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先ほどの部屋から10分ほどでついたここ、体育館もとい訓練場は。
どうやら尋常じゃない敷地が使われていることが判明した。
カーホーゴの中でも、いやシンパーイ王国内で最もでかい室内施設。
それがこの訓練場Aである。
自主トレのために常時解放されており、この中での魔法などの一切は使用可能である。
「まずは、この学校の伝統をやっておくか。」
「へ、、どんなものですか?」
「うむ、戦闘である。」
「おい見ろよ、新入生だ。」
「相手はあのライジンか、こりゃ大変だ。」
「おーい、誰か担架や養護教員を用意してくれ、ライジンと新入生の手合わせだ。」
ルールは簡単。
殺し・外部の手助け以外はすべてOK。
範囲はこの人垣。
「いきなり戦闘だなんて思っていませんでしたよ。」
「ああ、俺も昔経験したが、ひどいものだ。だがこれは歓迎式のようなもの、と受け取ってくれ。」
仕方ないってことか。
「始めぇ!!」
勝手にどこかの誰かが開始の号令をかけ、それに驚きながらも武器を取り出す。
「む!?」
俺の得意とする武器は鞭である。
この鞭の訓練には相当てこずったが、使い手の希少さと軌道の読めないところから習ったものである。もちろん他の武器の訓練をすべて終えてから。
なので、ライジン先輩の使うハンマーとは相性がなかなかにいい。
「むんっっっっっっ!!」
大きく振りかぶったその巨大な獲物は、もちろん俺に届く距離にないので地面にあたる。
狙いはおそらく地面に電気を流すことであろう。カウンターに合わせて発動する魔法のはず。
この人の身のこなし的に、というか周りに魔法を張り巡らせていることから、短い鞭の使い手に出会ったのだろう。
しかし、俺の鞭は3メーターを超える。
鞭をふるう。下から救い上げるように右腕に向かって鞭の不可思議な軌道が移動する。
ライジン先輩は雷を使って身体能力を向上させているようだが、それに意味はない。
「ぐう!!」
鞭は武器では止められない。
「ぬううああ!!」
止まることのない中距離からの攻撃。
俺は鞭をふるいながら立ち位置を変え、常に相手の少し横に行く。
ライジン先輩は突っ込めない。
「雷撃!!」
雷撃、中級魔法だな。
こんなに早く使えるのは驚いた。
とりあえず、俺の魔力も雷らしく、増幅されては困るので逃げるとしよう。
「まったく、とんだ奴だ。俺が一方的にやられるとはな。」
そういって先輩は籠手を外した。
「さあ、目覚めろミョルニル!」
途端にハンマーに強く輝く雷がまとわりつく。
かなりの熱量なのか、ハンマーが赤く光っている。
「さて、これはどうしたものか。」
「よし、行くぞ。」
そういって突っ込んできた先輩の速さは、尋常じゃあなかった。
具体的には、俺の目の前にハンマーがあることに気が付かなくなるような速さだ。
「はあ!」
間一髪で体を引き、かわす。
それでも二回目はかわせないか。
「強かったぞ、キール。」
なんだ、急に景色が変わった。
これは、走馬灯…?
「父からの助言だ、キール。」
これは、俺が机上の空論を述べた後の出来事、か。
「いいか、いずれ、理想を語るな、という者がお前の前に出てくるだろう。だが理想を語れぬ者ほどつまらないものはいない。今、お前が、どうしたいか。考えろ。感じろ。目指せ、全力でな。そして存分にあがくがいい。それを人は努力という。」
懐かしいな。
そうだ、あがかなきゃ。
「いざというとき、手数は多い方がいいだろう?俺が直々に教えてやろう。」
「魔法をな。」
そうだ、思い出した!!あまりに簡単に使えたから、つまらないと思ったこの魔法。
使い方は確か、こう、だよな。
「朧月」
その瞬間、文字通り体に電気が走った。
この魔法、身体能力の底上げか。
そう思うや否や、目の前のハンマーを掌で受け止める。
「なにぃ!?」
そのまま押し返す。
咄嗟に後ろへ下がる先輩。
だが遅い。左手に持った鞭が先輩を襲う。
無我夢中ではない。自然体で、ゆったりとリラックスしながら放った一撃は雷をまとっていて。
あたかも雷のように走った。
先輩はよけることかなわず、膝をつく。
先輩が顔を上げる前に、とび膝蹴りを叩きこむ。
そして先輩は倒れた。
それと同時に歓声が上がり、俺の意識がぬるりと現実の時の流れに合わさっていった。
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ところで最後のとび膝蹴りはやりすぎではありませんでしょうか・・・?」