クッキングニート~オリジナルメニューという名の宇宙~
真夏の昼下がり、1人の男が車から降りてきた。男の名前は、アーナルド・シマリツヨネッカー。大阪貝塚に住む、三十路ニートだ。
買い物袋をぶら下げながら男は、住んでる公団の階段を上がっていく。車から降りて数分で、滝のように汗が吹き出してきた。
――こんな暑い日には、オリジナルメニューでも作ろうかな?――
オレはそんなことを考えながら、玄関を開けて家の中に入った。
家の中には、誰もいなかった。父親は仕事、母親はパート、妹は学校だろう。さてと、誰もいないならここいらで、ニートの特権を開始しようじゃないか。ニートの特権とは、平日の昼間からお菓子やジャンクフードを食べて、だらだらすることだ。オレは買ってきたモノをテーブルの上に並べる。
〈チョコフレーク〉
〈パ〇ム〉
〈サッポロ味噌ラーメン〉
〈ごくうまキムチ〉
買ってきたモノを並べながら、なんてセンスがいい商品チョイスなんだと自分を褒め称えた。
オレの趣味は、自分だけのオリジナルメニューを開発すること。そして、オリジナルメニューにはルールがある。Aの商品とBの商品を組み合わせて、Cのオリジナルメニューを産み出す。これが基本的なルールだ。商品のチョイスはスーパーで食べたいと思った商品を2つ買う。食べたいモノ2つを組み合わせれば、一回の食事で2つの味を同時に楽しめるのに加え、組み合わせから生まれる新たな味の発見もできる。まさに作る度に、無限に広がっていく宇宙そのものと言える。
今回のオリジナルメニューは、キムチ味噌ラーメンだ。なかなかいい組み合わせだと、オレは思っている。さて今日も、味の宇宙へと行こうじゃないか。さながらオレは、オリジナルメニューという未知なる道を進む先駆者だ。
物思いもそこそこに早速、オレは調理を開始する。まずはお湯を沸かした鍋に、インスタント麺を入れる。5分後、グツグツと煮えるラーメンに、味噌スープの素を入れる。科学調味料のいい匂いが鼻の奥を刺激する。菜箸で軽く混ぜたら、サッポロ味噌ラーメンがまず完成した。次に、キムチの蓋を開ける。台所にキムチの匂いが充満する。オレはラーメンの上に適量のキムチを乗せて、昨日の残りモノのネギをアクセントで入れたら『コクキムチ味噌ラーメン』の完成だ。
完成したラーメンをテーブルに持っていく。
――もうお腹ペコペコだ。早く食べたいぜ――
エサを貪る犬のように勢いよく、ズルズルと音をたてながらオレはラーメンをすすった。
「うっ、旨い!」
想像していた以上の旨さに、思わず声に出してしまった。キムチのコクのある辛味と、味噌の芳醇な香りがマッチして味に奥行きと深みを生み出している。キムチを避けて食べれば普通の味噌ラーメン。一緒に食べれば、コクキムチ味噌ラーメンの味。まさに二刀流。こんな高いポテンシャルを持つラーメンを食べたのは初めてだった。
オレは大満足の味に浮かれてしまい、すごい勢いでコクキムチ味噌ラーメンを食べきってしまった。だが今日はこれだけで終わらない。近所のスーパーで安売りしていた、いつもは買わないデザートまで買ってきたからだ。そう、今日はオリジナルスイーツもこれから作っていく。
買ってきたのは準チョコレートのアイス、『パ〇ム』とオレの好きなお菓子『チョコフレーク』だ。好きと好きが合わされれば、それはもう大好きだろ。つまり、このオリジナルスイーツは食べる前から大好き確定と言える、とんでもないスイーツなのだ。
そんなことを考えながら、皿の上に袋から出したパル〇を置く。そしてパル〇を置いた皿に、大量のチョコフレークをふりかける。簡単だが、これでオリジナルスイーツ『サクサクチョコフレークパ〇ム』の完成だ。あとは上に乗ったチョコフレークを、なるべく落とさないようにしながら、パル〇を食べるだけだ。
「ンンッ!!」
衝撃の美味しさに思わず唸ってしまった。
――なんだこれは!!――
オレは宇宙の中から、新たに輝く一等星を、発見したかのような喜びに体が震えた。
準チョコであるパ〇ムの、とろけるような口どけのチョコと、サクサク食感のチョコフレークの軽い口当たりがベストマッチ。この2つのチョコが絡み合うことで産み出された、軽やかなとろける口どけに脳を破壊されたような気分になった。
オレは夢中でサクサクチョコフレークパル〇を食べた。チョコと一緒にオレの脳も溶けてしまったようだ。
「満足、満足」
今日もオレはオリジナルメニューの宇宙から、現実というカオスに帰還してきた。どちらも100点満点をあげたい、そんな大成功メニューだった。
これからもオレは、オリジナルメニューを開発していくだろう。そして今日のような衝撃を、また感じられることを祈って手を合わせた。
「ごちそうさま!」
宇宙同様、オリジナルメニューに限界はないのだ。