0.プロローグ
ビルは倒壊し、瓦礫に埋もれている。コンクリートによって舗装された道路は至るところがひび割れ、そこからは植物が芽を出していた。
そのひび割れた道路には、様々な動物が我が物顔で闊歩している。
ここは東アジアにある小さな島国ながら、有色人種国家として初めて列強へと至った国のなれの果て。かつては、日本と名乗って天皇を象徴的な国家元首とする民主制国家だった。
今やその面影は感じられず、山々に住んでいた鹿が群れをなして人気のない道路を進み、動物園から逃げ出したと思われる百獣の王ライオンが物陰からその鹿を狙うような光景が見られる。
しかしそのライオンを、ナニカがいとも容易く捕食した。そのナニカこそが、世界が荒廃する原因となった。
そのナニカは通称──怪物と呼ばれている。西暦2020年、何の前触れもなく唐突にモンスターが出現したのだ。日本だけでなく、世界各地に。
ファンタジー世界の住人であるスライムやゴブリンを始めとする多種多様なモンスターが現実世界に現れ、見境なく人間を襲い始めた。
この事態を当初、人類は楽観視していた。事実、世界中の人々は面白がって『ステータスオープン』と唱えていたほどだ。だがステータスなるものが表示されることはなかった。
楽観視していた理由としては、最初のうちは弱いモンスターしか出現していなかったということが挙げられる。
最初期に出現したモンスターは、当時使われていた拳銃という質量兵器で頭を一発撃ち抜けば倒せる程度の強さだったようだ。
それでも成人男性の何倍もの腕力を持っていたようだが、各国で行われた情報共有により初動が早かったため、火器によって次々と討ち取られていった。
が、モンスター出現からしばらくして、人類は楽観視していられなくなった。モンスターの魔手により、数々の文明が立て続けに崩壊していったからである。
これが科学文明崩壊の瞬間だと定義されている。
国際自然保護連合が作成する絶滅危惧種のレッドリストでは人間の絶滅の可能性は低いとされていたが、人間はこれらモンスターによって絶滅の危機に瀕することになったのだ。
地球上で最も地上を支配する種族となって繁栄した人類は古くから同族と争いを繰り返してきたが、モンスター出現に際して人類同士で争っている場合ではないという共通認識が生まれる。
その結果、安保理の常任理事五カ国の意見が一致して特別協定が締結され、特別協定に従って安保理に国連加盟国の兵力が提供された。
こうしてついに、国連憲章で規定された真の意味での国連軍が安保理によって組織されたのである。
日本国政府は国連軍には加わらなかったものの、重要影響事態安全確保法により、国連軍の後方支援のために自衛隊を国外へと派遣した。
しかし国連軍に加わらなかったことを非難する声が日本国内では多数上がり、こうした世論に流される形で日本国政府は敵性生物撃滅特別措置法(通称対モンスター法)を施行。
対モンスター法に基づいて日本国政府は安保理に自衛隊を提供し、日本も国連軍へと加わることになる。
このように先進諸国主導の元でモンスターを殲滅せんと世界中の国々が協力を始めたわけだが、一定以上強いモンスターには銃器が通じないことが判明した。
また、実体のない死霊系モンスターに限っては物理攻撃がまったく効かなかった。
このまま滅びを待つしかないのかと人々が絶望した──その時、モンスター出現以来初めてとなる吉報が人類に届けられる。
一部の人間が、現実世界にはあり得ないはずだった超常的な能力に目覚めたのだ。
そのような超常的能力を人々は''異能''と名付け、異能を持つ人間を''覚醒者''と呼ぶようになる。
覚醒者は超常的な能力である異能を所持する者達のことだが、その異能というのは読んで字のごとく人によって様々だ。
似たような異能は数あれど、まったく同じ異能を持つ覚醒者は一度として確認されていない。
例えば魔法を使えたり、物理攻撃で死霊系モンスターにダメージを与えられるような異能もあれば、バフやデバフなどの補助系の異能を持つ覚醒者もいる。
人類の希望を体現した覚醒者達は、国連などの国際機関ないし各国政府の要請によってモンスター討伐に従事。これにより人類はある程度の生息域を取り戻した。
しかしなぜ一般人だった自分達が他人のためにモンスターと戦わないといけないのかと、覚醒者の間で不満が溜まっていく。
モンスター討伐を要請した、と言ったが、覚醒者側に拒否権がないということが言外に含まれていた。そのため、覚醒者が望んでモンスター討伐に従事しているわけではないことをここに記しておく。
そしてとうとう覚醒者達の不満は爆発し、彼らはモンスター討伐を要請する政府に対して各地で反乱を起こした。
覚醒者の反乱に各国政府は銃器でもって対応し、人類はモンスターだけでなく覚醒者とも戦火を交えて世界中の治安は悪化。モンスターだけでなく暴徒が跋扈するようになってしまう。
まさに終末世界、ポストアポカリプスと化した。
けれども、全ての覚醒者が反乱を起こしたわけではない。非覚醒者を保護し、モンスターから守るための避難所を設立するような覚醒者もいた。
島国などでは、海に阻まれて他の地域からモンスターや暴徒が流れ込んでくることがないので治安の良い避難所などが多数存在している。
特に、典型的な島国であるイギリスや日本、インドネシアなどは非覚醒者の受け皿と化していた。
2023年2月26日(日)、安保理により国連軍が組織され、日本国政府も世論に流されて国連軍に加わったという設定を追加。