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ヤクザの娘行きつけの〇〇  作者: 仙葉康大
最終章
47/50

廃工場へ

 バイトばっくれて、人質にとられたヤクザの娘を助けに行くなんて自分でもどうかしてると思う。


 お互い軽く自己紹介をすませ、現場にいた岩砕さんから事件の経緯を聞く。彼女は他の乗客のことなど気にしていない様子で、派手なジェスチャーと感情豊かな表情とともに早口でしゃべる。


「――で、その後琴刃のおじいちゃんとか火口組の人たちが来て現場検証とかし始めて、でも、助けに行こうっていう話にすぐにはならなくて、美白先輩マジ切れしてて超怖かった」

「次はー、中央病院前、中央病院前」


 アナウンスがバス車内に響く。

 病院前、か。あの人の親、たしか医者だったな。なんだかとても嫌な予感がする。


 バスが停まった。降りる人は降り、乗る人は乗ってくる。が、乗ってきたのは一人だけで、背に小さなリュックを背負ってるその人は、案の定、あの人で。


「先輩っ」と岩砕さんが叫んだ。


 神崎先輩はこっちを向いてうなずくと、早歩きで来て、俺、直人、岩砕さんを見て言った。


「絶対助けだすわよ、琴刃さんを」

「おーっ」


 岩砕さんと直人がいきおいよく拳を突き上げる。俺はうなだれた。なんでこの人、こんなに目が据わってんだよ。


 それから作戦会議が始まったけど、情報不足で今のところ作戦もくそもない。


 ここまで気持ちだけで来たけれど、女子高生二人と小学生男子と俺で何ができるっていうんだ。敵はヤクザだぞ。それも女子高生を人質に取るような。


「次はー、木ノ國村、木ノ國村」


 車内アナウンスが耳に入った。覚悟を決める。どうせ俺たちは止まれない。

 バスを降りて、火口をさらった奴が言っていた住所を目指す。


 木ノ國村は市内の中ではかなり田舎の方で、周りを山や森に囲まれた盆地である。農業や林業がさかん。といってもドがつくほどの田舎ではないから、コンビニも建っているし、マンションやレンタルビデオ店もある。


 歩きながら、俺はスマホで時刻を確認する。もう十六時を過ぎている。冬は日が落ちるのが早いから、あと一時間もすれば日没だ。夜は俺たちに有利に働くかもしれないが、遅くなればなれるほど、直人や先輩や岩砕さんの親は心配するだろう。無謀の二文字が頭から離れない。


 スマホの地図アプリを確かめながら進む。歩いていくうちに舗装された道が砂利道に変わった。さらに進んでいって、あたりに木々や茂みが増えてきて、砂利道が獣道に変わりかけたところで、前方に廃工場が見えた。体育館より一回り小さいぐらいの大きさで、窓ガラスはすべて割れている。


 俺は生唾を飲み込む。

 あそこに火口がいる。ヤクザもいる。

 ここからはささいなミスが命取りになる。俺はプランを語り始める。


「まずは工場の周りを一周して情報を集めるぞ。敵の数、配置、火口が工場の中のどの辺にいるか。それらが分からないことには突入の仕様がないからな」

「それ、ぼくにやらせてください」


 直人が手を挙げた。


「美白お姉さんと雷華お姉さんは敵に顔が割れてますから、情報がそろうまでは不用意に工場に近づかない方がいいと思います。一方ぼくは敵に見つかっても、ここらへんを探検してたとか言い訳が立ちますし、ヤクザだっていきなり小学生を殴るようなことはしないでしょう」


 確かにそうだが。


「一人では行かせられない。俺も行く」

「ダメです。お兄さんはここに残って、もしものときはお姉さんたちを守ってください」

「けどお前」

「ぼくは大丈夫です。行ってきます」


 そう言って直人は行ってしまった。俺は気が気じゃなかった。これでもし直人に何かあったら、俺の責任だ。しかし、直人は俺の心配を跳ね返すようにちゃんと無傷で帰ってきた。


「工場の正面の入り口に見張りが二人立っています。裏口の方にも一人いました」


 直人は地面に木の棒で図を描きながら説明する。


「工場の側面には外階段がついていますが、見た感じ相当ぼろいです。朽ちかけているかも。上れるかは微妙です。あと、工場の裏には森が広がっています」


 なるほど。周囲が暗くなってきた今、その森は使えそうだ。


「ごめんなさい。報告は以上です。中の様子まではわかりませんでした」

「いや充分だ」

「てか直人マジ有能だし」と岩砕さんが直人の頭をなでる。一方、神崎先輩は直人が地面に描いた図を見つめている。

「方針としてはまず見張りを制圧するべきね」

「はい。裏口から攻めましょう」


 俺たちは廃工場の後ろに広がる森に回り込んだ。木々の陰に身を隠し、そこから敵を視認する。中肉中背の男だ。煙草をふかしている。裏口は扉が閉ざされている。鍵がかかっているかどうかはわからない。


 さて、ここからだ。

 あの男を倒すだけなら話は簡単だが、それを中にいる奴らに気づかれてはならない。

 どうしようかと考えていると、肩をつつかれた。先輩が顔を近づけてきて小声でささやく。


「あの見張りの男を何とかしてここに呼べないかしら」

「手はあります。けど」


 俺は直人の方を見た。


「お兄さん。ぼくに遠慮は無用です。この四人の中で誰が一番敵に警戒されにくいかを考えたら、それはぼくになります。ぼくが動きます。作戦を教えてください」


 直人は俺の逡巡を断ち切るような光を目に宿していた。

 俺は直人に耳打ちする。


「森の中で人が死んでます、そう言ってあの男をここまで誘い込んでくれ」


 直人は浅くうなずくと、すっくと立ちあがり、慌てた風を装って駆け出した。森から出て、さらにスピードを上げ、裏口を守っている男のもとへ。飛び跳ね、こっちを指さしながら見張りをこちらへ連れてこようと手を引っ張る。が、そこで見張りの男は立ち止り、直人の手を振りはらった。まずい。


