バレンタインなんか大嫌い
「なろう」では初の小説投稿です。
読んでいただけると嬉しいです。
俺はバレンタインデーが嫌いだ。
なぜなら、チョコをもらえないからだ。
高校時代、同級生の女子が義理でクラス全員に配ったのをもらったのが最後。大学に入った昨年は1個ももらえなかった。今年も今のところ、ゼロ。というか、もう14日の夜10時なので、あと2時間しかない。
なぜだ。この1年バイトに忙しくて、女の子との接点が少なかったからか? でもバイトしないと、彼女ができてもデートにも行けやしない。大学生になったんだから、デートでマックやサイゼリアってわけにはいかないだろ?
ああ、誰でもいいからチョコくれないかな。
と、突然ノックの音がした。
「兄貴、入るよ」
いつも俺をバカにして嫌っている高校1年生の妹が、なんだか遠慮がちに部屋に入ってくる。
最近はジャニーズ系アイドルにハマっていて、俺に絡んでこなかった。そういえば、年明けには母さんと、泊まりでライブに行く行かないで喧嘩してたっけ?
その妹が唐突に言った。
「今から、チョコ作るんだけど、手伝ってくれない?」
どういう風の吹き回しだ?
「何を手伝えっていうんだよ」
「泡だて。私、すぐ疲れちゃうから。こういう時、男の人がいると、とってもありがたいなって……」
語尾は聞き取れなかったけど、ちょっとかわいい♡。
いやいや、普段のこいつは、俺のこと、キモいとか、臭いとか、すげえバカにしてるんだ。
前に、妹のボディシャンプー(勝手に)使った時なんか、ケリ入れられたんだけど。お前が臭いっていうからおんなじ匂いにしてやろうとしたんじゃないか!
が、とにかく今日の妹は少し変だ。怪しみながらも、俺は妹について1階の台所へ行く。
すでにキッチンテーブルの上には黒いチョコやら、牛乳、卵、白い粉(薄力粉?知らんけど)などが揃っている。
特に何を言うわけでもなく、黙々とお湯を沸かし、湯煎したチョコをボウルに入れ、ゴムべらで混ぜる妹。
俺はただ見ているだけだが、時々、チラチラと妹がこっちを伺うように視線を向ける。
「なあ、何をすれば……」
「これ、卵白を泡立て器でメレンゲにしてくれる?」
妹の説明されるまま、透明なボウルに卵の卵白部分だけを入れ、砂糖を少しずつ投入し、懸命にぐるぐると泡立て器でかき混ぜる。
「すごい、兄貴。ちゃんと角が立ってる! 初めてとは思えないよ」
俺の手際を嬉しそうに褒める妹。なんか気分がいいな〜〜。つい
「なあ、このチョコ、誰にあげるんだ?」って口に出してから、『誰でもいいじゃない!』という罵倒を覚悟したが、
「ヒ・ミ・ツ♡」という予想外に破壊力の大きなセリフで返された。
その後は、チョコとメレンゲを混ぜる作業を少し手伝い、マフィンカップの型に流し込んだチョコをオーブンに入れたら、俺の仕事はおしまい。
20分くらいで焼き上がるから、TVでも見ようってことになり、妹とソファに並んで座り、どうでもいいバラエティ番組を見た。
チーン、とオーブンが焼き上がりを告げ、俺は妹に入れてもらったコーヒーと一緒に、小さなカップケーキ(ガトーショコラ)を試食した。
「うまい!」
「えっ、ホント。もしそうなら、兄貴のおかげだよ」
嬉しそうな妹は、もう1個、もう1個と、6個しかないカップケーキはすべて俺の胃に収まった。
「あれ、全部食べちゃった。本命のはこれからまた焼くのか?」
と聞くと、妹はややうつむきがちに小声で
「いいの、もう本命に食べてもらったから……」
2階の自室に戻り、食べすぎて重たいお腹を抱えて、ベッドに横になる。
なんなんだろう、妹のヤツ。もしかして、俺のことを好きになった? まさか! ラノベじゃあるまいし。兄妹の恋愛なんてありえないだろ! ……。いや、でもダイバーシティの時代だし。LGBTに兄妹恋愛って含まれてたっけ?
ニヤニヤが止まらない。今夜は母親は遅くなるそうだ(父親は海外出張中)。よし、妹の気持ちを確認しておくか。
いくらなんでも、今夜中に☓☓なんてことはないだろうが、万が一に備えて、大学合格した時に買っておいたコンドーさんを持って、と。
妹の部屋のドアの前に立って、ノックをしようとしたその時、妹の声が聞こえてきた。どうやら友達と電話中らしい。
「いや、やったよ。兄貴にイロコイ。アレはバッチリ、オチたね。そうそう、小金溜め込んでるみたいだから、台湾遠征のチケット代、引き出せそうだよ」
兄相手にイロコイって。お前まさか、水商売とかやってないだろうな。そう思いながら静かに自室へ戻ったら12時過ぎていた。14日が終わった。
やっぱりバレンタインなんて大嫌いだ。