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101.貿易

「ええ。双方に利がある貿易の提案をしに参りました」


 ……本当に双方に利があるのかな?


 そう思って凛津に視線を送ると、彼女は先ほどと同様に小さく首を縦に振った。


 ならばよろしい。


「貿易か。輸出入のどちらだ?」


「どちらかと言えば我々は輸出をする側、ですかね」


 と言い、夢野は人差し指で眼鏡をクイッとした。それいいな、俺もやりたい。


「ほう、輸出? 我が国が貴国から買いたい物なぞあるのかね?」


 俺はわざとらしく首を傾げる。


「ありますとも。四国は瀬戸内海を(よう)し、瀬付きアジのようなブランドの海産物が多く獲れます。また、愛媛みかんや木頭ゆず等々、美味しいものばかりですよ」


 瀬付きアジっていったら関アジだけど……それって九州のブランドじゃん。あとは山口とかもそうだっけ? どっちにしろ四国のブランドじゃないんだが。


「ですが、我が国がジパング王国に輸出したいのはそういうものではありません。……()()です」


 おいおい(やぶ)からスティックだな。それにしても……輸出品は銃器、か。銃器というのは興味を引かれるな。


 ドワーフには軍用の剣・刀・槍・弓などの武器を造らせているが、どうも彼らドワーフは銃器が造れないらしいのだ。というのも、銃器がどういう構造をしているか知らないからである。


 当たり前だ。構造を知らなきゃいくらドワーフだって造れないものは造れない。


 原始的な前装銃ならば構造を知っているからドワーフに教えてやれるが、あいにくと俺は現代銃の構造にはまったくの無知なのだ。


 片方の口が閉じられた鉄製の筒があれば、それはもう原始的な前装銃である。何せその筒に火薬と鉛玉をぶち込み、火薬に着火することで起きる爆発により鉛玉が発射されるという実に単純な仕組みの銃だからだ。


 まだスクナ達が生きている頃に彼らにこの原始的な前装銃の構造を教え、そしてそれを参考に現代銃を造ってくれと注文したことがある。


 スクナ達は張り切って取り掛かったが、結局は原始的な銃器の域を出なかった。


 理由はいくつかあるが、銃器は人類が何世紀もかけて少しずつ昇華させていったものなのでドワーフでもそう簡単には造れないとのことだ。


 現代銃造りの参考になるかと思い、関所を設けていたヤクザどもの拠点の武器庫から回収した銃器をスクナ達に渡したりもした。


 早速スクナ達はヤクザどもの銃器をバラして構造を調べ始めたが、これも実を結ぶことはなかった。


 なんとヤクザの拠点の武器庫にあった銃器は正規の方法で造られたものではないらしく構造が滅茶苦茶で、何度か発砲すると暴発するような不良品だったんだ。


 だからある程度は参考になったが、不良品の銃器の構造を模倣するわけにはいかないため現代銃が完成することは叶わなかった。


 つーわけで、ジパング王国軍では銃器は使用されていない。しかし俺としてはジパング王国軍に銃器を導入したいと考えている。


 竜騎兵科とか憧れるな。まあジパング王国には蝦夷汗国のモンゴル人以外の騎兵がいないので、そもそも竜騎兵以前の問題だが。


 なぜ俺が軍隊に銃器を導入したいと思っているのかと言うと、ジパング王国軍のおよそ七割を非覚醒者が占めているからだ。


 ジパング王国は志願制度であり、覚醒者・非覚醒者問わず兵士を募っている。


 モンスターから身を守る術がない非覚醒者は働き口が少なく、非覚醒者は生きていくために必然的にジパング王国の軍隊に入るしかないのだ。


 もっとも、ジパング王国で軍務に服する者の衣食住は保障しているよ。だがいかんせん非覚醒者が多いため、先の天竜川会戦ではジパング王国軍兵士の戦死率が半端じゃなかった。南無南無。


 ……ジパング王国軍はアットホームな職場です。皆様の志願を心よりお待ちしております(暗黒微笑)。


 冗談はこれくらいにして。


 志願兵には魔導具ではないドワーフ製の防具・武具を貸与しているため、非覚醒者の志願兵だとしてもDランク上位相当のモンスター程度ならば倒せる実力はある。


 だがDランクモンスターに囲まれてしまえば、非覚醒者の志願兵では手も足も出ない。つまり非覚醒者の志願兵の実力は今のところ、単独でDランク下位~中位程度のモンスターと同程度だ。


