マルクスの秘密
武器屋に戻ったアルバとダスクは、リスタリアに海の宝石を預けた。
「ありがとう! 助かったわー」
リスタリアは海の宝石を受け取ると、既に形は完成している短剣にそれを埋め込んだ。それはリスタリアの手によって丁寧に鞘に収められる。アネラはそれを受け取ると、目をパッと輝かせた。
「凄い……王宮職人に作ってもらったやつより断然いい……」
「でしょ? ここはトワイライト独自の技法で武器を開発してるからね。」
リスタリアが胸を張る横でダスクが色々と参考書を取り出しているのを見てアルバは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ささ、アルバ。パブに戻って勉強しよう」
ダスクが妙に優しく微笑みながら手招きする。アルバは渋々彼女の元へ向かい、パブへと戻った。
「で、こっちがこうなるから、この解がどうなるかというと?」
「259₂」
「いや違う。まずね、αがこうあるでしょ? するとこっちに行く。この公式はこういう法則を使うから……」
ダスク先生による熱心な授業は続いた。ダスクの並外れた数学力と物理学力は凄まじいものがある。全ての方程式や図形や物質を一瞬で理解して噛み砕く。これは才能なのか、それともダスク自身が身につけたものなのかは誰にも分からない。
「あ、√5か」
「そうそう。で、次はこの空中戦物理式についてなんだけど……」
「ダメださっぱりわからん」
気づけばマルクスも帰ってきたようで、共に問題を解いていた。ただマルクスはまともな教育を受けてないため、全ての事柄が意味不明のようだった。
ダスクが満足する頃には、月は大分高い位置に昇っていた。アルバはそれを見て、ほっと一息つく。月の光に吸い込まれそうになりながら、手を月に重ねた。
「ダスク鬼だった……」
アルバはボソッと呟く。パブのドアの目の前。ダスクはパブの中で未だ勉強をしている。月光に照らされながらの勉学は捗る。
そのころマルクスは……。
「ダメだ……。まだ目覚めちゃ」
『なんで?』
「だって……まだ……。お願いだ、まだ眠っていてくれ」
『つまんないの』
誰のものか分からない少女の声と、マルクスの発す少し焦った少年の声。彼の声は段々とトーンを下げてきていた。
彼も、いつまでも少年という訳では無い。
「お願いだ……。まだ……。まだ待っていてくれ……」
マルクスの声に反応する者は居なかった。