プロローグ
机上の空論を考えたことがある。
確か、戦争がまだ始まる前に、父上からの情報をもとに自力で考えた。
内容は、いまいち覚えていないけれど。
火を使っていた気がする。
夢の中を再現すれば、きっと負けないと思ったのだろう。
あれから、十年たった。
もちろんその戦争には俺の策は使われることはなかったし、父上も元気に伯爵をやっている。
今日から士官学校に行くこの朝、なぜこんな自分語りをしたのかはわかっている。
緊張しているのだ。
どれほどの戦略やらを練られる奴がいるのか。
どれくらい魔力の強い奴らがいるのか。
あまり外に出させてもらえなかったが、15になってようやく見れる。
楽しみで仕方がない。
「キール様、起床の時間です。」
鈴を鳴らす。そうすれば勝手に使用人たちが入ってくる。
着替えは自分でする、そう言いたいのはやまやまだが彼らの仕事だ。
心なしかメイドが増えてきている気がする。執事たちが周りにいないのだ。
唯一の専属執事、クロードの外見も実質メイドだから、もう俺の周りにはメイドしかいないのかもしれない。
「キール様、なにか?」
「ああ、すまない、なんでもない。」
俺に直接口を利ける立場なのもクロードだ。
まいったな。これでは全寮制の学園で、俺の世話をする者がいないのではないか?
「もしかして、俺の専属って学園にはいったらいなくなるとか?」
「急にどうされましたか、坊ちゃま。」
かくかくしかじか。
「なるほど、ご心配なされているのですね、このクロードめがいなくなってしまうのを。」
やかましいわ。
「ですがご安心を。キール様は大切なヤスパース家のご嫡男にございます。専用の部屋がございますので、わたくしたちもともに学校へ参り、ご世話をさせていただきますとも。ええ。」
なんでそんなにうれしそうなんだこいつは、いや周りのメイドたちもじゃないか。
くねくねするな。俺の頭をなでるな。ボディタッチが多い。
つまり、、、
俺は過保護から逃げられないってことか。
このシンパーイ王国の最もハイレベルな軍学校、カーホーゴ士官学校には、毎年多くの士官候補生が来る。そして、魔力や技術、戦略的思考を高めていくことをメインにしている。
貴族はご恩と奉公の関係により、ここに必ず入学しなければならない。
また、試験は必ず受けて、その習熟度別にクラスが分かれているらしい。
そのクラスの割り振りが今日、つまり入寮の際に明かされるのだ。
寮生活はもちのこと、クラスが何になっているのかが楽しみだ。
「おお、やった、Aだ。」
「おめでとうございます、坊ちゃま。」
向こうではどこかの貴族が、老齢の執事とともに喜んでいる。
俺も早く見たい。
えーと。134,134、と。
「え、S??」
「さすがでございます。」
メイドたちが拍手喝采。クロードに至っては感無量で泣いてまでいる。
先に調べてわかっていたと言っていたのに。あれは俺をからかったのか。
「こんにちは、キール様。Sクラス、おめでとうございます!わたくし、ミーア・シャルルと申します。わたくしもSクラスに入ることとなりましたの、以後お見知りおきを。」
え、誰。
いや初対面なんだが??
なんで名前知ってんの??
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。あなたのような見目麗しき方と同じクラスとは、恐れ入りますが、どうぞ良しなに。」
「まあ、麗しいだなんて。お上手ですね。」
「いえいえ、事実を述べたまでですよ。」
くそったれ、シャルル家ってどこなんだよ。
え?男爵家の娘?俺に取り入ってきている??
まあ、貴族だし、格上には挨拶をしに行くものなのか。
「ところで、わたくし、本日ここに参りましたので、右も左もわからない所存にございます。男子寮がどこにあるかご存じですか?」
「ええ。ですが、これから上級生の方が迎えに来てくださるそうです。しばらく待っていませんこと?」
ええ、それ初耳なんだけど。
「少しお話でもしていきませんか?」
これはあれだ、いわゆる媚ってやつだな。
「かしこまりました、あなたのことをお聞かせいただけませんか?」
その後少し話して、ミーア・シャルルとは打ち解けた。
どうやら彼女は婚約者を探さねばならないらしいのだが、そのようなことを言っていいのか。
もしや俺にモテ期が?
「それはあり得ませんのでご安心を。」
死ねクロード。
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