始まりの朝
今流行りの音楽をイヤホンで聴きながら出かける準備をする。
「行ってきます。」
自分以外誰もいない家の中に向かって挨拶をする。そして、ガチャリと玄関の鍵を閉め、学校へ向かう。
「爺ちゃんの家を出て一年か…」
新山俊明、今日から高校2年生になる。俊明が中2の夏に両親が事故で亡くなり、色々あって母方の祖父の元で卒業まで過ごした。
高校からは、地元に戻りアパートで一人暮らしをしている。家賃やら生活費は、バイトをして調達しているが、高校生の稼げる金額はたかがしれているので、両親と過ごした家を売ったお金と爺ちゃんが学費としてお金をだしてくれたので、なんとかなっている。
「よっ!トシ」
俊明に声を掛けてきたのは、友人の菊地康太だ。長身で痩せ型、いわゆるイケメンの部類で女子には人気がある。なんだかんだ面倒見がいい奴で色々あった時にも力になってくれた中学の時からの腐れ縁である。毎日、コンビニソーソン前で合流するのが習慣だ。
「おはよう。ちょっと寄ってくわ。今日は何にすっかな」
「なぁ。2年になってもコンビニか?トシ、野菜も買えよ」
「おかんか。まぁ予算と相談だな」
入学してから学校の昼食用にコンビニで買っていくのが日課になっていて、予算も500円と決めている。
「今日は、野菜サラダ系ですね。いつもありがとうございます。」
とまあ、コンビニの店員さんともちょいちょい話すくらいには顔馴染みだ。
弁当片手に歩き出せば、わりとすぐに学校だ。アパートから学校までは、徒歩で20分くらい。いつものコンビニまでくれば後5分くらいで学校に着く。
「クラス、トシと一緒がいいなぁ」
「言い方があれだけど、俺もそう願うわ」
今日は初日なので、クラス分けを確認しなくてはならない。とはいえ、クラス表を見るべく生徒達が集まり、近づくのも容易ではなさそうだ。
「あ、ごめん」
俊明の左手に誰かがぶつかった。
「…」
女の子がフラついたので咄嗟に支えたが、そのまま女の子は行ってしまった。
「康太は背が高いからいいなあ」
「つったって10センチくらいしか変わらんだろ」
「いやいや。15センチくらいだろ」
170くらいの俺と185くらいの康太。俺も低い方ではないが、周囲の生徒より明らかに一つ頭がでている。
「ま、ちょっと見てくるよ」
康太が隙間をぬって進んでいき、確認してきてくれた。
「お、やったぜ。トシ、3組で一緒だよ」
「よろしくな。康太」
「よろしく。トシ」
教室に入れば、再び同じクラスで喜ぶ者、新しく連絡先を交換する人たち、そんな様子を眺める人たちとそれぞれの様子が伺えた。
「とりあえず席確認するか」
黒板には座席表が貼ってあり、後ろから3番目という無難な場所だった。
「トシはどこよ?」
「窓側、後ろから3番目だわ」
「近いね。真ん中4番目」
荷物を置くために自分の席へ
「あ」
隣を見れば、穏やかそうな瞳にとても手入れがされているのが分かるくらいさらさらな長い黒髪、すらっとしながらも女の子らしさは十分あり、清楚可憐な女の子が座っていた。
「おはよう。去年は別クラスだったよね。よろしく。俺は新山俊明。」
とりあえず、無難に挨拶ができたと思ったが彼女から返事はない。チラリと様子を伺うと彼女がノートになにかを書いていた。
そして、ノートをパッと広げて俊明に向けて見せてきた。
(おはようございます。神崎ゆきです。よろしくお願いします!)
彼女の顔はノートで見えないが持っているてが少し震えていた。
「お、う。神崎さんね。よろしく」
俊明は、どうしたものか少し悩んだ。すると神崎さんは再びノートに書き出した。
(変ですよね、しゃべるの苦手で)
「あ、いや、ごめん。俺も書くべきなのか悩んだだけで、別に気にしないよ?」
神崎さんがぱっと笑顔になった。そして、またノートに書き出した。
(全然!しゃべってください。ありがとうございます^_^)
俊明は彼女の書いた文字、そして見た目とのギャップに少し笑った。
「顔文字かい。顔あるのに。まあ、これからよろしく」
そんな不思議な神崎さんとの出会いだった。