痛い
手が、温かい。
かすかに意識が戻ってきた。けど、体はまるで動かない。まぶたを持ち上げることすらできない。
何かが、誰かの手が、俺の右手を握ってくれている。体中がまだ痛むのに、その温かさに安心してしまう。
呼吸を繰り返すたびに意識がはっきりしてきて、ようやく、まぶたをかすかに開けることができた。
「黒沢さん?」
がんばって目を開けると、薄暗がりの中に火口の顔が見えた。長い髪をシーツに垂らして、こちらをのぞきこんでいる。
「火口」
「はい」
そう返事をして、火口は涙をこらえながら、あの後、俺がどうなったのかを説明してくれた。
針矢に刺され、俺が気を失った後すぐ火口組の人たちが来て、事態は収束したという。一番重傷だった俺は救急車で病院に運び込まれ、なんとか一命をとりとめたらしい。ただ、意識がいつ戻るのかはわからないと言われ、火口は心配でここに残ったのだという。
「処置をしてくださったお医者様は、退院まで四、五日はかかるだろうとおっしゃっていました」
見た感じ、この病室は個室みたいだ。他に患者はいない。ベッドの寝心地もすこぶるいい。快適な入院生活を送れそうだ。
「体の具合はどうですか? ひどく痛むようでしたら、お医者様を呼んできて鎮痛剤を打ってもらうこともできますよ」
「いや、大丈夫だ」
痛いが、我慢できないほどじゃないし、今は火口と二人きりでいたかった。
そこで俺ははたと気づく。火口の首に細く包帯が巻いてある。
「火口は首、痛くないか?」
「首は、痛くないです」
「首はって、もしかして他、どこか痛むのか?」
「はい」
火口が自身の胸元を片手で押さえる。
「黒沢さんが傷ついていくのを見るの、すごく、痛かったです。今だって、すごく痛いです。痛い」
そう言って俺の胸元に顔をうずめると、火口は声を押さえて泣き始めた。
「ごめん。でも、無事でよかった」
俺は空いてる左手をなんとか動かして、彼女の頭をなでてやる。しばらくそうしていると、窓の外の空が白んできて、朝日が差し込んできた。光が、俺と火口の握り合った手と手を、祝福するかのように照らしてくれた。




