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ヤクザの娘行きつけの〇〇  作者: 仙葉康大
第五章 ヤクザの娘行きつけの道場の娘
34/50

雷が落ちた

 いろんな友達といろんな場所にでかける。でも、琴刃とのお出かけはなぜか特別な感じ。他の友達の前では私はけっこうキャラを作ってるけど、琴刃の前では、ふと、脱力してしまうときがある。自分のキャラを忘れて、気持ちをそのまま何の加工もせずに吐き出してしまいそうになるときがある。


 なんでなのかなー。


 なんか琴刃になら、色々、本音の部分まで話してもいいよーな気がする。琴刃はわかってくれるんじゃないかってそんなことを夢想しては、かぶりを振る。私のこの気持ち、話しても、重たいだけに決まってるし、共有できるわけがない。


 インスタグラム開くと、琴刃との写真がわんさか出てくる。


 生クリーム盛り盛りのパンケーキを切り分ける琴刃、ほおばる私。スタバで頼んだストロベリーベリーマッチフラペチーノのレッドとホワイト。これ、果実味がすごくてマジでおいしかった。水族館にも行った。超幻想的な海月撮りまくった。でも、暗い照明のもと、水槽を前に何か考え込んでいる琴刃が何よりも一番幻想的だった。


「一学期楽しかったよ、お母さん」


 そう言って私は仏壇のお鈴をリーンと鳴らした。


「一学期楽しかったか。それはとてもいいことだ、雷華」


 首を後ろへめぐらすと、パパが腕を組んで仁王立ちしていた。その全身からはすさまじいほどの闘気が漏れ出している。


「ところで、期末試験の結果はどうだったんだ?」

「ど、どうって?」


 私は目を泳がせる。


「成績表はもうもらったんだろ? パパに見せなさい」

「あー、それって今日じゃないとダメマル水産?」

「今、すぐ、だっ」


 パパの目が、口が、金剛力士像のような形相を帯びてきて、私はマジ心の底からビビる。これ、ガチのやつじゃん。


「さあ、早く、成績表をとってくるんだ」

「りょ」


 私は慌てて居間から駆け出した。走って階段を上がり自室に入り、脱力する。


「ふー。マジビビったし」


 とりま、時間を稼がないと。どうすっかなー。友達と遊びに行く予定が入ったっていってももう夜だしなー。パパ、マジで夜遊びだけは許してくんないからね。


 そうだ、琴刃に電話していい案だしてもらお。

 LINEの無料通話で電話をかける。

 まだ出ない。


「はい、火口琴刃です」

「あ、琴刃? マジ今電話大丈夫?」

「こんばんは、雷華さん。はい。もうお風呂にも入りましたし、電話大丈夫ですよ」

「いやさ、聞いてほしいんだけど、私今マジでピンチでさー、なんかパパマジ切れしてて」

「岩砕先生が? 何かあったんですか?」

「いや、なんかよくわかんないんだけど、期末試験の成績見せろって言ってきて、ほら私、そんなえばれる点数とってないから、マジ見せづらいっつーか、これ見せたら雷落ちるっつーか」

「でも、見せるしかないのでは?」

「やっぱり?」


 みしり。

 階段のきしむ音がして、私の背筋に鬼やべえ悪寒が走る。

 みしり。


「ちょ、やばいやばい、来てる来てる来てる」

「ら、雷華さん?」

「私まだ死にたくねーし」

「こ、殺されるほどの点数を取ったんですか?」


 みしりみしりみしりみしり、バッ。戸が引かれ、人間のものとは思えない巨体が姿を現した。その目がじろりと私のスマホをひと睨み。


「誰かと電話してたのか?」

「う、うん、琴刃と」

「そうか。今日な、ウチにも電話があってな。パパ、出たんだ」

「へ、へえ。だ、誰からだったの?」


 私、すでに涙目なんですけど。


「お前の担任からだ」

「な、なんて?」

「言わずとも見当はついているんじゃないのか?」


 パパは私の顔よりも大きな手のひらを見せて言う。


「さあ、成績表を見せなさい」


 私はすべてを諦め、鞄の底の方にしまっていた、くしゃくしゃの成績表を広げて見せた。パパの目玉がぎょろりと動き、各科目の点数を一瞬で把握する。


 結果、雷が落ちた。


 こっちの意識が飛ぶぐらいのマジ説教。パパは道場の師範だから腕力とかやばいぐらいあるんだけど、単純な暴力なんかよりも、言葉だけのお説教の方が私には効く。しかも助け舟を出してくれるお母さんはもういない。


