野望
一人の女が冷たい床に倒れこんでいた。
女はキラキラと輝く青空を見つめるが、彼女のバーントシェンナの瞳は澄み切っておらず、どんよりと曇っている。
青空が憎い。青空が憎い。
女の思考はたったそれだけ。それ以上でもそれ以下でもなく、それだけ。本当にそれしか考えていないから、脳が腐ってしまいそうだ。
瞳と全く同じ色をしたバーントシェンナの髪は、少し前まで綺麗なポニーテールになっていたのだけれど、今はほどけて、毛は傷んでいる。女はそれを屈辱ととらえ、その髪が視界に入らないように手で除けた。
この女は世界一儚い存在である。何故なら、本当に一瞬しかその本気の姿を見せない。ただの若い娘の様な見た目なのに、本当は全てを変える力を持っているのだ。
だが女は負けた。いつものことだ。毎日毎日、彼女は挑んでいる。負けることは彼女自身が一番判り切っているはずなのに。それでも懲りないのだ。
全知全能。炎魔術。千里眼。サイコメトリー。かつては「聖女」と呼ばれ神話にまで綴られたその生き様。何者かに数億年もの間封印され、その封印が解けた今もう一度日の目を見ようとしているその女の名は——。
アルバ・エナス・クリース。朝に負けた暁であった——。