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9.覚醒

 私は剣である。()()はまだない。


 種族はインテリジェンス・ソードだ。ランクがDであるため喋ることは出来ないが、ちゃんとした自我は芽生(めば)えている。


 いつの間にか、私は人間のマスターに使役されるモンスターとなっていた。ただし不満はなかった。私を剣として使ってくれる人に巡り会えたのだから。


 このマスターに一生付いていこう、私はそう思った。


 そのマスターが、今目の前で巨大な烏に殺されようとしている。私はこれを阻止しようとしているが、まったく歯が立たない。


 私は剣であって、盾ではないのだ。巨大な烏からの攻撃を身代わりとなって防ぐ力すらない。


 悔しい。マスターが死ぬ瞬間をただ見ていることしか出来ない自分が悔しい。


 力が……欲しい。切実にそう願った。


 理不尽に立ち向かうための力がッ───!


『良かろう。(なんじ)に力をくれてやる』




 ───声が、聞こえた気がした。




◇ ◆ ◇




 目を閉じてから数秒ほど待つが、襲いかかってくるはずの痛みが一向に訪れない。すると、クソ鳥の悲鳴が聞こえてくる。


 何だ、何が起こっている!? 俺はすぐに目を開けて、周囲を見回す。


 そうしたら、インテリジェンス・ソードが空を飛んでクソ鳥と戦っていたのだ。しかも、クソ鳥をかなり追い詰めている。


 ……本当に何があった?


 俺はインテリジェンス・ソードのカードを取り出して、表示されているステータスを見て驚愕する。




名称:報復剣フラガラッハ

種族:付喪神

ランク:C

攻撃力:3000

防御力:3500

【スキル】

●装備者強化・剣術

●浮遊→飛行(CHANGE!):制限時間なく空を自由に飛び回ることが可能となる。

●報復の刃(NEW!):この剣で付けられた傷は自然治癒でしか癒えず、スキルなどによる回復を阻害(そがい)する。

●破壊斬撃(NEW!):日に一度だけ、斬った物を破壊することが出来る。任意で発動。また、破壊出来るのは無生物に限る。




 何だこれ? 何だこのデタラメなステータスは。それにいつの間にかランクがCに上がっていやがるんだが……。


 というか、新たな項目が追加されているな。名称? 名称ってのが追加されて、ソードに名前が付いている。


「報復剣……フラガラッハ?」


 フラガラッハ、どっかで聞いたことがあるような気がしなくもない。どこだったかな……。


 っそうか、思い出した! ケルト神話に登場する光の神ルーが持っていた剣にフラガラッハって名前が付けられていたはずだ。


 ケルト神話だとフラガラッハは、どんな鎧も貫くと描写されている。そのため、スキルに『破壊斬撃』なるものがあるのだろう。


 『飛行』という『浮遊』の上位互換と思われるスキルは、勝手に飛んでいって敵を倒してくれるというフラガラッハの代名詞である逸話を元にしていると思われる。


 また、フラガラッハには斬った敵に癒えぬ傷を与えるという逸話を元にした『報復の刃』というスキルもある。


 そして攻撃力が3000、防御力が3500。倍になっていやがる。


 謎がまだまだたくさんあるが、今はクソ鳥を倒すことが先だな。


「フラガラッハ!」


 俺が名前を呼ぶと、フラガラッハはクソ鳥への攻撃を止めて俺の元に戻ってきた。


「マスター、いかがなさいましたか?」


「うお! 喋った!?」


 フラガラッハが無機質な声で急に喋ったので驚いたが、Cランクモンスターは人語を喋ることを思い出して冷静になった。


 改めてフラガラッハを見るが、見た目にインテリジェンス・ソードだった時の面影はない。(つば)には意匠(いしょう)()らした金色の東洋の龍が取り付けられていて、柄には黒と白の(なな)めの格子模様。


 あー、斜めの格子模様の名前ってなんだっけ。アーガイル柄だったか? まあ名前はどうでもいいか。


 形はインテリジェンス・ソードの時と同様にロングソードで、剣身は赤みがかっていてうっすらと光り輝いている。


「あのクソ鳥は俺の手で殺したいんだ」


「……了解しました。私をお使いください、マスター」


 フラガラッハは俺の手に収まる。そして俺はクソ鳥に向かって歩き出した。


 クソ鳥は瀕死(ひんし)の状態で地面に倒れていて、俺が近づいていることに気付いて顔を上げた。


「……人の子よ、見事だ」


「は? どういう意味だ?」


「我の種族は八咫烏(やたがらす)、Cランクモンスターである」


 八咫烏? そういえば八咫烏って足が三本の烏だったっけ。


「それがどうした?」


「八咫烏は人を導く神である。日本神話の神武東征にて、神武天皇の道案内を務めている。他のモンスターも同様に、世界各地の神話を元にして生み出されているのは知っているだろう?」


 そこでクソ鳥──もとい八咫烏は咳払いをした。


 確かに、オルトロスなんかもギリシア神話に登場している。それに知らぬ間に名前が付けられていたフラガラッハは、ケルト神話での逸話などを再現したようなスキルを持っていた。


 モンスターと神話には、何かしらの関係があるということか?


