表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤクザの娘行きつけの〇〇  作者: 仙葉康大
第五章 ヤクザの娘行きつけの道場の娘
33/50

ドリンクバーにて

 制服に着替えた琴刃と道場を出る。話しながら歩いていると、私のピンクの傘と琴刃の紺色の傘が時々かすかに触れ合ってマジエモい。


「てか、一高の制服すげーいいね」


 一高は県立定北じょうほく第一高等学校の略。県内で一番頭いい学校。琴刃はそこの制服を着ている。黒のセーラー服が黒髪によく似合ってる。


「雷華さんの私服も素敵です」


 Fuck you!って言葉がプリントされてる長袖Tシャツにホットパンツ。この私のコーデほめるとか、琴刃マジわかってる。


 駅が近づいてくるにつれてお店が増えてきた。


「てか何食べる? 稽古の後だからおなか減ってるっしょ?」

「そうですね。雷華さんは何か食べたいものありますか?」

「私はどっちかっていうと食べたいっていうより、話したいって感じだからなー。そうだ。たくさん食べれて長居できて、しかもメニューも豊富なとこ知ってっからそこ行こ」


 そうして私たちが行きついたのがファミリーレストラン「サイゼリア」。店内は土曜の昼ということもあってけっこう混んでる。琴刃を壁側のソファ席に座らせ、四角いテーブルを間に挟み、私は椅子に座る。


 琴刃は物珍し気に辺りをきょろきょろと見まわしている。


「どったの?」

「実は私、ファミリーレストランに来るの、初めてで」

「マ? 初ファミレス?」


 うなずく琴刃。その瞳に薄暗いものが走る。


「私の家はあまり家族で出かけたりしないもので」

「へー。まあ、言うてウチも最近は全然だけどねー。パパと二人でファミレス来ても、なんだかなあって感じになっちゃうし」


 あ、やばい。この話題やめた方がいい。私は明るくメニュー表の「やわらかチキンのチーズ焼き」を指さして言う。


「これとかマジおすすめ」

「ではそれにします」

「おけ」


 ボタンを押して店員さんを呼び、注文を済ませる。


「あ、ドリンクバーもセットでお願いします」

「ドリンクバー」琴刃がそう呟いているのが聞こえた。これはドリンクバーがどういうものかもわかってないっぽいな。


 私は琴刃の手を引いてドリンクバーへ連れて行った。


「ここにあるやつ、なんでも、何杯でも、飲んでいいんだよ」

「すごいサービスですね」


 琴刃は機械に表示してある飲み物の種類を念入りに見て、どれ飲むかマジ吟味中。

 私はコーラをコップに注ぎながら聞いてみた。


「てか、学校どんな感じよ?」

「特に問題もなく、日々が淡々と過ぎて行っている、という感じです」

「あー、一高治安よさそうだもんね。ウチの学校、マジバカばっかでさ、ま、私もあんま人のこと言えねーけど」


 席に戻り、引き続き学校生活のあれこれについて話す。


 琴刃は話すとき、こっちの目をまっすぐ見る。でも怖い感じはしない。何だろう。強いって感じ? 私の語彙力じゃうまく表せないんだけど、ぶれないっつーか、隙を見せないっつーか。


 料理が来たので話題を変える。


「っていうか、なんで護身術習おうと思ったし?」

「それは――」


 はじめて琴刃が目をそらした。


「あ、言いにくいことだったらマジ言わなくてオッケーだから。単に興味本位で聞いてるだけだし」

「いえ、言います」


 琴刃は深呼吸して言う。


「親がヤクザでして、それで、自衛のために」

「それマ? ヤクザの娘ってこと? いやいや全然そんな風には見えないんですけど」


 だってヤクザの娘ってもっと恐いイメージあるし。パツキンとかでさ、耳にピアスあけてて、不良たくさんはべらせてて、煙草とかも吸っちゃってる。そういうザ・不良少女的なのを想像するじゃん、普通。でも、琴刃は真逆だ。黒髪で、制服を校則通りにちゃんと着こなしていて、誰もはべらせてない。てか、パツキンなのは私の方だし。


 マジ卍だわ。


「黙っていてごめんなさい」

「いや、全然謝るようなことじゃねーし。でも護身術習うってことは狙われてたりすんの?」

「わかりません。でも、狙われててもおかしくはないです。父は若頭で、祖父は組長ですから」


 私はもう笑うしかなかった。ヤクザの組長の孫娘ってなんじゃそりゃ。フィクションかよって感じ。でも、これはれっきとした現実で、私の目の前にいるこの子は、十五、六年間、ヤクザの娘として生きてきたんだ。そう思うと、マジすごい。すごい。


「いやー、JKになって友達めっちゃ増えたけど、ヤクザの友達は初めてだわ」

「友、達?」

「ちょ待って。そう思ってんのまさか私だけのパターン?」

「いえ、もちろんそうであれば嬉しいのですが、まだ今日会ったばかりですし」

「いやいやいや、一緒にサイゼ言ってドリンクバー頼んだら、それもう友達じゃん」


 一瞬間をおいて、琴刃はマジ几帳面にお辞儀した。


「よろしくお願いします」

「こちらこそだし」


 ふと、窓を通して外を見ると、雨雲の切れ間から細い太陽光線が斜めに地上へと降り注いでいて、インスタ映えしそうな景色だなーと思った。けど、そんな光景を写真に切り取るより、今は琴刃と話をしたい。私たち正反対なはずなのに、なんか琴刃って話しやすいから謎。なんか、今日会った気がしないっていうか、どっか、マジ心の深いところでつながってるっつーか。ダメだ。うまく伝わんない、この感じ。もどかしすぎてマジ卍。


 ちょうどコップが空になったタイミングが同じで、私たちはドリンクバーに行って、今度はいろんな飲み物を混ぜて、マジおぞましい色した全混ぜジュースを作った。


 一口飲んみる。

 うまい。


「ちょ、これ琴刃も飲んでみ」

「わ、私はいいです」

「一口だけ、マジ騙されたと思って」


 私の押し売りに押し負けて恐る恐るコップに口をつける琴刃。


「お、おいしい、ですね」

「それよ。マジ意味不明だけどマジうまし」


 私たちは全混ぜジュースのおいしさにひとしきり盛り上がった。


 こんなにまずそうな色してるのに、飲んでみると意外においしい。人生もそれと同じようなもんなのかなって思ったりした。いきなりお母さんが交通事故で亡くなって、この先の人生に楽しいことなんてきっと一つもないんだろうなって思ったりもしたけれど、やっぱり、生きてみると楽しいときもある。今みたいに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