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ヤクザの娘行きつけの〇〇  作者: 仙葉康大
最終章
46/50

私行くね

「ただいま」


 玄関の内側に入るなりそう言って、私はブーツを脱いだ。パパが心配そうに私の顔をのぞきこむ。


「大丈夫か?」

「私は大丈夫。でも、琴刃が」

「そうだな。だが、俺たちにできるのは無事を祈ることだけだ」


 だよね。ヤクザになんか敵うわけない。マジあいつら、やばい。パンチで壁に穴開けるとかマジ卍だし、組長呼び出すためその孫をさらうとかやばすぎる。


 きっと琴刃のおじいちゃんが何とかしてくれる。パパ、話してたし。火口組はここらじゃ一番強いって。きっとすぐ琴刃を助け出す。てかすでに助け出してる可能性すらあるし。


「ハハ」


 なんて都合のいい想像なんだろう。

 自分で自分が嫌になる。


 私は知ってる。運命には逆らえないことを。お母さんが交通事故で亡くなったときもそうだった。運命は、私のありふれた日常を唐突にめちゃくちゃにする。なすすべなんてない。ただ、結果を、叩きつけられるんだ。


 この世にはどうにもならないこともある。

 そうだよね、お母さん。


 私は仏壇の前に座り、お線香をあげた。遺影の中のお母さんは笑ってる。どうしてか、その笑顔に琴刃の笑顔が重なってくる。


 初めて会った日、サイゼリア行ってドリンクバーのジュース混ぜまくった。


 期末テストの国語の点数マジやばで私がパパにマジ殺されそうになったとき、うまいこと言って助けてくれた。


 私の作ったそうめん、完食してくれた。

 声枯れるまでブルハーツ歌った。

 目じりから涙があふれて止まらない。

 パパが慌てて飛んでくる。


「どうした? 雷華。大丈夫か?」

「うん。家に着いて、お母さんの顔見たら、なんか安心して涙でた」


 嘘だった。でも、嘘もつかなくちゃいけない。きっとパパは反対するから。


「ねえ、パパ。変な話なんだけど、私、今日めちゃくちゃカレー食べたいんだけど」

「そうか。よし。今日はパパが作るぞ」

「いやいいし。それより玉ねぎとにんじん切らしてたと思うから、ちょっちスーパーまで買いに行ってくんない?」

「わかった。すぐ戻るから待ってろ」


 パパはどたどたと足音を立てて出て行った。一、二分待ってから、私は静かに立ち上がる。


「行ってきます、お母さん」


 居間を出て、前だけを見て廊下を進む。玄関でナイキのスニーカーをはく。靴紐をきつく結び、戸を開け、勢いよく駆け出す。防寒具も何も身に着けず手ぶらでダッシュ。一刻も早く琴刃のもとへ行く。すぐ行く。今行く。


 だから、待ってて。


 大きな通りに出ると、バスが後方から私に迫り、またたくまに私を抜き去った。何十メートルか先にバス停発見。あのバス停に停まるバスかも。てか、木ノ國村に行くバスかも。


「ちょ、待って」


 マジ息切れ。中学の頃よりだいぶ体力落ちてる。遊んでばっかだったし、しゃーないけど、今この瞬間だけでも火事場のくそ力でもなんでもいいから出せ、私。


 バスから人が降りてる。


 私は「待って」と叫ぶ。拳を懸命に振る。お母さんのことを思い出す。


 あの日、私はいつものように授業を受けてたら、突然、学年主任の先生が教室に入ってきて担任の先生を呼んで、そのあとすぐ私が呼ばれた。お母さんが交通事故にあったことを知らされて、病院に行ったら、もうお母さんは死んでて、私にできることと言えば、ただ泣くことだけだった。


 でも、今回は違う。

 琴刃はまだ生きてる。

 だからごめん、パパ。私行くね。


 アホみたいにゼーゼー言いながらバスの入り口のステップに足をかける。入ってすぐ運転手さんのところまで行って、息も絶え絶えに尋ねる。


「この、バス、木ノ國、村、行きますか?」

「はい。行きますが何か?」

「しゃっ」


 私はガッツポーズして、それから、空いてる席を探そうと車内を見回した。すると後方、一番後ろの席に、なんか見覚えのある顔。思い出せそうで思い出せない。どこで見たんだっけ、あの顔。


 私はその人の目の前までいって目を細めてその人の顔をマジ間近で見つめてみた。


「あの、何か?」


 その人は心底嫌そうにそう言った。


「いやマジごめんだし。てか、私たち、どっかで会ったことあるっぽい?」

「はい。そうですね。何回か会ってますね」


 その人の隣に座っていたガキが不思議そうに目をくりくりさせて尋ねる。


「お兄さん、この女の人は誰ですか?」

「この人はあれだ。時々ウチに来る客だ。火口と一緒にな」

「あっ」


 琴刃に何度か連れて行ってもらったお店。喫茶『花炭』。この人、そこの店員だ。


「ちょ、それならそうと早く言えし。てか隣座るし。マジ失礼しゃす」


 私は店員さんの隣に座り、自分のひざをバカみたいに叩きながらしゃべりかける。


「え? てかもしかして店員さんも琴刃助けに?」

「もってことは、君も?」

「うわ。私らマジ同志じゃん。ウェーイ」


 私は笑顔で拳を突き出す。でも、店員さんは拳を握るそぶりすら見せない。はすってんなー。


「てかさてかさ、マジ疑問なんだけど、琴刃助けに行くのになんでガキ連れてるわけ?」

「ぼくはガキじゃない。遠山直人だ」

「マジガキとか言ってごめん。でもさ、直人はさ、これからどこに何しに行くかちゃんとわかってんの?」

「そんなことちゃんとわかってます」

「え? マ? てか、直人も琴刃の友達なわけ?」

「同じ塾に通っています。琴刃お姉さんはいつもぼくの隣の席に座ります。ぼくは琴刃お姉さんのことが大好きで、だから助けに行くんです」


 突然の告白。マジびっくりなんですけど。


「ぼくだけじゃない。お兄さんも琴刃お姉さんのことが――」

「直人、余計なことは言わなくていい」

「はい、お兄さん」


 私はマジで笑わずにはいられなかった。

 なんだ、やっぱり琴刃、モテてるじゃん。


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