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ヤクザの娘行きつけの〇〇  作者: 仙葉康大
第二章 ヤクザの娘行きつけの図書室
13/50

雑用と告白

 ダメよ。


 ナイフとフォークの音だけが響く無言の夕食の最中、私は自分に言い聞かせる。


 演劇部に入るなんてお母様が許してくれるはずがないわ。だから、演劇部に入りたいなんて言っちゃダメ。


 いっそのことお母様には内緒で入ってしまおうかしら。


 演劇部の活動は平日は毎日。だけど、毎日来る部員の方が少ないと聞いた。水曜日は図書当番で出れないとして、他の日は十七時半ぐらいまでなら出れる。塾の講義は十八時からだから。


 どうしよう。どうしよう。どうしよう。


「お夜食も作ってあげるから、ちゃんと勉強するのよ」


 お母様はそう言うと口元をナプキンで拭いて、食べ終えた食器を台所へ持っていってしまった。


「はい」


 私は誰もいない席に向かってそう返事した。


====================================================================


 水曜日。


 朝、ホームルームが終わったあと、なぜか担任の先生が私のもとに来た。


「すまん。神崎。お前の後ろの席の後藤、今日来てないだろ?」

「はい」

「まだ連絡がとれなくてな。もし登校して来たら、先生のとこ来るよう伝えてくれんか?」

「わかりました」


 案の定、一時間目の終わりに後藤さんが登校してきたので、担任の先生のもとへ行くよう伝える。


 二時間目は数学。数学の先生は黒板に数式を書いては消し、書いては消し。授業が終わってから私のところに来て、


「黒板消し、かなり汚れたからきれいにしとくよう誰かに言っておいて」


 と言って教室を出て行った。あの数学の先生は去年の私の担任で、だから、私に声をかけやすかったのだろう。でも生徒に雑用を頼むとき、誰かに言っておいてって相当無責任だわ。


 私が黒板消しをクリーナーにかけて席に戻ると、段ボール箱が机の上に置かれていた。


「神崎さん、ごめん」


 後藤さんが両手を合わせて言う。


「さっき担任からさ、古文の新しい問題集が届いたから配っておくよう言われたんだけど、私、ちょっと忙しいから、神崎さん、お願いできる?」

「ええ。配っておけばいいのよね?」

「そうそう。今日中ぐらいでいいからさ」


 後藤さんはそう言うと、教室の後ろに集まっている派手なグループの輪に入り、スマホを見ながらおしゃべりしだした。


 伝言を頼まれるぐらい何でもないし、黒板消しをきれいにするぐらい何でもないし、問題集を配るぐらい何でもない。でも、何か嫌な気持ちが少しずつ心の中に積もってゆく。


 昼休み、私はクラスの中でもおとなしめの子たちと一緒にお弁当を食べる。一人で食べるのは恥ずかしいから。でも本当は、誰に気兼ねすることもなく一人でご飯を食べたい。適度におしゃべりしながらお弁当を食べるというのはそれなりに疲れる。


 食後、胃薬を飲んでいたら斜め後ろから声をかけられた。見ると男子生徒が立っていた。


「神崎さん、ちょっと話があるんだけど」

「はい。何でしょう?」

「えっと、ここじゃなんだから、別の場所で」


 頬をかきながらそう言う男子を、みんながはやしたてる。


「お? 田中、告白か?」

「バカ、ちげーよ」


 渡り廊下をわたって、特別教棟四階の空き教室というめったに人の来ない場所に到着するやいなや、彼は言った。


「あのさ、新しいクラスになってまだ一か月もたってないのにこんなこと言うの、自分でもおかしいと思うんだけど、好きだ、付き合ってくれ」


 さっきはちげーよとか言っていたのに、結局言うことは愛の告白。この人、頭おかしいんじゃないかしら。


「ごめんなさい」

「他に好きな奴とかいんの?」


 ああ、もう。他に好きな奴がいようといまいと、あなたと付き合う気がないからごめんなさいと言っているのに。どうしてわかってくれないのかしら。


 私は言葉を選びながら受け答えする。


 相手をあまり傷つけないよう、でも、付き合う気は全然ないことを上手く伝えなきゃならない。脳みそがすごく疲れる。


 掃除の曲がかかったタイミングで、私は走ってその空き教室をあとにした。

 胃薬を飲んだばかりなのに早くもお腹が痛み始めていた。

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