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ヤクザの娘行きつけの〇〇  作者: 仙葉康大
第五章 ヤクザの娘行きつけの道場の娘
36/50

聞こえてほしい、あなたにも

 今年のお盆はいつもと何もかもが違っていた。まず親戚がウチにわんさかやってきた。昼も夜もバカみたいに宴会。パパは酒豪だから酒に飲まれることなんてないけど、親戚のおじさんの中には酔いつぶれてる人もいた。


 私はと言うと、親戚のガキとか同年代の子たち集めてタコパ開いた。タコ焼き焼きまくってたら、いとこに「髪染めたんだね」って言われた。「すごく感じ変わったね。話しやすくなった」とも言われた。私は「キャラ変えたからね」とだけ答えておいた。


 お盆だから当然、お母さんのこともたびたび話題にのぼった。


「惜しい人を亡くしたよ、本当に」

「そうだそうだ。天音さんほど気立てのいいお嫁さんはおらんかった」

「剛志さんも雷華ちゃんも大変じゃろう」


 そんなことを言われても、ぶっちゃけ、どう反応すればいいのか困る。


 お盆の間、親戚の人たちがお母さんの死を語るたびに、私は、お母さんは死んだのだという現実に直面しなくちゃいけなくて、なんか、すごく疲れた。


 きっとパパもそう。だから私たちは、お盆も明けて親戚が全員帰ってめっちゃ静かになった家の居間で、特に好きでもない高校野球の試合を朝から一緒に見た。私もパパもそのときばかりは、マジで一人になりたくなかったのだと思う。


 昼、冷麵を食べ終わると、パパが言った。


「すまん。雷華、そろそろ道場に門下生が来るんだ」

「知ってるし。いってらっしゃい」


 私はちゃんと笑顔でパパを道場に送り出した。


 居間に一人残された私は、仏壇の前に座り、お母さんの遺影に向かって話をしようと口を開いた。でも、言葉なんて全然出て来なかった。国語の成績の悪い私は、思いを言葉にしようと思っても全然うまくいかない。 


 スマホに手を伸ばす。琴刃にLINEを送る。


 ――急にごめん。カラオケ行きたい気分なんだけど。


 返信はすぐに帰ってきた。


 ――奇遇ですね。私もそう思っていたところです。


==========================================================================


 駅近の雑居ビル。その二階に入っているカラオケ店に来たはいいものの、私はデンモクの液晶を見つめたまま、歌う曲を決めあぐねていた。マジおかしい話だ。カラオケ行きたいって言ったの私なのに、歌いたい曲がないなんて。


「ごめん。私何歌うかめっちゃ迷ってるから、琴刃先に歌ってよ」

「わかりました」


 琴刃が曲を入れる。バラードのしっとりとした前奏が個室に流れ始める。マイクを手に歌う琴刃。そのまっすぐ伸びる凛とした声を聴いてたら、マジで意味わかんないけど泣けてきて、琴刃はあわてて歌うのをストップした。


「ど、どうしたんですか?」

「いや、なんか感動して。琴刃マジ歌うまいから」

「そうですか?」


 琴刃は首を傾げて、疑るような視線を私へと注ぐ。


「今日の雷華、なにか変ですよ」

「そう?」

「はい。いつもより元気ないです」

「いやいや、んなことないっしょ」


 私がそう言っても、琴刃はすべてを見透かしているようで、マイクを置いて隣に座り、


「雷華は嘘をつくのが下手ですね」


 と私の手を握る。


「お盆に何かありました?」


 めっちゃギクッとする私。


「私でよかったら話聞きますよ」

「いやー、そんな大した話じゃないんだけどさ、ほら、今年ウチ、お母さんの初盆で、なんか、すごく疲れたっていうか、うん、まあ、そんな感じ」


 やっぱりうまく伝えられない。

 次の言葉が継げなくて黙っていると、琴刃がぽつりと言った。


「私も、お盆は苦手です」

「え? なんで?」

「母があの世から帰ってくるから」


 私はマジ高速で瞬きする。


「え? え? 琴刃のお母さんって」

「はい。亡くなっています。十五年も前、私を出産したときに」


 私の理解が追いつくのを待たずに、琴刃は淡々と語る。


「日本の妊産婦死亡率はとても低いです。でもゼロではありません。私の母のように出産にかかる体の負担に耐え切れず、命を落としてしまう人もいます」


 そう、なんだ。


「私は母を写真でしか知らないんです。だからお盆は、帰ってきた母にどんな話をすればいいのか、毎年悩みます」

「き、きっと」私は決死の思いで口を開く。「きっと、どんな話をしても琴刃のお母さんは喜んでくれるよ。そうに決まってるじゃん。だって、琴刃のお母さんは、琴刃の、お母さんなんだから」


 私は涙交じりにそう言った。


「どうして雷華さんが泣くんですか?」

「だって、だって、だって」


 私は琴刃の太ももに顔をこすりつけて泣いた。自分がどれだけ幸福だったかを今知った。私はお母さんの声を知っている。お母さんと沖縄に旅行に行ったこともある。本気の喧嘩をしたこともある。お母さんと過ごした十五年間分の思い出が、私にはある。琴刃にはない。


「現実には、どうにもならない理不尽なことが多すぎます。だから、歌いませんか?」

「うん。歌う」


 何を歌うか、もう迷わない。私は涙をぬぐい、曲を入れた。

私の一番好きなロックバンド「THE BLUE HEARTS」の曲、「人にやさしく」。


 一本のマイクで琴刃と一緒に歌う。というか、叫ぶ。


 聞こえてほしい、あなたにも。


 そう願いながら、私は、この世に一人しかいない親友と、ブルハの曲を歌いまくる。お母さんのいる天国に向かって。


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