 そんな弱々しい非覚醒者の志願兵がジパング王国軍兵士の七割を占めている関係上、ジパング王国軍は非常に脆い。


 天竜川会戦でジパング王国陸軍が連合軍を打ち破ったのは奇跡に等しいと個人的には思ってる。


 なので少しでも非覚醒者の志願兵を強化するために、どうにかして銃器を大量に入手出来ないかと仁藤さんや榊原さんに相談していた。


 銃器さえ持てば、非覚醒者のクソ雑魚志願兵も今よりはマシになるだろうし。


 そんな折に四国避難所連合が銃器をジパング王国に輸出すると持ちかけてきた。好都合ではあるんだが……四国避難所連合が銃器をジパング王国に輸出するメリットがまったくないから怪しいんだよな。


 ジパング王国に銃器を輸出すれば、軍に銃器が導入されることは目に見えているはずだ。


 でも夢野が双方に利のある貿易の提案をしに来たという発言が嘘じゃないことは凛津によって確認済みなので、少なくとも夢野はこの貿易が四国避難所連合にも利があると思っていることになる。


 意味がわからない。この貿易による四国避難所連合のメリットが見当たらんぞ?


「銃器の輸入、か。検討させていただこう」


 ここは無難な回答をしておくことにした。あとで皆と話し合い、四国避難所連合から銃器を輸入するか決めよう。


「そんなことより、連合長よ。もし貴国が敵対行動を取った場合……わかっているな?」


 俺は射抜くような視線を夢野に向けながら片手をミラージュの方にやる。するとミラージュはソファから立ち上がって予定通りにリンゴを手渡してきた。


「もし貴国が我が国に牙を剥いた場合、我々は容赦せずに潰す。そう、このリンゴのように──」


 そう言って俺はリンゴを思いっきり握り潰そうとするが……リンゴは潰れるどころか、凹みすらしなかった。


「あ、あれ?」


 おかしいな。


 エルダートレントをカードに送還すると『神木の加護』が解除されてしまうため、普段からエルダートレントは召喚しっぱなしにしているはずなのに。


 無意識のうちに間違えて送還しちゃったのかな?


 まあいい。俺はリンゴをミラージュに投げ渡す。そうしたら俺の意図を理解し、彼女はまるで赤子の手をひねるように片手でリンゴを握り潰した。


 するとリンゴの果汁が飛び散り、俺の顔面が果汁まみれになる。


「…………ミラージュ、お前わざとだろ」


「よくわかりましたっすね」


「もっと悪びれろ。あと顔を拭くタオルを寄越せ」


「どうぞ、タオルっす」


 ミラージュから受け取ったタオルで顔を拭い、それから咳払いをして話し始める。


「銀髪のこいつは気にせんでくれ。元からこんな性格なんだ」


「そ、そうですか」


 夢野は苦笑した。


「で、話を戻すが、銃器の輸入は検討させていただく。今のところは保留だ」


「残念ですね。輸出可能な銃器の種類はたくさんあるので、一応そのリストを渡しておきます」


 残念と言いつつまったく残念そうな顔をしていない夢野は筒状に丸めた紙を懐から取り出し、テーブルに置く。


「ではこれで失礼いたします。私どもは数週間ほど王都に滞在する予定なので、用事がありましたら『不知火(しらぬい)』という宿にお越しください。そこに泊まっておりますので」


「相わかった。用事があればそこに使者を立てよう」




 ◇ ◆ ◇




 布石は打ちました。


 あとはジパング王国がこの貿易に応じてくれれば……私達の勝利です。


 私は蝦夷汗国や大日本皇国の二の舞を演じるつもりなどありません。私の理想の実現のためにも、確実にジパング王国を倒します。


「ジパング王は引っ掛かるかね?」


 大雅は頭の後ろで手を組んで歩きながら呟きました。


「大雅、ここはまだ王城です。盗聴されている可能性があるので黙っていてください」


「ったく、わかってるって。久秀はいちいち細かいな」


 私は大雅に注意をし、軽く周囲を見回します。


 見た感じ近くに人はいないようですが……ここはジパング王国の王城の廊下です。どこかに人が隠れられるスペースがあるかもしれません。例えば天井、とか。


 あとで大雅にはきつく言っておきましょう。こちらの計画がジパング王国に露見したら洒落になりません。



 Cランク以上のモンスターを単独で倒す実力がない覚醒者を相手にする場合、基本的には銃器があれば非覚醒者でも対等に渡り合えます。


 なので銃器は割と重要です。

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