295:王太子との密談の裏側
「やあ、クロエ嬢。わざわざ出てきてもらって悪いね。貴女たちの意識が戻ったと兄上から聞いていたけれど、その後の体の具合はどう?」
「はあ……お陰様で」
宿の外に設置された丸テーブルの席に座らされた私は、困惑しながらも視線は珍妙な模様が描かれたテーブルに貼り付いていた。どうやら魔力で描かれたものらしいが……描いた本人は優雅にお茶を飲んでいる。
「あのー……」
「ああ、そうだね。忘れるところだったよ」
恐る恐る切り出すと、イエラオ殿下はクスッと笑って指を鳴らした。その瞬間、テーブルの紋様が輝いて二人を包み込む。宿の中から「うわっ」「何だ!?」と声が上がる。
「!?」
「こんな風に、誰が聞いてるかも分からないからね。護衛を下がらせる訳にもいかないし、監視されながらでも知られたくない話をするには打ってつけだよ」
「ああ、これは魔法陣だったんですか……静寂魔法、ですよね」
王子殿下はお二人共通常魔法の使い手なのだが、レッドリオ殿下は攻撃魔法、そしてイエラオ王太子殿下は主に補助魔法が得意だった。
それにしても、さっきの声……パタパタと服を叩いて確認したところ、ベルトの背中あたりにブローチが取り付けられていた。シンの仕業なのだと思うが、さすがに王太子殿下相手に盗聴となるとまずくない?
無言でテーブルの上に差し出せば、動揺した様子もなく、イエラオ殿下はクスクス笑いながらブローチを弄りスイッチを切った。
「僕は兄上と違って攻撃魔法の習得が苦手な分、こう言うのは得意なんだよね。さ、邪魔者がいなくなったところで本題に入ろうか……報告は聞いたよ。モモ嬢の三年間の記憶を全て消したんだって?」
声のトーンを落としたイエラオ殿下に合わせ、自然と背筋も伸びる。これは、和やかなままで終わる話ではなさそうね。
「……結果的にはそうなりましたけど、正確には前世の意識が絡んでいる記憶の全てです。モモは――モモ嬢は今この世界を生きている人間としての自分を否定しました。あくまで『ゲーム』のプレイヤーとしての自分の器に過ぎないと……それが幸いして、人格だけを消す事ができたんですけどね。もし完全に混ざり合っていたら、下手すると赤ん坊まで退行していたかもしれません」
淡々と報告しながら、殿下をちらちらと窺う。私が気絶していた間の事は、みんなから聞いている。もしモモがあのままだったなら、イエラオ殿下がどうするつもりだったのかも。
「あの……それで、モモ嬢の処遇は」
「聞くまでもないよね? 彼女のした事は、国の未来を担う王侯貴族の子息たちを誑かし、婚約者を王都から追放。その上、魔女になって王国に牙を剥いた。その報いは、きっちり受けてもらわないと」
「『彼女』のした事ではありません!」
思わず声を荒げてしまう。そりゃあ、前世の彼女は報いを受けるだけの事はしたけれど。今の……あのモモを裁くと言うのなら、私が必死にやってきた事は何だったのよ!?
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