「我を追い詰めたインテリジェンス・ソードについてだが、名前が付いていたであろう?」


「ああ、フラガラッハって名前が付いていた」


「モンスターにはそのフラガラッハのように名前を付けられている、ネームドモンスターと呼ばれるものが存在する」


「ネームドモンスター?」


「ネームドモンスターは通常のモンスターより(はる)かに強く、特別なスキルを持っていて、この特別なスキルは世界に二つとない。


 そしてネームドモンスターに付けられている名前は、地球に存在する神話が元になっている。なぜだと思う?」


 難しい問題を出しやがって……。


「わからんな。答えは?」


 八咫烏はやれやれといった感じにため息を吐いてから、また話し始める。


「ネームドモンスターとは、()()()()によって神話に登場する者達の名前を名乗ることを認められたモンスターなのだ」


「上位存在? 神ってことか?」


「そうだ。我の種族である八咫烏も神ではあるが、上位存在によって生み出されし存在であり、便宜(べんぎ)上の神に過ぎない。我なんぞ真なる神の足下にも及ばぬわ」


 上位存在なんてのがいるのか。まあモンスターが世界に出現するようになったんで、神か神に準ずる存在がいることは明らかだったけどな。


「名前を付けられたネームドモンスターは、その名前の元となった存在が神話で使っていた力をスキルとして得られるようになり、それ以外にも様々なスキルを真なる神から与えられる。それら特別なスキルをネームドスキルと呼ぶ」


 じゃあフラガラッハは、上位存在に認められて名前を付けられたのか。んで、ケルト神話での逸話を元にしたスキルを得られたというわけか。


 そしてネームドスキルか。ネームドモンスターしか保持出来ないスキルってことかね。


「モンスターの能力などは神話に忠実だということだ。まあ、一部違っているが。


 八咫烏は日本神話では三本足だとは明記されていないからな。中国の三足烏(さんそくう)と同一視されて、八咫烏が三本足だというイメージが一般人に定着してしまったのだ」


 言われてみれば、フラガラッハだってケルト神話ではどんな鎧も貫くって描写以外には書かれていない。


 癒えない傷を与えるとか勝手に飛んで敵を倒すって逸話は日本語でしか描写されていないらしいし。


「八咫烏は人を導く神だ。(ゆえ)に、我は(なんじ)らの成長を導かせてもらったというわけだ」


 そう言って、八咫烏は優しく微笑んだ。


 待て、どういうことだ? 成長を導く? ということは、この八咫烏は自ら俺達に立ちはだかって壁となり、フラガラッハの成長を(うなが)したということか?


 ならば、フラガラッハがネームドモンスターになったのはこいつのお陰なのか……。


「……ありがとうございます、導きの神。あなたのお陰で私はマスターの役に立つことが出来ます」


 フラガラッハが八咫烏に向かって礼を言った。


「良い、それが八咫烏という神の役目なのだ……」


 さっきまでこいつのことが殺したいほど憎かったが、それが感謝の気持ちで上書きされていく。


 そしてそんな俺を見つめていた八咫烏は、顔を(しか)めてからフラガラッハに視線を移す。


「もう長くないようだ。……早くとどめを刺せ。でないと、特殊なアイテムがドロップせぬぞ」


「そう……か……」


 俺は(くちびる)を噛んでから、フラガラッハを振り上げる。


「助かったよ、あとは眠っていてくれ」


(あい)わかった」


 そして八咫烏の首を刎ねると、直後に死体が消えてドロップアイテムが残る。


 俺は顔を上に向けてから目を閉じて、涙をこらえる。八咫烏、この恩は一生忘れないぞ。


「マスター!」


 フラガラッハが俺を呼ぶが、今はそっとしていてほしい。少しセンチメンタルな気分になっているんだ。


「マスター! マスター、あれを! あれを見てください! 導きの神が!」


 八咫烏のことでフラガラッハが俺を呼んでいるようなので視線を落とすと、そこには八咫烏のカードが落ちていた。


「!?」


 俺は急いでカードを拾い、血を垂らしてから召喚を試みる。果たして、先ほどの八咫烏が召喚されるのかどうか。少し緊張する。


 召喚された八咫烏はキョロキョロと周りを見て俺達を視界に入れると、それからすぐに苦笑をした。


「これも天命、か。上位存在は我がお主らをまた導くことを望んでおられるようだ」


 俺は恐る恐る尋ねてみる。


「さっきの八咫烏なのか?」


「いかにも。これからよろしく頼む、マスターよ」


 嬉しい。この八咫烏が仲間になってくれて本当に嬉しいのだが……さっきの別れの悲しみを返せよっ!


 何だか釈然としない感じになっていると、フラガラッハのカードが発光したのだ。召喚中のフラガラッハに変化がないことを確認してから、フラガラッハのカードのステータスを見てみる。




名称:報復剣フラガラッハ

種族:インテリジェンス・ソード

ランク:D

攻撃力:1500

防御力:1750

【スキル】

●装備者強化・剣術

●飛行

●覚醒(NEW!):日に一度だけ発動可能。発動すると一時的にCランクモンスターの付喪神にランクアップし、ケルト神話のフラガラッハ由来のスキルである『報復の刃』『破壊斬撃』が使用出来るようになる。

●成長限界突破(NEW!):成長限界がなくなり、魔石を吸収するたびにステータスが上がっていく。




 種族が付喪神からインテリジェンス・ソードに戻り、ランクもCからDに戻った。


 なるほど、さっきまでCランクの付喪神だったのは新しく手に入れた『覚醒』ってスキルの効果なのか。


 それと、攻撃力と防御力のMAX表示がなくなっているな。『成長限界突破』っていうスキルのお陰か。これで魔石を吸収させて攻撃力を上げても限界がなくなるのか。


 つーか、フラガラッハがDランクに戻ったけど会話は可能かな?


「フラガラッハ、喋れるか?」


「はい、マスター。喋れますよ」


「おお、なら良かったよ」


 まあDランクに戻っても見た目が覚醒した状態のままだから大丈夫だろうとは思っていたけどね。


 ……ふと思ったが、剣のどこから声を発しているのだろうか。まあモンスターなんて存在からしてファンタジーなんだし、今更感があるな。


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