俊明のバイト
家に帰り荷物を置き、着替える。
部屋の中に物は少なく必要最低限の物しかない。
着替えたものを洗濯機に放り込んで回してから鞄を持って部屋を出る。
歩いて10分ほどの所にある古本屋に入る。
「やぁ。俊明くん」
古本屋河西の店長、河西裕司だ。年齢は70近く、白髪で白髭がトレードマークだ。
「店番、代わりますね」
「うむ。頼んだ。茶を入れてくるから勉強でもしてなさい。」
「店長、ありがとうございます。」
店内にお客はいない。一週間に一人、二人来れば良い方だ。
ちなみに、そんなんでやっていけるのかと言えば、収入のほとんどを株で儲けているようで店は趣味くらいのものらしい。
「あ!俊明!」
「奈緒美さん、どうしました?」
川西店長の孫で、高3の先輩だ。ショートカットヘアに後ろ髪を三つ編みリボンがトレードマーク、デニムのショートパンツから見える足は白く細いながらにしっかりしているのはバスケ部のエースとして活躍しているからだろう。
「お姉ちゃんでいいって言ってるのに」
「いやいや、奈緒美さんで許してくださいよ」
「ふふん。そうだ、そうだ。今日はご飯食べていってよ」
「そんな、悪いですよ。」
「遠慮しなーいの!ママもいいって言ってたし、私だって料理するんだから。」
ここでバイトを始めるきっかけでもあったが、俺の事情もあってかお姉ちゃんと称して色々世話を焼きたくて仕方がないらしい。
「じゃ、お願いします。」
「よろしい!」
あぐらで座って腕を組んでうんうんと頷く奈緒美さん。ラフなTシャツにショートパンツであぐらはちょっと目のやり場に困る。
「新しいクラスはどうなの??」
「どうって。奈緒美さんだって今日からじゃなかった?」
「うちは3年だからクラス替えないし、今日は半日だったもん」
「なるほど。俺は…」
今日の出来事を奈緒美さんに簡単に話した。
「え?神崎ってあの神崎?」
奈緒美さんがぐっと近づいて質問してくる。
「どの神崎だよ?あと、近いから」
目のやり場に困る。主に胸部。それに仕事中だと言うのに、自由過ぎて困る。
「資産家で音楽関係でかなり有名なんだよ。ピアノ?ヴァイオリン?でも有名だったような」
「そ、そうなの?」
俊明は今日の神崎さんの様子を思い出す。
「神崎さんは喋らないし、人前とか苦手そうだけど」
「ふーん。兄妹でもいるんじゃない?」
「確かに。」
神崎さん本人とは限らないし、得手不得手は誰にだってあるものだ。
「それよりも、俊明から女の話がでるとはねぇ」
ジト目で俊明にジリジリと近づく。ただでさえ近くにいるのだ。奈緒美さんからいい匂いがしてなんだか落ち着かなかない。
「たまたま、隣の席のだったんだよ。」
そこに店長がお茶とお菓子を持ってきたので手伝うために立ち上がる。
「俊明、逃げた!」
ぶーぶーと文句を言っているが無視をする。
「はっはっ、仲良くて結構結構」
「まったく…」
呆れながらも俊明は思うのだ。思うにはもったいないくらいの場所だ。本来ならバイトなんて雇う必要もない店に、バイトとして雇ってくれている。奈緒美さんもなんだかんだで心配して、理由をつけては夕飯や遊びに誘ってくれる。
奈緒美さんのお母さんからは、毎日でもと言われているが、さすがに悪いし、家族の団らんみたいな空気を感じた後に家に帰ると少し寂しさを感じるので時々でちょうどいい。
「奈緒美?俊明くんは仕事中なんだから、ほどほどにね」
奈緒美さんのお母さんが出てきてくれた。
「はーい。」
「俊明くん、夕飯食べていって。奈緒美が喜ぶから」
「ママー!!」