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モフモフ(?)

 リスタリアに渡された手書きの地図を頼りにして、アルバとダスクはそのダンジョンとやらに向かったが、それは暗くてじめじめしていて、如何にも「ダンジョン」という風ではなく、木漏れ日の差し込む穏やかな森だった。この奥に海があり、そこに海の宝石があるとリスタリアは言う。

「本当にここなの?」

 不安げな表情を浮かべて訊ねるダスクに頷きながら、アルバはその美しいバーントシェンナの髪を解き、櫛を使ってまた一つにまとめ上げる。戦闘時はポニーテール。それがアルバのアイデンティティだった。白いシュシュが、ボリューミーな髪をまとめている。

「多分ここだとは……思う」

 そうはいったものの、アルバも不安だった。何故ならその森は、ダンジョンにしてはあまりにも平和な雰囲気すぎる。可愛い小動物がひょこっと出てきてもおかしくないレベルだ。アルバは頭を悩ませる。

 彼女の予感は的中し、まん丸の子熊がのそのそと可愛らしく木陰から出てきた。

「わあっ! 可愛い……。これがいわゆるモフモフってやつ……?! ああ、癒される……」

 頬を綻ばせながら小熊を抱きしめた。だがアルバはその子熊が真っ黒な爪を立てて、真っ黒な牙をむいているのを見逃さなかった。爪はダスクの衣服をがりがりと削るが、彼女はそのことに気付かず、子熊を抱きしめている。

 とうとうダスクの肌が露わになろうとしている。きっとあの爪と牙には毒が入っているだろう。でもどうすればいいのかアルバには解らなかった。ルスワールで焼き切れるだろうか? それとも物理攻撃で子熊を追っ払うか? 炎魔術を使うか? 

 頭の中で様々な魔術方程式を立てる。だがアルバにとって、最適解なのは……。

 シュパッ——。

 気付けば子熊は目の前で息絶えていた。

 そう、本能に従うこと。アルバは深く考えることが嫌いだ。ダスクの様に方程式で魔術を編み出すこともできない。だからルスワールの導きのまま乱暴に大剣を振り回すことがアルバにはお似合いなのである。

 ぽろりと剥がれ落ちた爪からは、真っ黒な毒が出てくる。これは恐らく天然のものだ。ルスワールが草と子熊の死体ごとそれを焼き切る。

 子熊を燃やした灰から見ると、子熊は元は普通の子熊だったことが伺えた。だけど何者かに洗脳され、毒の施術を施されたのだ。

 アルバは子熊の骨を、木下にそっと埋めてやった。

「あ、ありがとう……」

 ここまで無言だったダスクがやっと口を開いた。その声はわずかに震えている。きっと、あんなに可愛い子熊が毒を持っているだなんて思いもしなかったのだろう。

「うん、じゃあ奥行こうか」

「そうだね」

 木漏れ日の注がれる森……ダンジョンを、二人の少女が歩んでいった。

 

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