今度おでんでも
「何がいいかのう」
デパートの七階、宝石店売り場にて、右往左往し、何を買うか延々と迷っているこの老人こそ俺の恩師である。ヤクザ火口組の組長でもある先生は、孫娘の琴刃お嬢さんを溺愛しており、今日は彼女へのクリスマスプレゼントを買いに高級百貨店まで足を運んだのだ。その付き添い兼相談役として俺は呼ばれた。
「先生、高校生に宝石は高価すぎませんか?」
「そんなことお前に言われんでもわかっとるわい。でも琴刃ちゃんはいつも本当にがんばっておるからのう。宝石の一つや二つ買ってやりたくもなる。お前も人の親ならこの気持ち、わかるじゃろう?」
まるでわからない。宝石なんて買っても持て余すだけだろうし、何より、琴刃お嬢さんはそんなものつゆほども欲しいとは思っていない気がする。
「そういうお前は雷華ちゃんに何を買うか、もう決めたのか?」
「まだです」
「ならちょうどよい。お前も今日何か買うて帰れ」
しかし、女子高生が好みそうなものなど俺には見当もつかん。
さて、どうしたものかな、と首をひねっていると、きらびやかな宝飾品を前にしてベタベタと身を寄せ合いイチャついている若い男女の姿が目に入った。
「まったく。近頃の若者はアホばかり。節度を持て、節度を」
先生がぼやいている。が、本気で怒っているわけではなさそうなので安心する。
「のう、剛志よ」
「何ですか? 先生」
「娘に恋人ができたらどうする?」
想像したくはないが、いつかその日は来てしまう。娘がどこの馬の骨ともわからない奴と腕を組んで歩いているところを想像しただけで眩暈がしそうだ。
「とりあえず寝込みますかね」
「なんじゃその対応は。もっと強気でいかんか。クリスマスが近いこの時期は厳重な警戒が必要じゃからな。お前さんも雷華ちゃんがちゃらい男にたぶらかされないよう注意しとくんじゃぞ」
「ウチの雷華は大丈夫ですよ」
「わしもそう思っとった時期があったわ、ボケ。なのにあんな冷徹な、人間の血の通っていないような男を好きになって、あげく、結婚までしてしまいおった」
これは琴刃お嬢さんのことではなく、先生の愛娘鞘香さんのことだな。
「もっと断固として反対するべきじゃったんじゃ、わしは。でも、娘は、鞘香は、駆け落ちまで視野に入れとった」
「なら仕方ないじゃないですか」
「仕方なくなんかないわい。あの男とさえ結婚しなければ、鞘香は死なずにすんだんじゃ」
「確かにそうですが」その後の言葉を俺は飲み込む。もし鞘香さんが結婚を諦めていれば、琴刃お嬢さんが生まれてくることもなかったのだと、そんなことを言って何になる。先生はそんなこと百も承知で、それでも、鞘香さんの死を受け入れられずにいるのだ。今もなお。
「先生、今日じゃなくていいので、今度でいいので、一回おでんでも食いにいきましょう」
「何じゃ急に。でもいいのう。冬はおでんに限るからのう」
それから俺と先生は数時間かけて百貨店内をくまなく歩きまわり、ついにこれぞというクリスマスプレゼントを見つけ購入した。そのまま上機嫌で外へ出て、木枯らしを感じながら、この冬が終わってしまうまでにおでんを食べに行くという約束をして別れた。




