ハッシュタグの水色が
マジ梅雨。外出る気しねー。今日は郊外のショッピングモールまで出かける予定だったけど、こんな天気じゃバイブスあがんない。そんなことを思っていたら、友達からLINEが来た。
――今日さあショッピングモール行くって言ってたけど、なしよりのなしじゃね?
すぐ返信する。
――それな。また今度天気よき日に行くしかねえべ。
――おけまる。
これで今日予定なんもなし。てか今日土曜じゃん。午前中は道場休みだからパパヒマじゃん。マジテンションあげみざわ。久しぶりに稽古つけてもらっかな。柔道とか剣道とか空手とか毎日やるのはだるいけど、時々やるのは超楽しい。パパの巨体を一本背負いするのとかほんと最&高。
居間に行く。誰もいない。台所、風呂場、トイレ。どこにもパパはいない。外に出かけたのかなと思って玄関を出てみると、ちゃんと車はある。
「これ、マジどういうことよ? ミステリーじゃん」
ダメもとで道場の方にも行ってみる。したらパパの声が聞こえてきた。女の子の声も。
道場の下の方についてる、マジ細長い窓から中をのぞく。パパ発見。それとめちゃくちゃきれいな女の子も発見。黒髪なっが。でもってあの目なに? めちゃ切れ長、めちゃきれい。てか私と同い年ぐらいじゃね?
私は急いで入り口の方に回り、マジ立て付け悪すぎる戸をぎこぎこ引いた。
「てかマジたのもーじゃん」
礼をして道場に足を踏み入れる。こういう作法はちゃんと守らないとパパ激おこぷんぷん丸だかんね。
「ら、雷華っ」
パパ、驚きが顔にですぎっしょ。黒髪ロングちゃんの方はマジポーカーフェイス。でも私の読みだとかなりびっくりしてるね。
「お前どうしてここにいるんだ? 今日は友達とショッピングモールへ行くと言ってたじゃないか?」
「ああ、あれキャンセル。梅雨で湿気マジぱねーし、外とか辛気くせーぐらいに雨降ってんじゃん。それで私もダチもテンションさげぽよで、なしよりのなしじゃねってなって、今に至るっつーわけ」
私が言葉を発するたびに黒髪ロングちゃんの目がどんどん見開かれていく。あと顔色もどんどん青ざめていってるよーな。
「てか大丈夫? 顔色悪くない?」
「だ、大丈夫です。すみません」
「いや、謝ることないし。つーか私、岩砕雷華。パパの娘。しくよろ」
「あ、火口琴刃です。よろしくお願いします」
私はリズムよくステップを踏みながら琴刃に迫る。
「琴刃ってさ、いくつ? つーか、もしかしてタメじゃね? どこ校よ? いやいやいやその前にこれだけは言っときたいんだけど、琴刃ってめっちゃ美人じゃね? 普段何くってんの? ダメだ。聞きたいこと多すぎ。とりま今からどっか喫茶店かファミレスでも行って話そ」
まばたきを繰り返す琴刃。マジ面食らってるっぽい。
「雷華。琴刃お嬢さんは昼まで稽古だから、遊びに行くならその後にしなさい」とパパ。
「了解道中膝栗毛。またあとで」
私は満面の笑みで琴刃にしばしの別れを告げ、道場の隅っこに寝っ転がり、待ちの姿勢を整える。スマホをだらだらいじっていると、体感十五分ぐらいでもうお昼。時経つの早すぎかよ。
「ねえねえどこ行く? あ、その前に着替えるっしょ」
稽古が終わるや否や私は猛スピードで琴刃の背中を押して道場を出る。そして手を取り、屋根付きの渡り廊下を更衣室の方へと駆ける。琴刃がとまどい百パーセントの生きてる表情で私に言う。
「あ、あの、本当に今からお出かけするんですか?」
「とーぜん。あ、やべー。もしかして何か予定入ってたりする? 私、一人で突っ走っちゃった?」
「いえ、特に予定はないんですけど、私たち、今日会ったばかりですし」
「いやそれよ。マジ奇跡じゃね」
「奇跡?」
「そうそう。地球には人間どんだけいんだよってぐらいいるじゃん。吐き気もよおすぐらい人間うじゃうじゃしてるこの星で、私と琴刃、一人と一人が出会ったのってマジ奇跡じゃね?」
そんなことをのたまってるうちに更衣室の前に到着。
「琴刃はどう思う?」
「私は――」
視線を斜め下に下げてから、唇を引き締めたかと思うと、キッと強いまなざしを前へ向ける琴刃。
「私も、そう思います」
「うぇーい」
私は上空へ手を突き出した。琴刃がきょとんとする。
「ハイタッチ」
「あ、はい。すみません」
ワンテンポ遅れてのぎこちないハイタッチ。
「では着替えてきますので、しばしお待ちくださいますか?」
「おけまる」
私がそう言うと、琴刃が難しい顔をした。
「桶、丸、とは?」
「オッケーってこと。おけまる?」
「はい。おけまるです」
琴刃は更衣室の中へ。
ちょっと話した感じでわかる。琴刃、絶対いい子じゃん。一緒に出かけるの、すごく楽しみ。この気持ちを誰かに話したい。共有したい。
私はいまだに雨を吐き出し続けている雨雲をスマホで撮ってインスタにあげる。
#出会い #マジ梅雨に感謝 #アオハル
ハッシュタグの水色がやけに澄み切っていて、私はなんだか泣けてきた。不特定多数の誰かと共有したい感情なんて本当はないってこと、自分が一番よく分かってるから。
お母さんに会いたい。