 見張りが携帯を取り出す。何か話している。ほどなくして工場の中から男が二人出てきた。一人は金髪で腕にブレスレットを巻いている。もう一人は黒髪でサングラスをかけている。見張りはそこに残り、代わりに金髪とグラサンの二人が直人とともにこっちへ来る。


「ちょ、マジやばいじゃん。どうすんの?」


 岩砕さんが目を真ん丸にして俺の片腕にすがる。くそ。こうなったら二人同時に相手取るしかない。


「先輩と岩砕さんは逃げてください」

「嫌よ」

「は? 何言って」

「私だって戦えるわ」


 そう言って先輩はリュックから何やら小瓶をいくつか取り出している。俺は唖然とした。この人、本当に自分がヤクザの男二人にかなうと思っているのか?


 そうこうしている内に直人と男二人が迫る。もうしゃべったら気づかれるぐらい近くにいる。もう逃げれない。やるしかない。


「おいガキ、死体ってのはどこにあるんだよ?」

「嘘だったらただじゃおかねーからな」

「こっちです」


 手筈通り直人が男二人を森の中まで連れてきたその瞬間、俺は動いた。男たちの側面から殴りかかる。まずは一発、金髪の左頬をえぐるように殴る。金髪はよろめき、ひざをついた。俺はそこに蹴りを叩きこむ。こいつはもういい。次だ。しかしもう一人、グラサンの方は俺の方など見ていなかった。直人に向って手を伸ばしている。間に入り、その手をはじき返そうとする神崎先輩。が、逆に手を取られた。俺とグラサンとの距離は数メートル。間に合わない。その瞬間、グラサンの背後に岩砕さんが現れ、それはもう見事な回り蹴りをくらわせた。一発KOだ。


「しゃっ」


 ガッツポーズする岩砕さん。俺はもうわけがわからなすぎて両腕をだらしなく垂らし、首を傾げて言う。


「いや、そんなに強いとか、聞いてないんだが」

「いやー、これでも全盛期よりかなり衰えたかんね。マジ卍だけど」


 卍の意味はよくわからないが、とりあえず助かった。


「黒沢君、こっちの金髪に尋問するから、反撃してこないよう体押さえてて」


 気を失っている金髪の上に俺が馬乗りになると、先輩は金髪の頬を何度も叩き、


「起きなさい」


 と冷徹な目をして言った。


「うう」


 金髪がかすかに目を開ける。


「今からあなたに質問します。嘘偽りなく答えること。いいわね」

「お前ら何なんだ?」


 言った瞬間、先輩が金髪の頭を強く踏んづけた。


「質問してるのはこっちよ。工場内にいるヤクザの人数と配置、答えなさい」

「嫌だね」


 言った瞬間、今度は顔面を蹴りつけた。が、金髪は鼻血を流しながらも笑う。


「この程度で口を割るとでも?」

「あらそう。ならこれを使いましょう」


 先輩はにっこり笑って小瓶の蓋を開けた。


「なんだよ、それは」金髪が怪訝そうに尋ねる。

「濃塩酸よ」


 俺は度肝を抜いた。


「そんなもの、どこで?」

「私の父、医者なの。自宅の地下に実験室を作るぐらい研究熱心なのよ」


 そこからくすねてきたというわけだ。


「そんな液体がなんだっていうんだ」


 金髪が吠える。


「学のないあなたに教えてあげるわ。この液体はとても危険なの。目に塗ると最悪失明、飲み込むと命まで落とす危険性。あら、手が滑ったわ」


 そう言って先輩は小瓶を傾け、金髪の手の甲に濃塩酸を垂らした。絶叫が森をつんざく。


「さあ、工場内のヤクザの数と配置、答えなさい。今度は目にこれを塗り込むわよ」

 金髪は完全に心が折れたようで、泣きながら情報を吐き始めた。

 工場内にヤクザは三十名。内ナイフなどの刃物を持っているのが十五名。


「銃は?」


 俺が尋ねると。金髪は歯噛みした。


「もってねえよ。俺たちは組長に信用なんかされちゃいねえから」


 こいつらのボスは油川組若頭の一人で、名を油川針矢しんやというらしい。油川という名字だが、養子縁組らしく、今の組長とは血がつながっていないらしい。針矢の相棒の弾司だんしは、唇に開けたピアスがトレードマークの大男で、組で一番の強さを誇るという。


「敵が誰一人として銃を持ってないというのは、希望が持てるな」


 俺が安堵したそのとき、


「嘘だろ、火口組の奴らじゃねえじゃねえか」


 声がして、周囲を見回すと、木々の間から男どもが出てくる、出てくる。ざっと十人はいる。囲まれた。


「針矢さん。敵は高校生ぐらいの男一人と女二人、それから小学生ぐらいのガキが一匹。どうします?」


 ちょびひげを生やした男が電話でボスに指示を仰いでいる。


「わかりました」


 電話を切った。


「お前ら全員ついてこい。抵抗したら、火口琴刃の腕を切りつける」


 俺たちに選択肢はなかった。

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