「あの、岩砕先生」


 その声は、私のスマホから聞こえてきた。


「む」


 パパが反応する。


「まだ通話中だったのか。恥ずかしいところをお見せしてしまったな」

「いえ。切ろうかとも思ったんですが、雷華さんが心配で。ちなみに雷華さん、まだ息してます?」

「してるしてるマジしてる。琴刃、絶対切らないで。私、このままじゃ説教に殺されちゃう」

「でも、そもそもは真面目に勉強しなかった雷華さんが悪いんですよね?」

「そ、それはそうだけど、高校の勉強マジむずいじゃん。私そんなに賢くないからお手上げだし」

「がんばって勉強して、でも点数が取れなかったというのであれば仕方がありませんが、雷華さんは違います。テスト前日の夜、私に電話をかけてきて『ノー勉でもワンチャンいけるっしょ』とか言ってましたよね?」

「あ、あれー、そうだったっけー」

「テストが終わっても復習などせず、『めっちゃすっきりした。琴刃、今週どこ遊びに行く?』というメッセージを私にLINEで送っていますよね?」


 琴刃まで説教をおっぱじめた。マジ窮地。冷や汗だらだらなんですけど。パパなんかもう怒りで体がいつもの1.5倍ぐらいの大きさに膨れ上がってるし。


「雷華、これはどうやら性根から叩き直す必要がありそうだな。夏休みはパパ自ら、お前に勉強を叩きこんでやる」

「いえ、岩砕先生。成績は根性論では改善されません。先生が厳しく指導してもますます勉強を嫌いになるだけでしょう」

「確かに一理あるな。しかしならばどうすれば?」


 一拍置いて、スマホから返答があった。


「私が教えます」


 ん? なんか流れが変わった気がしないでもなくなくない。


「幸い、明日から夏休みで時間はたっぷりありますし、まだ高一の一学期が終わったばかりですから、焦らずに一つ一つ基礎を押さえていけば大丈夫だと思います」

「だが、こんなバカに付き合うのは君の迷惑にならないか?」

「とんでもないです。人に教えるのが一番の勉強とも言いますし、私自身、一人で勉強するよりも、その、と、友達と一緒の方ががんばれますし」

「それな!」

「お前は黙ってなさいっ」


 パパが吠える。私泣く。

「どうでしょうか? 先生。雷華さんのこと、私に任せてもらえますか?」

「是非もない。聡明な君になら娘を安心して任せられる」

「では、これにて手打ちということで」


 琴刃すごい。パパを納得させちゃった。


「雷華、この夏は琴刃お嬢さんの言うことをよく聞いてしっかり勉強するんだぞ」


 パパはそう言って部屋を出て行った。

 パパの体重に階段がきしむ音を聞きながら、私はスマホに泣きつく。


「琴刃ー、マジ怖かったよー。助けてくれてほんとありがと」

「いえ、雷華さんにはいつもお世話になっていますから、このぐらいは」


 ちょ、マジ他人行儀。


「っていうかさー、そろそろさ、名前呼び捨てにしてよ」

「いきなり話変わりましたね」

「いや、話題的にはいきなりだけど、私はずっと思ってたし。いつになったら『雷華さん』じゃなくて『雷華』って呼んでもらえるんだろうって」

「雷華さんの気持ちはわかりました。明日から善処します」

「えー、今今今。今呼んで」

「夜も更けてきましたし、そろそろ電話切りますね。おやすみなさい、ら、雷華」


 瞬間、私のテンション激あげ。


「ちょ、もう一回もう一回」

「もう切ります」


 マジ有言実行の琴刃は私の次の言葉を待たずに通話を切ってしまった。でも私たちの絆は永遠に切れない。うわっ、私、超ハズイこと思ってるかも。


 通話が切れたスマホに向かって私はつぶやく。


「おやすみ、琴刃」


 誰かの安眠を祈れることより幸せなことってこの世にないと思う。マジで。


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