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ヤクザの娘行きつけの〇〇  作者: 仙葉康大
第五章 ヤクザの娘行きつけの道場の娘
35/50

勉強後カラオケ

 夏休みだからといって琴刃に毎日会えるわけではない。私は四六時中でも一緒にいたいぐらいだけど、それはきっと琴刃が嫌がるだろうなって思う。琴刃は必要以上に人に対して距離をとる。友達の私に対してさえ、まだ完全には心を開いていない感じ。


 結局、会うペースは今までと変わらず週一。土曜の稽古が終わった後、ウチでお昼ご飯を一緒に食べ、午後からは二人して部屋にこもって勉強。そういう予定を立てた。


 パパと琴刃がそばにいない午前中、私は部屋のベッドに横になってスマホでだらだらと少女漫画を読んでいた。小説とかは読まない。だって活字とかマジだるいし。漢字とかむずいし。


 気づいたら、もうすぐお昼。私は台所に行って昼食を用意する。今日はそうめんだ。鍋に入れてゆでるだけ。超簡単。トッピングも色々作る。ネギ、錦糸卵、きゅうりを細く切ったの、カニカマを裂いたの。


 茹で上がったそうめんをざるに入れて流水で冷やしていると、パパと琴刃が稽古を終えて戻ってきた。


「素麺か」

「そだよー」

「いつも料理させてすまんな」


 いつもじゃないし。週の食事の半分はパパが作っている。


「雷華、今更ですが何か手伝えること残ってますか?」

「ありがと。じゃあこれ食卓に持ってってー」


 薬味やトッピングを入れた小鉢を手渡す。箸やめんつゆも出して、食卓の真ん中にそうめんを盛った大皿をセット。あとは食べるだけ。


「いただきます」


 パパは豪快に、琴刃は繊細に、そうめんをすする。なんか久しぶり。ウチで三人以上でご飯食べるの。


 今日の稽古は密室で集団に囲まれた場合の対処法についてだったらしい。


「てか、そんな状況ある? 集団に囲まれるって普通外じゃね?」

「あらゆる場合を想定してこその護身術だ」

「つーか琴刃のことなら私が守るし」

「雷華はたしか柔道でも空手でも合気道でも黒帯なんですよね?」

「まーね。それに剣道も有段だしね」

「あまり調子に乗るなよ。お前が最後に竹刀を握ってからどれだけの月日が流れたと思っているんだ、まったく」


 パパの言うことは当たってる。私はきっともう以前のように強くはない。でもそれでいいんだ。中学のときみたいに荒れに荒れてムカついた奴を殴り倒す日々は、今思うとくそつまらなかった。今の方が断然楽しい。


 そうめんをきれいに完食し、食器洗いはパパに任せ、私と琴刃は勉強会を始めることにした。場所は私の部屋。ちなみに広さは四畳半。


「とりま宿題終わらせたい」

「わかりました。では、わからないところがあれば、遠慮なく聞いてください」

「ありがと。マジ頼りにしてるから」


 古文の問題集を開け、源氏物語っていう、超昔の人が書いた超格式高い文章を読んでいく。


 ダメだ。なんか桐壺更衣がどうのこうの書いてるっぽいけど、全然わかんない。何これ。マジ卍。琴刃に助けを求める。


「古文の読解が難しいのであれば、音読してみることをおすすめします」

「そんなの効果あるの?」

「声に出してみると、なんとなく意味がわかったりするものですよ」


 私は言われた通りにまずは古文だけを音読し、その後、現代語訳を音読し、最後にもう一度古文を音読してみた。


「あー、なるほどねー、なんとなくだけどわかったわ」

古文単語を一つずつ覚えていくよりも、こんな風におおざっぱに内容をつかんでいくやり方の方が私には合ってる気がする。


 話の内容を大体つかんだところで、琴刃が、試験に頻出の古文単語や文法構文などを一つずつ丁寧に教えてくれた。


 音読する、問題解く、わからないところを教えてもらう。そのサイクルを回しまくる。


「琴刃、そろそろ休憩するべ」

「まだ三十分も経ってないですよ」

「ほら、熱中症対策でさ、のどが渇く前に水分補給ってよく言うじゃん。それと同じで疲れる前に休まないと人間ダメになっから休むの」


 私の言い分に納得したのか、琴刃はシャープペンシルを置いて立ち上がった。本棚の前まで行って、


「雷華は漫画が好きなんですか?」


 と聞いてきた。


「まあね。つーか、小説とか絵のないやつはむずかしくて読めないし」

「漫画が読めるなら、小説だって読めると思いますよ」

「マ? おすすめとかある?」

「そうですね、星新一とかどうですか?」

「あー、なんか聞いたことあるかも」

「一つ一つの話がとても短いので読みやすいですよ。今度ウチから持ってきましょうか?」

「え? いいの? 読む読む。貸して貸して」


 そんなふうに適度におしゃべりしつつ、私たちは日が暮れるまで勉強した。


「マジ疲れたし、カラオケ行こ」

「今からですか?」

「もち。でもウチ夜遊び禁止だからパパも誘うわ? いい?」

「それはいいですが、私も家の方に確認取ってみますね」


 そっか。そう言えば、琴刃ってヤクザの娘だったわ。夜の方が狙われやすいとか、そういうのあるのかな。


 家に電話をかけ終えた琴刃が私の方を見る。


「岩砕先生が同行してくださるなら、問題ないそうです」

「おけまる」


 そんなこんなでカラオケへ。


 パパはいつも歌う十八番の演歌を歌い、私と琴刃は二人で最近流行の歌をテキトーに歌った。音程とか外しまくりで、メロディラインを見失うことさえあったけど、楽しかった。


 この時間が永遠に続けばいいのにと思った。


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