6:山賊の襲撃
馬車を襲った山賊たちは、下卑た笑いを浮かべながら二人を取り囲む。
『おい、女の方は殺すなよ。お楽しみが待ってるんだからよ』
『当然だ。こんな上玉、滅多にお目にかかれるもんじゃねえ』
どうやら賊と言う者はどこに出没しようがやらかす内容は大体同じらしい。ダイは嫌悪感を露わにしていたが、宰相の息子たちは冷ややかなものだ。
「ダーク、妹が心配ではないのか」
「少しでも可愛げのある妹であれば、心配の一つでもしますがね」
「私もモモ様が同じ目に遭っていれば、相手を即座に殺しています。いや、生まれた事を後悔させてやりますよ。ですがクロエ嬢となると……正直、ざまあみろとしか」
(聞いたかクロエ、貴様はこれほどまでに男に嫌われているんだ。そんな貴様が俺に好かれているなど、よくも勘違いできたものだな?)
「そう言う殿下はどうなんです、元とは言え婚約者の危機でしょう」
「俺もお前たちに同感だが……シンが殺されでもすれば、モモが悲しむ」
本当なら彼がクロエの護送についていく事も、涙を零して反対していたのだ。もしもの時を考え、この上映会にモモは参加させていないが、正解だったかもしれない。いくら虐められていたとは言え、あの優しいモモに令嬢が山賊に襲われる様を見せる訳にはいかない。
とその時、背中に庇われていたクロエに向かい、一人が剣を振り被り突っ込んできた。シンも真正面からの相手に手間取って間に合わない。
終わった、と思った。
トスッ
『…え?』
ドサリ、と背後で物音がした。ブローチはシンの胸元に着けられているため、こちらからは何が起こっているのか分からない。何とか仕留めてから振り返ると、そこには連射式クロスボウを構えたクロエと、足を抱えて蹲る賊の姿があった。
『お嬢様、それは……?』
『時間がないからこんな物しか持って来られなかったのよ。まあシンがいるし、一応護身用として役には立ってくれたわね。殺傷能力は低いから、文字通り足止めにしかならないけど』
小型のクロスボウは、革袋に入れて持ち歩いていたようだ。あり得ない話ではなかったとは言え、山賊の襲撃を予期していたかのような準備に、末恐ろしいものを感じる。まさか、聖女の力? …いや、あいつは偽物のはず。
『私って何かと敵が多い立場だから…聖女としても、王子妃候補としてもね。だから護身術の習得はきつかったけど、今となればつくづく覚えておいてよかったわ』
全員倒した後、縄で動けなくした彼らを転がしながら、クロエは苦笑いした。