。


「河童、任せたぞ!」


 海中には河童がおり、後始末は彼に任せている。河童が『操水』を使えば、血を浴びずにワイバーンを倒せるからだ。何せ血液すらも『操水』スキルによって操れる対象だからね。


 と言っても水神の姿を取り戻した状態の河童でないと『操水』スキルで水以外は操れない。なので今の河童は『墜ちし水神の意地』を発動させてイケメンになっている。妬ましい。


 ちなみに、『操水』によってワイバーンの体内の血を操って逆流させたりして殺すなんてことは出来ない。さすがにそれ出来たら河童が無敵過ぎるからしゃーない。


「人間の小僧め! 我らがドラゴンの恐ろしさを思い知りやがれ!」


「ん?」


 なんか俺の目の前で一体のワイバーンが恨み言を吐きながら自分の口の中に手を突っ込み、自傷行為を始めたんだけど。


 驚いて自傷行為を呆然と見守っていると、そのワイバーンは俺に向けて大きく口を開いた。


「あ、やべ! そういうことか!」


 ワイバーンがやろうとしていることを理解したのも束の間、自傷によって付けられたワイバーンの口内の傷口から()()()()がものすごい勢いで噴き出してくる。


 擬似的なドラゴンブレスってことかよ! さすがドラゴンの端くれだな!


「くっ!」


 俺は咄嗟にインテリジェンス・シールドを召喚して飛んでくる血を防ぐが、全てを防ぎきれずリビングアーマーの隙間から血が中へと入ってくる。その瞬間、激痛が駆け巡った。


「があ!」


 クソ、本当に肌が爛れ始めてやがるのか。


 だが収納カードから取り出したポーションを飲むとみるみるうちに痛みが引いていく。


 爛れてもポーションで治るならば、痛みは伴うがワイバーンを斬っていった方が手っ取り早いな。手加減してわざわざ麻痺させるのは面倒なんだよ。


「フハハハハ! 我らワイバーンもブレスぐらい吐けるわ! 油断したな小僧!」


「うるせぇ! まずテメェは死にさらせ!」


 口から血を飛ばしてきたワイバーンを睨みつけ、『劣雷槍』をそいつの胴体に深々と突き刺した。無論、傷口から大量の血が噴き出してくる。


「ぐわあ! なりふり構わず突き刺してくるとは!」


 ワイバーンはそう言った直後に死に絶え、死体は煙のように消え失せてドロップしたアイテムが海へと落下していった。拾っとけよ、河童。


「痛い痛い痛いっ!」


 俺は痛みに耐えながらポーションを使用し、回復を待たずに次のワイバーンを『劣雷槍』で突く。そしてまた血を浴び、再びポーションで回復する。


 それを繰り返していく。




「──テメェで最後だ! 黄泉の国で俺達を襲ったことを詫びやがれ!」


「おのれ人間!」


 数分も経たずしてワイバーンの群れは残り一体にまで減少し、俺は最後のその一体の首を刈り取ったのだった。


「あん? 血が噴き出てこないな?」


 俺は『劣雷槍』を振って滴っているワイバーンの青い血を振り払いながら疑問を口にする。


 なぜかこのワイバーンは首を刎ねたのにもかかわらず血が噴き出さないのだ。


 うーむ、どういうことだ?


 ワイバーンの『噴血』はパッシブスキルだと思っていたが、もしやアクティブスキルなのか?


 でもそんな単純な話ではない気がするんだよな。


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